5.魔法神の神殿にて
僕たちは地母神ガイア様の神殿を出て、再び馬車に乗って次の目的地を目指す。
ちなみに、父様から説明することがあるらしく、僕の乗っている馬車にエアリスも乗っている。
父様は俺たちに向き直り、姿勢を正して語り始めた。
「さて、お前たちに説明しなければいけないことだが、そもそも祝福とはなにか、という話だ」
「祝福ですか?」
「ああ、祝福だ。平民から王族、どんな子供であっても、五歳から八歳の間にはいずこかの神殿、または協会などで祝福を受けることになる。協会や神殿のない農村では、三年おきに国から派遣される神官によって祝福が授けられることとなっているな」
それは知らなかったな。
まさか、神官を派遣させてまで祝福を授けているなんて。
「そうなんですね。つまり、祝福を受けることは儀式的な意味合いだけではなく、なにかしらの理由があるということ?」
「そうだ。そして、その理由だが、人の中に宿っている魔力の開放を行うために祝福を受けることとなっている」
「魔力の開放、ですか」
そういえば、僕の場合はどうなるんだろう。
朝の時点で、ロキによって解放されていたのか。
先程のガイア様の神殿で、解放されたのか。
「そうだ。普通であれば、祝福を受けるまでは魔力を扱えないため、魔法などは一切使用できない。もちろん、例外的に祝福を受ける前から魔力を扱える子供もいるが……そういった子供は数万人に一人とも言われているな」
「そうなのですね、お館様。それでは、先程から妙にふわふわした感覚なのは……」
エアリスは先程から妙にそわそわしているというか……落ち着きがなかった。
これって、やっぱり関係があるんだろうか?
「魔力が解放されたためだ。一般的な子供であれば、魔力を解放された直後は感覚が不安定になり、体のだるさを感じたり、気持ちが落ち着かなくなったりするものだ」
「父様、僕はなんともありませんが……」
「何事にも例外はある。お前はその例外のほうであろう。今朝に魔剣を授かったのも関係があるやも知れないな。あれは、お前の魔力で構成されるという話であるし」
「……確かに、そうかも知れません。でも、これで魔剣を呼び出すまでの時間が短くなったりするのかな?」
取り出すだけで十五分の武器とか、あっても役に立たない。
せめて数秒で実体化できるようにならないと……。
「それは試してみないとわからぬ。……そういえば、その杖はこのまま持ち歩かねばならないのか?」
「浄化の宝杖ですか。えーと、少し待ってください」
魔剣ソウルイーターは、僕が魔力を流せば消すことができた。
浄化の宝杖も似たようなことができるのかな?
そう思って、杖に魔力を流してみると、急に頭の中に知識が流れ込んできた。
不思議な感覚だったけど、これでこの杖の使い方も理解できたよ。
「リターン」
僕がキーワードを言ったことにより、浄化の宝杖が消え去った。
そして、
「コール、浄化の宝杖」
反対に呼び出すためのキーワードも試してみる。
そうすると、再び僕の手の中に浄化の宝杖が現れた。
「……ふむ、魔剣に比べると格段に扱いやすそうだな。キーワードひとつで出し入れ可能とは」
「そうですね。魔剣も、これくらい簡単に出し入れできればよかったのですが……」
「そちらは、お前の頑張り次第というところだろう。……もうすぐ、魔法神様の神殿に着く。杖はしまっておけ」
「わかりました。リターン」
浄化の宝杖をしまったのとほとんど同じタイミングで、馬車の速度が落ち始めた。
どうやら目的地の近くまで辿り着いたらしい。
やがて、僕たちの馬車は大きな神殿の前へと辿り着き、停止した。
「さて、ここが魔法神様の神殿だ。ここでは魔法適正や現時点での魔力量などを調べてもらうことになる。カイトもエアリスも準備はいいか」
「はい、お館様。大丈夫です」
「僕も大丈夫です」
「よし、それでは神殿へと向かうぞ」
僕たち一行は馬車を降り、神殿へと向かって歩き始める。
そして、神殿に入ったその時、僕の周囲の景色が一気に変わっていった。
辺りを見渡すと、辺り一面が白い靄のようなものに囲まれていた。
靄の奥には人影が見えたので、まずはそちらに近づいてみることにする。
「……きたか、ロキの選びし少年、カイトよ」
「ええと、あなたも神様ですか?」
「……ああ、そうか。神殿に入ったタイミングで呼んでしまったな。それでは私が誰かもわからぬか」
「その反応ですと魔法神様ですか?」
「その通り。私は魔法神、テミスと呼ばれているものだ。これから顔をあわせることもあるだろう。よろしく頼むぞ」
「はい、よろしくお願いいたします。それで、僕がここに呼ばれたのはなぜでしょう?」
「私からお前に機装を授けるためだ。ガイアが直接渡したように、私からも、ひとつだけではあるが、私の力を込めた機装をプレゼントしよう」
「ありがとうございます。ですが、機装を本来作るためには、コストというものが必要と聞いていますが、大丈夫なのでしょうか?」
「神が直接渡す分には問題ない。……もっとも、直接神から渡すには、その神の神域に来てもらわなければならないが」
「神域、ですか?」
「簡単に言ってしまえば、神殿や教会などだ。もちろん、そう言った場所に行けば確実にもらえるわけでもないが、お前はある程度神殿や教会を巡っておくべきだろう」
「わかりました。戻りましたら、父様と母様に相談してみます」
「それがいい。私から授ける機装は『円環の理』だ。受け取るがいい」
テミス様から光が放たれ、僕の左腕に絡みつく。
光が消え去ったあとには、銀色のブレスレットが現れていた。
ブレスレットには、八色の石がはめ込まれていて、それぞれの石の間は装飾が施されていた。
「無事に円環の理を授けることができたようだ」
「円環の理、ですか? これはどのような力があるのでしょう?」
「簡単に言ってしまえば、魔法を使う時の補助だ。それがあれば、魔法を扱うときの魔力操作や魔法出力などを調整しやすくなる。……もちろん、調整しやすくなるだけであり、基本的な魔力の扱い方は自力で身につけなければいけないが」
「わかりました。ありがとうございます、テミス様」
「うむ。円環の理はコストさえあれば、いくつでも作ることができる。必要であれば、仲間にも渡すといい。コストを支払えなければ、作ることはできぬがな」
「はい。わかりました」
「最初のひとつ目はお前専用だ。ほかのものには扱えぬ。……さて、それでは、元の場所に戻すとしよう。次に会うときまで、さらばだ」
テミス様が手をかざすと、周囲の靄が濃くなり、周りが見えなくなる。
そして、気がつくと、元いた神殿の入口に戻っていた。
「どうしたの、カイト? 急に立ち止まって」
「え? ああ、母様。それが、テミス様に呼ばれたみたいで……」
「魔法神様に? ……カイト、左腕にブレスレットなど着けていましたか?」
「これは魔法神様からの頂き物です。円環の理というらしいです」
「……わかりました。詳しい話はあとで聞きましょう。まずは、神殿で適正などを調べますよ」
「はい、わかりました」
急に立ち止まって母様と話し始めたため、父様たちとの間が少し開いてしまっていた。
なので、少し駆け足気味に追いつき、神殿の奥へと進んでいく。
神殿の中に入ると、そこはたくさんの人であふれかえっていた。
「すごいですね。魔法神様の神殿は、これほどの人が集まるのですか」
「魔法神様は身近な神様だからな。さまざまな者たちが、神殿で祝福を受けたり、魔法についての相談をしたりする。……あそこにある神像が、魔法神様だ」
父様が指し示した先には、白亜の神像が建っている。
それは、先程対面した魔法神様とよく似た神像だった。
「……これは、イシュバーン伯。当神殿にいらして下さるとは光栄です。本日のご予定を伺ってもよろしいですかな」
「ああ、司祭殿か。息子のカイトとカイト付のメイド、エアリスを連れてきた。ふたりの適正と魔力量を計測してもらいたい」
「なるほど、かしこまりました。貴族様となれば、ほかのものには見せぬほうがよろしいでしょう。個室にご案内いたしますので、こちらへどうぞ」
「すまない、手間をかけさせるな」
魔法神の司祭様のあとを着いていき、神殿二階にある個室へと通される。
司祭様は一度出て行ったが、いくつかの道具と数名の神官を連れてすぐに戻ってきた。
「イシュバーン伯、準備は整いました」
「わかった。それでは手数をかけるが、よろしく頼む」
「はい。まずは、カイト様からでよろしいでしょうか?」
「そうだな。カイト、それで構わないか?」
「はい、大丈夫です、父様」
「それでは、カイト様。まずは属性の適正を調べます。こちらの水晶に触れていただけますかな」
「はい。……これでよろしいでしょうか」
「ええ、結構です。そのまま少しお待ちください」
司祭様の言葉に従い、水晶に触れたまま少し待ってみる。
すると、水晶が光を放ち始めた。
光はさまざまな色を含んでおり、部屋の中を色鮮やかに染め上げている。
「……ううむ、これは……」
「……これは困ったな」
「……ええ、少々困りました」
しかし、光の色を見た司祭様や父様、母様は少し考え込むような様子だ。
一体なにがあるのだろう?
「カイト様、もう大丈夫です。お手を離してください」
「はい、わかりました。……それで、僕はどうだったのでしょうか」
「それは……」
「いや、司祭殿。私のほうから話そう」
「……かしこまりました」
司祭様が引き、父様が説明をしてくれるようだ。
父様は僕と向き合い、しっかりと目を合わせて説明してくれる。
「父様?」
「いいか、よく聞け、カイトよ。お前の属性適正は全属性、すなわちオールラウンダーだ。詳しい話は帰ってから改めて話すが、お前はすべての属性に適正がある」
すべての属性に適性があるということは、なんでもできるということでは?
なぜ深刻そうに話をしているんだろう?
「……それは、いいことではないのですか?」
「……適正だけ考えればいいことなのだ。だが、オールラウンダーには問題があってな」
「問題?」
「すべてに適正があるのは事実だ。だが、その分、ひとつひとつの属性を扱うのが難しくなってしまうのだ。詳しくは帰ってから、マイラが詳しく説明してくれるだろう」
「母様がですか?」
「もとより、明日からは私が剣術を、マイラが魔法を教える予定だったのだ。それが一日繰り上がると思え」
「わかりました。詳しくは帰ってから、ですね」
いまは詳しく教えてもらえないらしいし、帰ってからの説明に期待しよう。
「そうなる。……司祭殿、次は魔力量の測定を頼む」
「はい、承知いたしました。それでは、カイト様。次はこちらの布の中心に手を置いていただけますでしょうか」
「ええと、こうですか?」
「はい、そのまま、また少しお待ちを」
布の中心に手を置いたら、そのままの体勢で待ってみる。
すると、手を置いた場所から光があふれ始めて、布の外周部へと広がっていく。
光は、布の外周部まで届き、再び中心部から、今度は青い光が広がり始める。
青の光が外周部まで届くと、今度は緑、そして同じように外周部まで届くと今度は赤い光となり、赤い光が外周部まで届いたら輝きを放ったままになった。
司祭様の様子を窺うと、少し困ったような顔をしていた。
「……もう大丈夫です、カイト様。お疲れ様でした」
「ありがとうございます、司祭様。それで、僕の魔力量はどれくらいだったのでしょう?」
「それなのですが……本日お持ちした計測具では、測りきれない量であった、としか申し上げられません」
「ええと……?」
司祭様の困惑した様子に、僕もどう反応していいかわからない。
「つまり、あなたの魔力量は人並み外れているということですよ」
「そうなのですね、母様」
「ええ。魔力量についても帰ってから詳しく教えます」
「わかりました。よろしくお願いします、母様」
「いやはや、カイト様は普通の子供に比べて桁外れですな。正直、ここまでとは驚きました」
僕が母様と話をしている間に、司祭様も落ち着きを取り戻したみたいだ。
僕を持ち上げてくれても、とくに意味はないと思うのだけど。
「であろうな。私も驚いているところだ。さて、次はエアリスの適正を確認してくれ」
「はい、かしこまりました。それでは、エアリス様。こちらの水晶にお手を」
「はい。……これで、大丈夫でしょうか」
「はい、そのままお待ちください」
今度はエアリスが適正属性を調べるらしい。
エアリスの触れている水晶が光を放ち始めるが、僕の時のようにさまざまな色が混じっているわけではなかった。
光の色は、緑色、青色、薄い青色、この三色だけだ。
「ふむ、エアリス様は風と水、氷の三属性が適正のようですな」
「三属性か、珍しくはあるが、カイトのように難しくはないな」
「そのようでございますね。次は魔力量の測定に移らせていただきます。エアリス様、こちらにお手を」
「はい。よろしくお願いします」
今度は魔力量の測定だけど、エアリスの光は、青の光が布の三分の二ほどまでいったところで止まってしまった。
「魔力量はおよそ3500。いままで鍛えたことのない子供の魔力量としては、かなり多めですね」
「魔力量一万を越えるカイトが特別だったということか」
「そのようです。ですが、いまの時点で3500ということは、今後次第では宮廷魔術士並みにもなりましょう」
「本人がそれを望むかだが……まあ、いいだろう。司祭殿、手間をかけさせたな。寄進はこちらだ」
「ありがとうございます、イシュバーン伯。すぐにお帰りになりますか?」
「……そうだな。帰ってから、説明せねばならないことが多い。すまないが、これでお暇させてもらおう」
「承知いたしました。神殿入り口までご案内させていただきます」
「任せた。……さあ、馬車に戻り屋敷まで帰るぞ」
父様の指示に従い、僕たちは馬車へと戻り、屋敷に帰ることとなった。
このあとも説明があるみたいだし、神殿巡りの話はまた今度にしよう。
////
いつもお読みいただきありがとうございます。
もしよろしければ感想等よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます