異世界神話 セプター 〜世界を斬り裂く銀刃〜

@naginaruko

第1話 仕組まれたボーイ・ミーツ・ガール

「ハァ…っ、ハァ…っ!」




痛てぇ!痛てぇ!痛てぇ!!


俺は走りすぎて痛くなっている横腹を押さえた。


今すぐにも止まりたいが後ろにいる変な男から逃げなきゃ行けない。




「くそっ!」




俺は悪態をつきながら走る。


なんでこんなことに…っ!




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




つい数分前。




「ありがと、おばちゃん」




「まいどありー」




俺は馴染みの本屋で読書するための本を数冊買った。


我ながら結構かったと思う。


まぁ学園を出て、ここまでは結構遠いからな。


俺は露店で買った、赤い果実をかじりながら近道である、路地裏を歩いていると、




「だれかー!助けてー!」




女の子の声がする。


何かに追われ、助けを求める声だ。


俺は手に持つ、本を抱え、迷わずその少女のところに向かった。


助けを求める声を無視すれば、ブライスロード家の恥だからな。






「っ!あ、そこのお兄ちゃん!私を助けて!変な人が!」




「いいぜ。助けてやるよ」




ッダァァン!




俺は振りかぶり、奴の頬を殴りつける。


手応えはあった。


一応、一般人用に手加減したが、普通はこれでのびるはず。


…はずだが、フードを被った線の細い男は、




「ケケ」




気味の悪い笑い方で俺を見ただけだった。


ビクともしない。


しかしなんて目をしてやがる。一瞬背筋がゾッとしたぞ。




「逃げるぞっ!」




「あ、うん!」




嫌な予感がし、俺は少女の手を引いて走る。


俺は後ろを振り返り、奴がはるか後方にいることを確認する。


なんだ追ってこないのか?




そして現在に至る。




……………。




いやいやいやっっっ!ありえんだろ……っ!






加減はしたが、ふらつきもしねぇ!


あいつもしかしてただの暴漢じゃねぇのか!?


俺は2人分の体力を使って走りながら魔法を放つ。




「魔炎弾フレイム・シュート!!」




炎の球がかなりの速度で男を包む。


だが男はケケケと笑い、魔法を手で払っただけだった。


まじかよ魔法もダメか…!




件の少女はというと俺の脇に抱えられにへにへ〜としているだけだった。


俺はこいつにこの不可解な状況の説明を求めた。




「おい!お前あいつに何したんだよ!」




「私もわからないの。ただね?歩いていただけなのに着いてこいーって。怖いから叫んじゃった」




って呑気にいいやがる。


どうやらこいつに非はないようだ。なら俺も何も言えん。


クソっ。なんでこんなことに!




俺は後ろを振り返る。そのフードを被った男はゆっくりとした歩調でこちらに歩いて来ていた。


これなら簡単に逃げきれそうだ…!






いやおかしい…。さっきも振り返った時同じ距離だった。


あいつに見てない時だけ走ってくる茶目っ気はないだろう。


クソっ。考えてもわからん!


今はただ逃げるのみ!




俺はひたすら走った。人一人分抱えているということもあり、あまり無茶なことは出来ないが。


っ…。


いや無茶しなきゃ逃げれないだろ!


俺は少女を横抱きし、階段を最下段まで一気に飛び降りる(こいつ腕の中でわーっとか言ってやがる)。


そのまま左右に別れた道を行き止まりでない右に、曲がる。




すると少し先にそのフードを被った男が壁に持たれかけ笑っていた。


また…いつの間にっ!


もうホラーだろこれ…。




「クケケケケ。もう鬼ごっこは終わりか?ならその少女を渡してもらうと嬉しいんだがなァ?」




そいつはもう一度ケケケと笑いつつ、こちらに目線を合わしてきた。


その瞬間、奴の人外だけが放てる独特な圧力に俺はその場から動けなくなった。後ろは行き止まり、戻る道は階段。つまりは詰みだ。


この窮地を打開する手は……。




やるしか……ないのか…!




相手は明らかに格上。それに謎の移動方法。不可解な点が多すぎる。




「だがやるしかないだろ……!!」




それしか道はない。


幸い学園帰りに挿したままの愛剣。魔力もさっきの1発分しか減ってない。


いける…はずだ。




「覚悟は決まったかい」




男はいつの間にか持っていたそいつの身の丈より巨大な剣を構える。


切るというよりは殴るって感じのする剣だ。




「大丈夫なの?お兄ちゃん」




少女が心配そうな顔でこちらを見上げる。


くっ…!女に心配されてまで引き下がれる道があるってか!ここまで来たらやるしかねぇ!




「あぁ!!やってやるさ!俺に勝てる奴なんかいない!!」




俺は戦闘前にいつもやる自分を高める鼓舞をする。


いくぞっ!




俺は剣を正道に構えて切っ先をやつに向ける。


男は口笛を拭きながら指でクイクイと挑発してくる。完全に舐められてるな…。




「ラァァァア!」




俺は今出せる最大速力で切りかかる。男はそれを悠々とその巨大な剣で切り結び、話しかけてくる。




「クケケ。すげーなただの人間のくせにそこまで早く動けるのか。ケケ」




何度も奴に突貫し切りかかる。




慣れろ慣れろ慣れろ!やつのスピードに!




奴の恐ろしさはその圧倒的な速さだ。


あの細身のどこにそんな膂力があるのか知らないが、奴はまだ俺のスピードにも着いてこれる。余裕だって感じさせる。




このままやり合ってたらジリ貧でやられちまうだろう。








そこで俺は1つの賭けに出る。


それは奴の意表を突いた一撃を放つことだ。


もちろん失敗すれば致命的な一撃をもらうだろう。


だが俺はこれしかないと思った。


そのためには、やつに大きな隙を作らせなければ…




「ゥラァ!」




俺は距離を取り、牽制用の魔法を放つ。


男は、無理に攻めてこない。余裕のつもりか?


だがこれで俺は今放てる最大魔法の準備を終える。




「大いなる炎雷の拳!巨ギガ・ファイアボルト!!」




俺は自分の放った魔法の後ろに追従する。


男は狙った通り剣で切り裂こうと大きく振りかぶる。


さすがにこの威力なら件で対処するか…っ。


俺は狙い通りのシナリオに勝利を確信する。


そして迫るそれを極限の集中力と反射神経で掻い潜った。




これで倒すっっ!




俺は残った魔力を全身に込め体の全てを限界まで引き上げる。この攻撃を躱せるやつはそうそういない。


よけれるもんなら避けてみろ!




今!これが俺に出来る全力だっっ!!




「っっ………ァアアアア!!!」




最短距離で剣を打ち込む。


やつはこれで倒れるはずだっ……!!








はずだった……。




男は剣を虫を払うかのように弾き、雷の如き速さで振りかぶりそのまま俺をかっ飛ばす。


もしかして誘われてたのか…っ!


俺は壁を何枚も撃ち抜きながら力なく倒れ込んだ。


全身の血が爆発するように温度を高めていく。


俺はついに壁の4枚目で静止する。


ぐへぇ…っ。身体中の骨も愛剣も折れてらァ…。




「かァ!……っっゔァ!!」




血反吐を吐き、その場に俺を源泉とした小さな水溜まりを作る。


赤あけーなー血って。




「お兄ちゃん!!」




少女の声が遠くから聞こえる。


見ると少女は俺の身体を必死に揺すっていた。


やめてくれ。余計なものまで出てきそうだ。




俺をかっ飛ばした本人はというと、撃ち抜いた壁の一枚目に待たれかかっていた。


こちらを興味深そうに見ている。


いやただ面白がってるだけか。




なんだ……?失血死によって俺を殺すつもりか?


ずいぶん悠長な殺し方だな…。




くそ。手に力が入んねぇ……。考えることさえ億劫に感じられる。少女の声も聞こえなくなってきた。さっきまで全身が沸騰するような暑さを感じたのに、いまは指先から体温がスーって消えてきやがる。




もしかして俺は死ぬのか?




ここで終わっ・・・・・・てしまうのか・・・・・・?






「って!・・・ん!!・・・て!!」




手?


近くで体が揺すられる。あの少女か…?


もうそれすら分からねぇ。


辛うじて聞こえる耳に集中し傾かせる。




「お兄ちゃん!!私と『契約』して!!」




契約って何言ってるんだこいつは。俺死ぬんだぞ…。死ぬ人間に家のローンでも押し付けるってか?


笑えない冗談だ。


へへへと力なく笑う。




分かってるさ・・・・・・。




今こいつは新しい力を、もとい今を変えられる力与えると言っているんだ。




こいつがどんな存在なのか今は関係ない。俺は気に食わないあいつを倒せる力がすぐにも欲しい。




「いいぜ。『契約』してやる」




途切れ途切れに言葉をつむぎながら俺は受け入れる。




「契約内容は『#※を諦めないこと』!!いい!?」




「あァ…。いいからいいから」




何故・・かそこだけ聞き取れなかったが、受け入れなかったらどうせ死ぬんだそれに比べちゃ安い。




「『#※を諦めないなら私もあなたを諦めない』!!」








この言葉を聞いた瞬間とても懐かしい記憶が流れてきた…


花に囲まれた場所で誰かと遊ぶ…そして、茶髪の男性に頭を撫でられる記憶。


俺のお兄様のどちらか?




その記憶は一瞬で消え去り、俺は意識が覚醒する。




それと同時に動かなくなっていた体に命の芯が通い始めた。


俺は、もうなんともない体を立たせ、手にある感触に驚く。


その手には、金色に輝く長剣・・・・・・・が握られていた。




見るものを惹き付ける金刃の輝き。


それを見ているだけでやつと戦う『勇気』が湧いてくる。負ける気だってしない。




「クッ、クケケケケ!!なんだそりゃ!なんなんだそりゃ!!もしかしてこれが奴の言ってた強き者・・・なのか!!ここで巻き返してくるとは待った甲斐があったぜ!!!クケケケケケケケ!!!」




「いくぞっっ!!」




俺は先程と同じ最短距離の突進をした。今の俺にはわかる。


今度は、弾く事が出来ないと。




「チィッ!」




男は一気に距離を離れる。




なるほどな。


どうやらあいつにはさっき言った茶目っ気があるようだ。




あいつは今瞬間移動・・・・した。




「お前『魔人』だな」




男は切り裂かれたフードとローブを脱ぎ答えた。




「おうよ!俺は『魔人』!!人類のはみ出しものだァ!!」




あらわになった紫色の髪と目を見せつけるようにさらけ出した男は、心底嬉しそうに笑い巨剣を構える。


フッ…。


遊んでいる感覚が消えた。あいつは今俺を『敵』と認識し直したのだ。




俺も剣を構え直し、再度奴の懐に潜り込む。


今度は奴に決定的なダメージを与える!




「オラオラオラオラァァ!!」




だが奴は俺より巨大な剣を振るっているにも関わらず有り得ないスピードで対応してくる。


これが『魔人』…っ!!




「はぁ…はぁ…」




「……」






お互い傷がつき、息が乱れていた。いや乱れているのは俺だけか。あいつにはまだ余裕を感じる。




だが、唐突に男があさっての方向を見、剣の構えを解いた。






「かァー……ここまでかー…」




「?」




「わりぃーなあんちゃん。楽しめるのはここまでだ。ケケケ」




男は残念そうに笑い、こちらに背を向ける。




「逃げるのか?」




こちらが不利なのは百も承知だ。だが奴から、奴ら・・・から少しでも有益な情報を聞き出したかった。


男は顔だけ振り返り、




「俺も不本意なんだわ。だけどよ、俺の上から帰ってこいって言う通達があってな?こればっかりは仕方ねぇ。


まぁ次はもっと楽しめるようなイベントでも考えといてくれや」




男はヘラヘラと笑いその場から消えた。




「ふー」




山場は乗り切った。これでしばらくはこちらも休めるだろう。俺は体の力を抜きその場に大の字に転がる。


少女は元の姿に戻っていた。




「お兄ちゃん。大丈夫?」




心配そうに顔を覗き込み問いかけてくる。


俺はそんな顔させたくなくて頭を撫でながら応えてやる。




「大丈夫だ。俺を誰だと思ってる」




「レイドでしょ」




少女はくすぐったそうにしながら笑う。


あれ名前教えたっけ?まぁいいや聞きたいことは明日聞こう。俺は疲れた。寮に帰って風呂入って寝たい。




「お前家は」




「実は私迷子なの」




少し困った顔になりそんなことを白状する。




「そか。じゃあ俺んとこ来いよ」




「うん!」




今日一番のいい笑顔を見せながら元気よく返事する。これだけでもこいつを守ってよかったと思えた。










「あぁ後『お兄ちゃん』禁止な」




なんかくすぐったいからな。


そう言って俺は立ち上がり少女と共に帰路に着く。








大変な、とても大変な1日だった。

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