第4話 襲撃と再会
「本当に申し訳ございませんでした!」
「あー、まぁ、多少は傷つきましたけど良くあることなので。」
騒ぎがひと段落した後、荷物と上着を部屋に置いて来た僕はオーナーさんにお詫びがしたいと言われ、食堂にいる。
頭をしっかりと下げて、娘さんと必死に謝るオーナーさんに大丈夫だと言う趣旨を伝えると、それでも...となったのでお茶を一杯宿屋の奢りで頂くことにした。
「はいよ。木の皮から作った、ちょっと珍しいお茶だよ。けど、本当に良かったのかい?聞けば、娘と夫がだいぶ失礼したみたいだが。」
「慣れてますからね。それに、このお茶はこの村くらいしかまともに流通してないと聞いてますから、僕的には問題ありません!」
「なら、良かったよ。一杯と言わずに、飲みたければいくらでも淹れるから言っておくれ。」
奥さんの気遣いにお礼を言うと、僕は早速淹れたてのお茶を一口飲む。
元の世界でも、こっちの世界でも高級茶葉なんて試したことすらないから比べようがないけど、少なくとも今まで飲んできたお茶を凌駕するほど美味しい。
「買っていきたいけど、流石にお金が....。」
ポケットを揺らして、中のポーチから聞こえる音を聞いて僕は肩を落とす。
師匠から、お金の使い方を覚えると言う幼稚園生地味だ名目でちょっとしたお小遣いをもらっていて、部屋代もそこから捻出した。
けど、流石にお茶を買って帰れるほどのお金は無いので諦める必要があった。
奥さんが言ってくれたとは言え、他のお茶に比べて明らかに1杯の単価が高いものをお代わりするのは申し訳無かったから、しっかりとこの1杯を楽しんだ。
その後、オーナーさんや奥さんからこの村のお店で取り扱っているものを一通り聞いて部屋に戻ってから上着だけを取ってきた。
ロビーに降りてきた時に少し気になったのが、きのみ亭の宿泊客中で僕の騒動があった時に唯一関わってこず、僕がお茶を飲んでる時も食堂の隅にいたフードを被った2人組だった。
別に、この世界ではフード付きの上着やローブは普通にある服装なので、見た目からの違和感は感じなかった。
最初は気にしてなかったけど、どこかこちらの様子を探っているようにも見え、極め付けは僕が宿屋から出るとその数秒後に2人組が追いかけて来るように宿屋から出て来たのだった。
(僕が目的なのかな?それとも、“魔女の弟子”が狙いなのかな?)
盗賊みたいな人がわざわざ宿屋に泊まって金品を奪いに来るとは思えないから、あるとしたらその2つの内のどちらかしかなさそうだった。
けど、僕の存在自体が国にすら隠されている状況でピンポイントで狙われるのも釈然としない。
その間も、お店の商品を眺めるフリをしていきなり立ち止まってみたり、いきなり振り返ってみたりして様子を伺ってみたけど、その2人組はずっと一定の距離を保ったまま追いかけて来た。
そのまま、村人達の住宅が並ぶエリアまで来た僕は、いきなり建物と建物の間の路地裏みたいな細道に駆け込んだ。
駆け込んで一瞬姿を隠した僕は、腰のベルトに付けている投げナイフを2本抜き、上着の袖で手元を覆うよう両手に隠し、恐らく追いかけて来る追跡者が来る細道の入り口に向き直る。
正直、僕のナイフでの戦闘は相手の武器や熟練度で有利不利が顕著に出てしまうため、それこそ暗殺みたいな一撃で仕留めるくらいの使い方じゃないとまず負ける。
だから、ここで追跡者と敵対するのは余りよろしくない選択肢なのだけど、なんとなく追跡者に思い当たる節がある事に気がついたのと、この細道なら2人組も1人ずつしか入ってこれないと読んだからだ。
そうこうしてる内に、案の定追跡者が細道に駆け込んできたけど、2人並んで入れないことに気づいたのか、1人だけ入ってきて僕を見つけると立ち止まった。
「すみません、僕に御用でしょうか?あいにく、約束の時間が迫っているので手短にお願いしたいのですが?」
わざとらしくそう言うと、追跡者からちょっと笑ったような声が聞こえたと思った瞬間、腰に付けていたらしい剣を抜いて構えた。
お互い微動だにせず、少し睨み合いの様な時間が続いたけど、先に僕が行動に移った。
両手に隠したナイフを同時に投げ、綺麗に一直線に並ぶ様にしながら“顔”を狙った。
「マジかっ!?って、うぉ!?」
素人なら、出来て剣で1本目だけを撃ち落とす事しか出来ないで2本目が命中する寸法なのに、追跡者は1本目を変な声を上げながら弾いた後、“相変わらずな動体視力”で2本目をギリギリ回避したが体のバランスを崩した。
その瞬間、僕は別のナイフを腰から抜いて、ブーツに仕組まれた師匠特製の魔導具に魔力を流してから跳躍し、斬りかかる。
「うぉ!?って、待った!悪かったから待った!」
剣で僕の攻撃をかわしながら、追跡者は謝って僕をなだめようとする。
けど、先に“嫌がらせ”して来たのはそっちなのでそれを無視して次の行動に移す。
最初の攻撃が防がれたので、もう一度ブーツに魔力を流し、跳躍して距離を取ると僕はナイフから再び投げナイフに持ち換えようとするが....
「失礼。こちらに非礼がありますが、この辺りで武器を収めて頂けないでしょうか?」
突然、投げナイフを抜こうとした手を後ろから捕まれ、そんな声をかけられた。
「....分かりました。すみません、久しぶりだと言うのに尾行された挙句まるで敵対する様な行動に出たのがちょっとムカついて。」
「いえいえ、私も友人に同じ事をされたら貴方と同じ行動を取ります。」
僕が謝りながらナイフを握る手の力を緩めると、もう一人の追跡者....多分あいつの護衛の人も僕の手を解放してくれた。
「だから、ごめんって!白儀。」
「全くさ、頭おかしいんじゃないの?冬樹。」
久しぶりに、正しい発音で僕の名前を呼んで来たさっきまで僕とナイフと剣で攻防戦を繰り広げた追跡者に、僕もそいつの名前を呼び返す。
こうして、僕は友人であり恐らくバレックス公爵家に保護された異世界人でもある篠崎 冬樹と再会した。
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「先程は本当に申し訳ございませんでした。まさか、かのバレックス公爵家のご子息様だとは知らず刃物を向けてしまうなど....」
「だからごめんって!ほら、この通り!」
きのみ亭に一度戻ってきた僕らは、僕の部屋の方が諸事情で2人の部屋より広かったことからそっちに移動して来ていた。
そして、僕はわざとらしく敬語を使って謝り、冬樹はもはや土下座をして頭を地面に擦り付けているカオスな構図になっている。
「シラキ様。私から申し上げるのも失礼だとは思いますが、先程飲まれていたお茶をフユキ様のお小遣いから購入し、お詫びとする事で手を打って頂けませんか?」
「....分かりました。ま、僕も後半はふざけてただけなのでもう怒ってないんですけどね。」
「ああ、そうでしたか。だそうですよ、だから早くお立ちになられて下さいフユキ様。」
「本当に怒ってないか?」
「さぁね?」
ニコッと笑いながらそう返すと、冬樹は青い顏をしながら立ち上がった。
冬樹こと篠崎冬樹は幼稚園からの友人で、恐らく唯一の僕の理解者だと思う。
明るく、裏表のない性格だから人に好かれやすく例によって僕も普段はいいやつだと思ってる。
ただ、性格故なのか一周回ってズレた行動に振り回される事もあって、僕が冬樹にキレる事も珍しくなかった。
「ふふ、大変仲がよろしいのですね。まだ、私の名を名乗っていませんでしたね。私はセルシオ様直属の配下で有り、この度フユキ様の護衛兼お目付役を仰せつかりましたノードと申します。」
「ノードさんですね。ご存知だとは思いますが、私は異世界人であり『魔女の弟子』でもあるシラキ・アオシマです。当たり前ですが、貴族ではないのでシラキだけで大丈夫です。」
「丁寧にありがとうございます。本題に入る前に、一度お互いの現状に至るまでの経緯を共有なさるのはいかがでしょうか?積もる話もございますでしょうし。」
「んー、そうですね。ならお茶でも飲みながら改めて情報共有しましょうか。」
僕は立ち上がって荷物の中からティーセットもどきを取り出すと、慣れた手つきで紅茶を淹れた。
「はぁ〜。お前、初手から結構鬼畜だったんだな。多分、俺がお前の立場だったら森で詰んでるし、魔術が使えないとか絶望しかないだろ。」
「いやいや、冬樹も中々だと思うけどね。」
お互いに経緯を話し終えると、そんな感想の言い合いが始まった。
冬樹は飛ばされた直後、バレックス領内の村にあった噴水広場に落とされ、見事に着水したらしい。
その後、住民が呼んだ騎士団に2日保護され、騎士団から報告を受けたバレックス公爵家が冬樹を一時保護と言う形で公爵家の館に向かい入れたらしい。
本来なら、冬樹が本当に異世界人なのかを確認してから国に報告する予定だったのだが、セルシオ様と冬樹が顔合わせた日以降バレックス家は国に報告しないことに決め、現在に至るらしい。
「そういえば、師匠がセルシオ様みたいな人が国への裏切りに近い行為をした事に驚いてましたよ。」
「あぁ。そうですね....簡潔に言うなら、フユキ様の事をセルシオ様や奥方様が大変気に入ったと言えば正しいかと。」
「気に入った、ですか。」
貴族の、しかも公爵家の未だに大きな影響力を持つ人間が感情で判断した事に違和感はあるけど、ノードさんが直接言葉にしない辺りはセルシオ様本人に聞く必要がありそうだ。
「さて、そろそろ時間も来ていますので馬車に向かいましょう。そこにある魔導具に次の指示が来ているはずです。」
「あれ、てっきり冬樹の付き添いはノードさんだけだと思ってたんですけど他にもいらっしゃるんですね。」
「それな。てか、俺が来たのも直前にじいさんが言ってきたからなんだよなぁ。」
やっぱり、冬樹は元々来る予定が無かったらしく、疑問の表情を浮かべている。
どうやら、最初の方は騎士の人2人くらいで僕を迎えに来て、村に到着するのもお昼前くらいの予定だったらしい。
「ま、とりあえず向かうか。多分、じいさんは何か企んでるな。」
「なんか不吉だなぁ....。」
嫌な予感を感じながら、僕らは宿屋を出発し約束通り冬樹のお小遣いから茶葉をたんまり買い込んでから馬車の待機場所まで向かった。
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