第5話 誤解

陽に嘘をついて終わった体育。嘘をついたということがどうしても心に引っかかりその後の授業に集中することができなかった。その様子は普段共に行動をする翔には一目瞭然だったらしく、部活に向かおうとした時に質問された捕まった


「淳也…何があったんだ?お前体育が終わってから何か妙に暗いというか…」

「別に何もないよ。ただ今日はだるかったなーって」

「ダウト。淳也嘘つくとき語尾伸ばしながら左上見る癖があるからな。今それしてた」

「流石幼馴染だな…隠し事はできないってわけだ」

「別に嫌なら言わなくていい。ただ…困ってるなら俺は助けになりたいし淳也が困ってるなら尚更だ」

「…ありがとな。だけど今はまだ言えない…というか言いたくない。ごめん」

「いや、それだけ聞けただけでもいい。淳也が悩み抱えてるってことだけ分かればな」

「俺も翔みたいにそんなことが言えれば違ったのかな…」

「?まあ言いたくないなら無理して聞かないさ。ほら、暗い話はこれくらいにして部活行こうぜ。あんまり教室でのんびりしてるとなっちゃんがメガホン持って探しにくるぞ」

「そうだな。部活行くか」


話していた時間はそんなに長くなかったのだが既に部活が始まっていた。翔と2人で部室の方を見ながらグラウンドの横を歩いているとなっちゃんを見つけた。メガホンは持っていなかったので安心したが、いつメガホンを部室から持ち出すか分からないので俺と翔はカバンを背負っている時の出来る限りの全力疾走で部室へと走っていく。


「ど、どうしたんですか?」

「いや〜部活始まってるからできるだけ遅れないようにと思って」

「それはいい心がけです。私部活毎日来てますけど翔先輩も淳也先輩も部活遅刻ばっかで、間に合った時は部室で暴れる時か誰かの誕生日でお祝いするときくらいですもんね…でも…ついに心を入れ替えて部活に遅れた時はいつでも急ぐようになったんですね?」

「そ、そうだよ。心入れ替えて真面目になったから急いできたんだよ」

「それは良かったです。さあ、部活は始まってるので急いでください」


なっちゃんが早くアップ行ってくださいと急かしてくるので急いで着替えてアップに合流する。

アップを途中から始めたためメニューをしていて足が若干つりかけたり足が普段よりも動かなく、少し辛かったが怪我することは無かった。


「お疲れ様です。先輩」

「ああ…ありがと、なっちゃん」

「柔軟手伝いましょうか?」

「ん〜…頼もうかな」

「お任せください!」


なっちゃんは俺の背中に回ると身体を前へと押してくれる。なっちゃんが力を弱くしてくれているのか女子だから力が弱いのか分からないが身体が硬い俺にはちょうどいい力加減だった。


「あっ…いたた」

「す、すみません。これくらいでどうですか?」

「オッケ、そんくらいでよろしく」

「はーい。ところで翔先輩と何してたんですか?部活来る前」

「え?翔とちょっと進路について話してただけだけど?」

「嘘です」

「いや、そんなこと…ないよ」


俺は嘘をついている。それは本当である。しかし、なっちゃんに俺の悩みは言わなくていいことだし、いくらなっちゃんでも言いたくない。これは解決したい悩みなのだ。自分の心の中が悟られないようにしていたが、陽と話した時のことを途中で思い出してしまったため表情に出てないかが心配だった。


「ふーん。先輩…私に言えないような話してたんですか?それとも…本当に…翔先輩に進路相談してたんですか?」

「そう、その通り!俺最近成績悪いからさ、この前のテストで赤点4つくらいあってさ〜…」


まずい。口を滑らせて翔にすら秘密にしていた赤点の数を言ってしまった。それも部活のマネージャーにである。気づいた時には遅く、なっちゃんの顔はこの世のものでは無いものを見るような顔になっている。


「それ、本当…ですか?先輩…」

「…本当です…」


俺は陽のことを言わずに乗り切った代わりに自分の評価を出血大サービスで売り払うという多大な犠牲を払ったのだった


「た、ただいま…」


俺は今日一日が大変だったのに加えて部活の疲れもあったためいつもよりも疲労を感じていた。


「しんど…そういや冷蔵庫にアイスがあったはず…」


俺は映画に出てくるゾンビさながらの遅い動きで玄関から冷蔵庫へと直行する。冷凍庫を開けてみるが…あるのは冷凍食品のパスタ、炒飯、弁当に入れるミニグラタンだけで、アイスは冷凍庫の底を何度探ってもでてこない。


「まさかあいつ…」


俺は階段を音を立てながら登っていく。普段は音を立てないように気をつけながら上がるが今はそんなことに気を支えるほど心に余裕はない。今の俺にとっては砂漠で見つけた水のようなものなのだからそれを横取りされたとなれば少なからず


「おい!食ったのお前だろ!」

「は?何言ってんの?てかドアノックしてよね!信じらんないんだけど」


こいつはりん。今中学3年で受験真っ只中である。凛は正直言うと俺より頭が良く、俺のいってる高校よりもレベルの高い学校に行くのではないかというのが予想だが…どこに行くかは俺は教えてもらってない。


「お前今日午前で学校終わりだから午後ずっと家にいたよな?」

「だから何?走ってれば一日が終わるバカ兄貴と違って勉強忙しいんだから早く出て行ってくんない?」

「お前…言っていいことと悪いことがあるだろ…!」

「とにかくアイスなんて知らないし事実だしアイス一個で騒がないで。こっちは勉強してるんだからどうでもいいことで話しかけないで!」


凛は椅子から立ち上がると俺の体を押して部屋の外に出し、すぐにドアを閉める。既に体力が限界まで来ている俺はもう一度凛と話し合うたたかうほどの余裕もなく、諦めて家の近くのコンビニに行くことにした。


1人でコンビニ行くのもいいのだが今の気持ちを分かって欲しかった俺は近くに家がある翔へラインした。五分ほどしても全く反応がないので諦めようとしたその時、行くからちょっと待ってと返信がくる。


「急すぎだよ。まあ今日は何も予定無い日だったからいいけどさ。で、どうしたの?」

「実はだな…凛のことなんだが…」

「ああ凛ちゃんね。どうかした?」

「実は…」


俺は冷蔵庫のアイスがなくなっていたこと、確認しようと凛の部屋にノック無しで入ったこと、凛にさんざん煽られて諦めた話を少しの漏れもなく翔に説明した。


「それ…淳也悪いと思うけど?」

「どこがだよ。アイス食ったようなやつに慈悲は無いぞ?」

「まず、凛ちゃんは中学3年とはいえ立派な乙女なんだから部屋にノック無しはダメでしょ。それにアイス食べたって決めつけてるけどお父さんは確認したの?淳也のお父さんじゃなかったっけ?」

「あっ…」


俺は本当にアイスを食べてないかもしれない凛に食べただろと決めつけで怒鳴ったことと部屋に勝手に入ったことを反省した。何と言っても翔に指摘されて初めて自分の行動の馬鹿さに気付いたことが恥ずかしさを倍増させる。


俺は翔にこの前購買部で奢ってもらっていたためその分を少しでも返そうと高級アイスであるバーゲンダッツを2かってコンビニを出る。


「バーゲンダッツなんて別にいいのに…」

「まあこの前奢ってもらったしな。奢ってもらいっぱなしも嫌だしな」

「別に気にしなくていいのに…ところでもう一個はどうするんだ?」

「それは…まあ凛に渡そうかなーって。一応食べてないことを確認してからだけどな」


俺は翔と別れ家に帰った。リビングに父さんがいたのでさりげなく聞いてみる。


「父さんアイス知らない?俺の好きな月見だいふく」

「あぁそれね。美味しかったぞ。え、もしかして淳也のアイスだった?すまんな〜午前の仕事が終わって家に帰って来た時にな〜…」


俺は素で煽ってきているような気がして父さんの言葉を最後まで聞かずに凛の部屋に向かう。

翔に指摘してもらったノックなし部屋侵入をやめ、まずはノックを三回して入っていいかどうかを聞く。しかし返事が30秒ほど待っても帰ってこない。もう一度やってみるが結果は全く同じである。


「入りま〜す…」


おれは小声で入ったことを言って凛を探すが…


「寝てるのか…」


凛は勉強の途中で寝てしまったのか机に突っ伏していた。凛の無実は父の自白によって証明されていたので凛に対する負の感情は一切なくむしろ申し訳ないので気持ちでいっぱいだった。


「凛…さっきはひどいこと言ってごめんな。お詫びにバーゲンダッツ買ってきたから後で食べてくれ。勉強…頑張れよ」


俺は風邪をひかないようにと凛に薄手のブランケットをかけてやる。そしてバーゲンダッツの入ったコンビニの袋を机の端に置いて近くのメモにごめん、と書いておく。

メモを書き終わり部屋を出ようとすると下からご飯ができたよ〜という母の呼ぶ声が聞こえてきた。俺は凛の部屋を出て母の声のするリビングへと向かった。


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