第4話 偽言
なっちゃんと部活終わりに駅まで送り届けた次の日。いつも通りのそのそと起きて必要最低限の支度して、家を出る。
実を言うとうちの部活…陸上部では朝練を毎日行なっている。しかし朝に弱い俺はやりたくない。というより早起きが苦手すぎて行ける気がしないので1回も参加したことがなかった。
朝の7時から朝練を開始していい時間で、終わりはショートルームに間に合う時間となっていて参加は自由である。
終わりの時間が厳密に決められているわけではないためショートルームに間に合うギリギリの時間までやっている者も数人おり、俺が登校した時に走って教室へと向かう部員を見ることも珍しくない。
今日も練習をやっている部員がいるかが気になるのでグラウンドを見てみる。目を凝らしてみると遠くに2、3人いるのが見える。そして部室の前にはなっちゃんもいて、走っている部員のためにタイムを計ってあげているようだ。
俺は誰が走っているのか気になるが、他の人の邪魔をしたいわけではなく、なっちゃんの邪魔になるのも申し訳ないので走っている様子を少しだけ見て教室へ向かう。
教室に入り、自分の席に向かうのだが…天宮さんはやはり人気で今日も机の周りには数人が集まっていた。しかし運の良いことに俺の席は座られていない。俺は席に座ってショートルームが始まるまで寝て、時間を潰すことにした。
一応、寝顔を見られるのは恥ずかしいので天宮さんの方ではなく左の窓を見るような体勢で寝ておく。
目を瞑って、寝ているフリをするだけのつもりだったが段々と意識が遠のいていき、深い眠りにつきそうになる。すると先生の声が聞こえ、意識がまた覚醒し始める。
今日のショートルームは特に重要なことは言われることなく終わった。まだ眠り足りないのでボーっと前を見ていたらいつのまにか隣に人が立っていることに気づいた。俺が何かしただろうかと疑問に思いながら隣に立っている人を見てみると…
「翔…びっくりさせるなよ。心臓に悪い」
「淳也の間抜けな顔をこれ以上クラスの奴らに晒さないようにと思って来たんだけど迷惑だった?」
「そんなどうでもいい心配はしなくていいから普通に言ってくれ」
「すまんすまん。ところで…1時限目体育だけど準備できてるか?」
「あ、まじ?」
ボーっとしていたので準備もクソもない。体育の準備など全くしていないし、朝起きてから1時間くらいはほぼ意識が無く、寝ぼけながら家を出てきたため体操服などの体育に使う物を入れてきたかも覚えていない。バックの底を漁ったりして中を探してみるが…体操ズボンだけ持っていないことに気がつく。
「無いわ…」
翔はその一言で全てを察して何も言わずに肩を軽く叩いて教室を出て行く。俺も先生に怒られる覚悟をきめながらグラウンドへと向かった。
結論から言えばとても怒られた。先生はひと昔前の厳しい人で体罰こそないものの忘れ物をした者やふざけた態度をとる者、道具や機材で遊ぶ者には特に厳しい。まあ見方を変えれば体育にそれだけ熱心ということなんだろうが…
「まあそんな落ち込むなよ。偶にはそういうことだってあるって」
「あれだけ怒られれば少しは萎えるって。確かに体操ズボン忘れた俺が悪いけどグラウンドの真ん中でも職員室まで聞こえるくらい大きな声で怒られるし今日の授業内容をルーズリーフに記入して明日の朝までに提出だぜ?」
自分で言いながら後でルーズリーフにまとめることを考えてしまい、思わずため息がでてしまう。しかし、1番嫌だったことは誰にでも聞こえる大きな声で怒られたという点である。
「天宮さんに笑われてるんだろうな…」
「ま、やっちまったことはしょうがない。落ち込むよりも今日の授業の内容をどんな風にまとめるか考えといた方がいいんじゃね?」
翔はそう言ってグラウンドの真ん中へと走っていった。翔を含めクラスのみんなが先生から今日の授業内容を説明してもらっている間、俺はグラウンドの境目にある木陰で座ってクラスのみんなを見ていた。最初はボーっとしながら先生の大きな声によって聞こえてくる話を聞いていたのだが、意識してか無意識のうちか天宮さんを集団のどこにいるのか探してしまう。
しかし何度探しても見つからない。
「天宮さん見当たらないな…体調でも悪いのかな…?」
「私ならここにいますよ?」
誰にも聞こえないくらいの小声でボソッと呟いただけなのだが聞かれていた。それもよりによって本人に、である。
「ごめん。集団の中に見当たらなかったからつい決めつけで言っちゃった」
「ううん。気にしないで。実を言うと…私も体操服忘れちゃったの。だから淳也くんと一緒。体操服忘れて私も怒られたんだけど…淳也くんの怒られてたのはひどすぎ!って思ったわ。何もあんなに大きな声で怒らなくてもね…」
天宮さんは俺の方を向いて微笑みながら楽しそうに話してくれる。最初は天宮さんと少し話す
だけでも躊躇っていたが体操服を忘れたという同じ状況にあるからか今回はあまり躊躇わずに話すことができる。
話題が無くなってしまうのではないかと心配をしながら話していたが、あの先生がうざい、学校近くの〇〇のデザートが美味いなど他愛もない話をしている内に授業を終わることができた。
「授業終わったね〜」
「話し相手になってくれてありがとう」
「ううん。こっちこそ。淳也くん最初の自己紹介の時からよそよそしいから何かしちゃったのかと思ってたんだけど…今日話してみたらそんなこと全然無いから安心した」
「っ…そんなことないよ。寝ぼけてたからそんな風に見えただけだよ」
「良かった〜。じゃ着替えあるから行くね」
「ああ…」
俺は会話中ずっと普段の表情を装ったつもりだったが表情に心情が出てなかったかどうかが心配だった。
「そんなこと言うなよ。陽は何も悪くない…悪いのは全部俺なんだから…」
陽が軽く小走りで教室へと行ったのに対して俺はとぼとぼと歩いて教室へと帰るのだった。
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