第3話 相違
なっちゃんを駅に無事に駅まで送り届けるという任務を達成するために少し周りを見渡して警戒してみる。しかし田舎なので誰も歩いておらず、この道を通った車はまだ2台しか通っていない。街灯が25メートルほどの感覚で並んでいるが、そこの明かりに見えるのは道路から力強く伸びてきた雑草だけである。
「なっちゃんいつもこの暗い道帰ってるの?」
「そうですね。だけど…この暗い道を帰るの正直怖いんですよね…だからこの時間に帰らないようにしてるんですけど今日は部活道具の片付けが時間かかっちゃっていつのまにかこんな時間になっちゃったんです。でも…先輩が送ってくれるって言ってくれて嬉しかったです」
「いいっていいって。部活の道具を片付けずにとっとと帰る俺らが悪いからさ。それのお詫びみたいな感じで来てるから気にしないでよ。」
「そ、そうですか?ありがとうございます…」
なっちゃんは送ってもらえることが本当にありがたいようで今の会話中も全然怖がっているような様子はなかった。
半分思いつきで送ろうかと言ったので嫌がっていたり、ありがた迷惑ではないかと心の中では不安だった。しかし自分の選択が正しかったことに安心する。
「あ!なっちゃんに聞きたいとがあったんだった」
「は、はい!?なんでしょうか!」
「女の子は何をすれば喜んでくれるのかなーっていう質問というか相談というか」
「…?何の話ですか?」
「あー…ごめん。言い方が悪かった。変な風に思わないで欲しい。そのー…女子と話す時にどんな話をすれば喜んでくれるのかなっていう相談なんだけど…」
「そ、そうですか…てっきり先輩に彼女でもできたのかと思いましたよ〜…」
「ん〜…まあいつかそういう相談ができるようになりたいかな。だけど、なっちゃんに相談したら1番の理由は頼りになる後輩に相談した方が良い答えがもらえると思ったからかな」
言葉を最後まで言った瞬間になっちゃんが一瞬だけ笑顔が凍りついたような気がした。
話をする前までは満面の笑みを浮かべて歩いていた。しかし今は顔を俯かせながら歩いていてた。俺はまずいことを言ってしまったんじゃないかと不安に駆られ始める。
「もしかして変なこと言っちゃった?気分悪くしたなら謝るんだけど…?」
「いえ!先輩は悪くないです!何にもないです…」
なっちゃんの口から直接悪くないと言ってもらえたのでひとまず安心する。しかし、言葉では大丈夫だと言われても本当に大丈夫なのかどうか気になる。そんな俺はどうしてもなっちゃんの表情が気になったので顔を俯かせて歩くなっちゃんをしばらく見ていたが…結局、顔を上げてくれず表情が分からなかった。
この時淳也は顔の表情だけ見ようとしていたため気付くことは無かったが、髪から少しだけ出ていた小さくて可愛らしい耳が淡い赤に染まっていた。
1分ほどなっちゃんが俯きながら歩いていただろうか、俺の方を再び見て話してくるなっちゃんはいつも通りの頼りになる凛とした表情を見せてくれる。
「…失礼しました。話戻りますけどなんですか?」
「女の子ってどんな話すればいいのかなって思って。普段女の子と喋ってないから全然イメージ湧かなくてさ。なっちゃんが普段話してることとかこんな話が好きとかでもいいから教えて欲しいんだけど…」
「ソ、そうですねー。えっと…スイーツの話はよくシマスヨ」
「なるほど。そういえば駅前に美味しいクレープ屋ができたって翔が言ってたな。その話をすれば出だしはいい…?」
「先輩…。そのー…誰と話そうとしてるんですか?」
「ああ。隣の席の天宮陽っていう人と話したいんだけど何を話せばいいのかなって。でもなっちゃんのおかげでイメージ湧いたわ。ありがとね」
「ドウイタシマシテ…」
なっちゃんの様子がさっきからおかしい。歩きながら話していたからあんまり顔を見れていなかったが急に興味を持ったと思ったらまた絶望したりもはや諦めたような顔したり。やっぱりどこかでなっちゃんを傷つけるような言葉を言ってるんだろう。
駅に着いたら謝ろうと思ったがすぐに駅が見えてきた。肝心のなっちゃんの方はと言えば目が半分虚になっていて駅よりも先を見ているような…
「なっちゃんもうすぐ駅に着くよ。俺がお詫びにって言ってなっちゃんを送る話だったのに変なことばっか言ってごめんね?」
「…いえ、私こそ取り乱してしまってすみません」
「なっちゃんのおかげで楽しい時間過ごせたし、俺が言うのもなんだけど…ありがとね」
俺が心からのお詫びと教えてくれたことのお礼をしっかりと目を見ながら言うとなっちゃんも俺の誠意が伝わったのか少し顔を背けつつどういたしましてと小声で応えてくれる。
「私の方こそありがとうございました。おかげで先輩のいろんなことが分かりました。失礼します」
「ん?うん。じゃあね」
俺は肩の辺りで手を振って見送ってくれるなっちゃんに手を振り返す。
駅までなっちゃんと一緒にあるいた時間は30分くらいの時間だったが本当に一瞬のように感じた。俺はなっちゃんの優しさに触れてまるで心がほっこりとするかのような感覚を味わっていた。
なっちゃんは手を振るのを途中で辞めたが見送ることは淳也が見えなくなるまで続けていた。
「先輩…全部意識せずにやってるんですからひどいです。でも…だから気になっちゃうんですよね…」
なっちゃんは淳也が消えていった方向を見ながら呟く。その顔は微笑みのようなはにかんだ表情を浮かべており顔全体が少しだけ赤らんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます