第2話 事実

結局、そのあとも天宮あまみやと話すことはできなかった。というのも初恋の人ということで緊張しすぎて出だしの言葉すら出なかったこと、そもそも頭が回っていなくてどういう行動をするのがベストなのか判断できなかったことが原因だ。


そうして朝のSRショートルームは終わってしまった。その後も1時限の休み、2時限の休みとあったが女子が一斉に天宮の席に来てずっと話していて、他人が話をしている中割り込んでまで話しかける勇気がなかった俺は結局昼休みになるまで話しかけることができなかった。


何度も逃しているチャンスである。ここで逃げたら次はもうない、と自分の心の中で何度も唱えなんとかして自分を奮い立たせた。


「天宮…さん。久しぶりだね。小学校5.6年でいっしょだった高橋 淳也たかはしあつやだけど…」

「たかはし…あつや?ごめんなさい。申し訳ないけど覚えていないわ」

「そ、そっか。ごめんね。もしかしたら僕が小学生の時のことを間違えて記憶してたのかも。」


そういって淳也は逃げるかのように教室から出ていく。それと入れ替わりで女子のグループが天宮の周りにやってきて一緒にご飯を食べない?と誘っていた。



「まあ…この可能性も考えて覚悟はしてたけど…いざ直接言われると辛いなぁ…」


淳也は教室から飛び出したものの弁当を家からは持ってきているがあのタイミングでは。このまま戻るのも気まずいので仕方なく購買部に行くことにした。


「あれ?淳也じゃん。」

「しょう?」


話しかけてきたのは松崎まつざき しょうだった。俺の幼馴染でムカつくくらいのイケメン。テストの成績は残念なとこが多いが運動はなんでもできる。都市伝説レベルの話だがファンクラブがあるとかないとか…


「淳也購買部なんて珍しいじゃん。弁当忘れた?」

「ああ…弁当を。」

「まあそういうこともあるよな。で、単純な質問なんだがお金は忘れてないよな?」

「あっ…」


俺の間抜けな声が翔に聞かれてしまう。しかしそんな間抜けな俺にも面白いから奢りでいいよと笑顔で言ってくれる。やっぱり持つべきは親友じゃなくて翔だな。いや、ごめん翔。

俺は天宮さんに話しかけられないだけでなく翔にも迷惑をかけてしまうのだった。



「おつかれさま〜」

「おつかれ〜」

「おつー」

「おつ!」


今日の部活が終わる。今日はさんざんだったからか単純に練習メニューがきつかったのか微妙なところだが普段よりも疲れを感じていた。そのため早く家に帰ろうという気持ちにもならず部室で携帯をいじって少し休むことにした。


「は〜…疲れた。天宮さんは僕のこと覚えてないしお金返すって行ったけど結局翔に奢られちゃったし…さんざんだな」


翔にはお金を返すと何度も言ったのだがイケメンっぷりをたっぷり発揮されてお金を返すことができなかった。翔とは仲が良いからこそお金のやり取りをしっかりしたかったが翔が言うには俺と淳也の関係は購買部のパン如きで崩れることはない、らしい。


「申し訳なさすぎる…」

「あの〜…私女子部室の鍵持ってるのでついでに返しましょうか?」


声の方を向いて見ればうちの部の後輩マネージャー、坂本奈月さかもとなつきことなっちゃんである。


「ん、もうそんな時間か。ごめんねなっちゃん」

「い、いえ。ただ電気がついていたので先輩がいらっしゃるなら鍵をいっしょに返そうと思っただけですから…」

「ごめんね。なんか気を使わせちゃって。」

「いえ、鍵を返すのはマネージャーの仕事の1つですから」

「後輩に鍵だけ渡してとっとと帰るっていうのも申し訳ないし俺も行くよ」

「え?いいですよ。それくらいなら私気にしませんから」

「僕が気にしちゃうんだよ。いこう」


俺はくつろぎモードから普段の状態に戻る。急いで帰れる準備をして部室を閉める。

部室の鍵を教官室に返すついでに壁掛け時計を見たが時間はもう7時を回っていた。男子高校生からしてみれば7時などこれからが楽しい時間といったところだが女子高生にとっては怖くなってくる時間だろう。気を使わせたのも申し訳ないので自分なりのお詫びと言うことで駅まで送っていくことを提案する。


「いいんですか?先輩って私の最寄駅と180度くらい違う帰り道で帰ってるって言っていませんでした?」

「まあそこは気にしなくていいよ。家に帰って

宿題やれしか言わない母親が待ってるだけだしなっちゃんと一緒の方が楽しいからさ」

「そ、そうですか。じゃあお言葉に甘えて…」


なっちゃんの顔をチラッと見てみれば少しだが口角があがっており楽しそうな顔をしているようにも見える。俺はその顔を見て今日ことで落ち込んでいた気持ちが少しだけ楽になった気がした。

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