第4話

 出会って少し経ってから知ったのだが大空緋那はFHのチルドレンだった。


 ずっと厚い雲が空を覆って、もう一雨でも降れば梅雨入りかななんて日で、授業が終わったらどこに散歩に行こうかとかぼんやりと考えているとキャンパス内で発生したワーディングに意識を持ってかれた。

 こんな世の中だ、いくら組織的に関係のない場所だったとしてもオーヴァード同士の小競り合いはある。

 自分の大学とはいっても無関係な争いに首を突っ込むほど戦いが好きなわけじゃない。

 ただ放置して面倒ごとに巻き込まれるのも勘弁願いたいという一心で遠くから(正確には駆け上った校舎の屋上から)観察をしてみるとどうにも知らない男とヒナが戦っていた。

 彼女がオーヴァードだと知ったのもその時、でもなんか色々と腑に落ちた瞬間だった。

 相手の男は資料で見たことのあるUGNのエージェント、これは組織的には私が彼の手助けをするところなのだろうし、もしかするとUGNのほうでもそんな算段が勝手に立てられていたのかもしれない。

 でも私は静観し続けて、結局のところ最後まで立っていたのはヒナだった。

 彼女は一体何者?

 UGNのデータベースにアクセスする。


 ***


「ヒナ」

「ん…、チカ、どうしたの深刻な顔して」


 いくら私でも、この時は緊張していた。

 そりゃそうだ、だって私たちは。


「ごめん、知っちゃったんだ」

「?」

「ヒナ、FHなんだよね」

「……ああ、あの時。…チカもオーヴァードだったんだ」

「うん、でね。 私はUGNなんだ」


 そして雨の音のみが周囲を包み込んだ。

 これ、めちゃくちゃ心臓が痛い。

 音が遠くなって意識が飛びそう。


 ああ、これで友達が一人居なくなったんだなって。

 思って。


「うん、それで?」

「……へ?」

「チカも私を殺しに?」

「いやいや違う違う、そんな訳じゃなくて。 いや、うん本当にそんなつもりじゃなくて」

「じゃあ、なに?」

「う、うーん…」


 そう言われると、反応に困る。

 私がUGNで、ヒナがFHだから、友達じゃなくなる?敵同士になる?なんで?

 そんなの自分たちの関係のない組織の事情で。

 私にはヒナがやっちゃいけないことをやっているようには見えなくて。


「いやあ、なんていうか言っておこうかなって。ほら、フェアじゃないじゃん?」

「フェア」

「そう、フェアじゃない。だからヒナのこと知ってしまった分、私のことも教えたげる」

「…うん、教えて?」


 そうして私たちは本当に友達になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る