続くかもしれなかった日常-1

 窓から差し込む日差しがまぶしい。カーテンの隙間から光が漏れているようだ。

 ちょうど目元に光がたまり、否応なく覚醒世界に誘われる。


 少し体をよじり、光を避けて薄く目を開けると、薄暗いじめじめとした部屋に差し込んだ一筋の光が顔の横をかすめていた。

 光の筋の中に埃が舞っているのがわかる。どんなに静寂を極めようとせわしなく動き続ける埃たち。


 なんて勤勉な誇り高き埃たちだ。オレにはそんな誇りなど持ち合わせていない。声を大にしいて言いたい。休むことは大切だ、と。


 つまり


「布団の中は最高だぁ~...んん!」


 ぐぐーっと伸びをして体を整えたら、この天国とも思える夢うつつな世界に再度包み込まれに行く。

 このふわふわとした感覚が、何とも言えない幸福感を与えてくれる。

 今の陽気な気候も相まって、だんだんと布団に吸い込まれていく。

 抗えない。


 こんなにも人を幸せにしてくれる世界から抗おうなんて考える奴らは、皆バカだと言ってやる。

 今日は特に予定もないためなおさらだ。


 やさしい風が吹きぬける


 ふわふわ綿毛に乗ってどこかへ飛んで行ってしまう


 やぁ、ウサギさん。どこへ行くのかい?湖まで行くのかい?


 だったらご一緒してもいいかい?競争だ


 ん?何やら急に曇ってきたぞ?


 やけに暗いな


 一雨きそうだ


 これは雷もくるぞ


 ウサギさんも気をつけろよ


 ゴロゴロ鳴っている


 今にも落ちてきそうだ



「くおぉらぁぁあああ!!いつまで寝とるんだぁぁあああ!!早く起きろぉぉぉおおっ!!」



 ほら落ちてきた。雷―のような轟音の怒鳴り声が。



 それと同時に布団を引っぺがされる。オレのふわふわな世界を作り上げる、神の創造したる三種の神器の一つが、ハデスによって奪われる。三種の神器、すなわち布団・枕・毛布である。毛布を奪われた。

 そして、強制的に夢の国への入場門から引きずり出される。あぁ、オレの幸せのひと時が。

 それにしてもかなりファンシーな夢の国だったな。


「なんだよじーちゃん、今日は何も無いはずだろ。好きにさせてくれよ」


 眠たい目をこすりながら、ハデス―オレのじーちゃんに文句を言う。

 

「アホミナトが!今日は食糧調達に狩りに行くんじゃろうが!」


 じーちゃんが唾を飛ばしながら耳元で怒鳴る。指で耳栓してちょうどいい大きさに整えられる声のボリュームに圧倒されてしまう。

 じーちゃん、近所迷惑だぜ?


 アホミナトと一つの名前のごとく呼ばれたが、これは造語だ。これはなんと、あの人をけなすために生まれたような言葉「アホ」と、オレの名前「ミナト」を見事にくっつけてくれちゃった、大変不名誉な名前である。

 それが村中に響き渡るんじゃないかと思われる大音量で拡散される。まぁ、皆に知れ渡っているので、ある意味響き渡っているな。

 

 こんな調子だから村の皆からは「寝坊助のアホミナト」とふざけて呼ばれることがある。

 別に寝坊助でも何でもないのに、こんな毎日だから寝坊助と思われているらしい。

 是非ともそんな汚名は払拭したいと思う。

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