第8話「剣聖の真実」

 次にやって来たのはティルフィング王国。

 ここは初代神剣士一行の一人、剣聖イーセが興した国である。


 中世ヨーロッパとアラビアが混じった街並の中に、日本の江戸時代を思わせる建物もあった。

 そして、石像になっている者達の多くは帯刀していた。

 この国は剣の国としても栄えていて、世界中から剣士が集っている為である。


「ここが祖先の故郷か。見た事もないはずなのに、懐かしさを感じるな」

「以前オードさんも同じ事言ってたよ。あの人はここの生まれたけど、旅から旅の生活だったんだって」

 タケルがガイストの呟きに答えた。


「ん? オード様は王族ではないのか?」

「うん。イーセ様の末子が王族から抜けて商人になってね、その子孫がオードさんなんだよ。今はこの国の公爵で将軍だけどね」


「俺も今は公爵だが、以前は一介の戦士だった。そこだけは追いついたかな」

 ガイストが空を見上げて言った。


「そういえばさ、何でガイストさんは別の世界にいるの?」

 チャスタが首を傾げる。

「俺はあそこで生まれ育ったし、両親もそうだ。先祖が異世界の者だという事はここへ来て初めて知ったんだよ」


「うーん? 神の目でもそれは見えん。隆生さんは?」

「ううん。僕もそこまでは思いついてない」

 僕とトウマがそう言うと


「あ、もしかして」

 ユカがハッとした顔で言う。


「何か思い当たる事があるの?」

 ミカが尋ねる。

「うん。オードさんの何代後の子孫か知らないけど、その人が不慮の事故で異世界にワープしちゃったのかも」

「でもそれならそれで、言い伝えくらいあるでしょ?」

「ううん。その人はワープの衝撃で記憶を失ったか、あるいは小さな子供だったから、異世界へ飛ばされた事が理解できなかったのかも」

「なるほどね。そう、優美子さんやキリカ様のように」



「ところで俺のご先祖、イーセ様やオード様の事をもう少し教えてくれないか?」


「ああ、オードさんはイケメンで、剣の腕は世界有数だよ。ただ以前は女性に免疫がなかったけど、最近はマシになったかな。そして剣聖イーセ様は初代神剣士一行で」

「ちょっと待って。そこから先は僕が言うよ」

 

「え? もしかしてまた俺達が知ってる歴史通りではないとか?」

「察しがいいね。では」


 伝説ではイーセが先の神殿で初代タケル達と出会い、最後まで共に旅をしていたとなっている。

 けどそれって実はイーセの妹、イズナだったんだよね。


 彼女は旅の途中、落石から自分を庇って死んだ兄イーセの代わりを務めようと、男装して兄の名を名乗っていたんだ。

 だけど結局途中で女性である事を知られ、その後は自分自身、イズナとして一緒に旅を続けたんだ。


 それからね、仲間達からは死んだと思われていたイーセだけど、実は最後の敵に命を救われて洗脳され、神剣士一行に立ちはだかったんだよ。

 彼は妹イズナとの一騎打ちの末、正気に戻った後で改めて神剣士に己の剣を捧げたんだ。


 その後イズナは自分はあくまで兄の代わりだったとして、それまでの功績を全て兄がやった事にして、この国を興す際も影に徹したんだ。 

 イズナはやがて兄イーセの親友でもある初代ルーファス王イシャナと結ばれたけど、やはり目立たずに夫である王を助け、一生を終えたそうだよ。


「えええ!? そ、そうだったのかよ!?」

 タケルが驚き叫んだ後

「神の目で調べたけど、隆生さんの言うとおりだよ」

 トウマが確認してくれた。


「うわあ、もしそれぞれの現国王であるあいつらが聞いたら、崇めるどころか国を挙げて歴史書改訂に挑むだろうな」

 この国の王様はタケルの祖父の妹、彼の大叔母の孫で又従兄である。

 ティルフィング王とルーファス王は従兄弟同士でもある。

 


「イーセ様が旅に出たのは、初代神剣士に仕える為だったのか?」

 ガイストがそう尋ねる。

「ええ。イーセ様は当時世界で一番早く最後の敵の正体を知りました。そしてそれを打ち砕けるのが神剣士だという事も」

 僕が答えると


「そうか。俺もかつて優者セリスに一番早く出会った。仕えるのとは違うが、友として彼を守ったという自負はある」

「それにガイストさんがいたからこそ、最後の悪しき縁を光に変える事が出来たのですよ」


「いやいや、それは俺がいなくても、セリスや皆がいればなんとかなったのでは?」

「いいえ、一行のリーダーは実質ガイストさんだったでしょ。皆あなたがいたから纏まっていたと思いますよ」

 僕がそう言った後、トウマが


「それに、あなたもまたイーセ様やイズナ様、オードさんと同じように、神剣士の剣となり盾となっていたんですよ」


「え、セリスは神剣士ではなく優者だが?」

「ええ。でも彼は初代神剣士、大和国始祖タケル様の血を引いているんですよ」


「な、なんだってええ!? あいつって彦右衛門さんの子孫だろ!?」

 タケルがまた叫び


「あ、もしかして彦右衛門さんも始祖タケル様の子孫なのですか?」

 ミカが尋ねると


「違うよ。彦右衛門さんの三百年後の子孫、政彦まさひこ君の母親が始祖タケル様の子孫なんだ」

 トウマが答えた。

「そうだったのですか。でも彦右衛門さんって、今思うと」

「それはいずれ分かるよ」

「え? あ、はい」


「ねえ、そろそろ彦右衛門さんを迎えに行こうよ」

 たけぞうさんがそう言ってきた。


「そうですね。では行きますか」

 僕達はとある場所へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る