第9話「大妖魔と最後の仲間」
やって来たのは港町が一望できる高台。
この港町はかつて戦争で焼け野原となっていたが、今は元通りになっている。
ここは世界有数の絶景ポイントでもある。
「ここでかつて、妖魔獣だったカルマさんと戦った」
ユカが懐かしそうに言うと、タケルが
「ああ。後になって聞いたけど、兄ちゃん達の力でカルマを人の姿にして」
「うん。タケルのお祖父さん、ショウケイさんがあの世から来てくれてね、カルマの悪心を切り裂いたんだ」
僕も話に加わった。
「そして兄ちゃん達の仲間になって、最後は兄ちゃんやユイ様や多くの人を救ったんだよね……命を賭して」
「そうだよ。カルマのおかげで僕はこうしてここにいるんだ」
「そしてカルマさんは人間に生まれ変わったとアマテラス様から聞いた」
ユカがそう言った。
「そっか。もし会えたら今度は普通に語り合いたいよ。前世の記憶はないだろうけどさ」
「でも、今どこにいるのかなあ?」
ミルちゃんがボソッと呟くと
「うーん、遠い異世界なのは分かるけど」
トウマが神の目で調べてくれたようだ。
「え? トウマお兄ちゃん、そこへどうやって行けばいいの?」
「あそこへ直接飛ぶのは無理だよ。いくつかの世界を通過して数十年ってとこだぞ」
「そうなの? 異世界転移術って、どの世界へでもすぐワープできる訳じゃないの?」
僕が尋ねると
「ええ。何かしらの力で出来た座標、あるいは特殊アイテムがあれば一瞬で行けますが、そうでない場合は時空の狭間に落ちたとかで偶然迷い込んでしまうか、神様に手を貸してもらうかでない限り近い世界から飛ばないとダメです」
「転移術と同じで、一度行った事がある場合は一瞬で行けますよね」
シューヤも話に入ってきた。
「そうだよ。異世界転移は誰でも出来る訳じゃないけどね」
「ですよね。おれ、それだけは気がついたら出来てたから、自分でも驚きました」
「それは前世の君が手を貸したからだよ」
「ああ……」
「あの、わたしは以前たくさんの異世界に行ってましたけど、その中の一つだったら言ってますよね」
ミカが尋ねる。
「うん。ミカちゃんも行った事ないよ」
「じゃあ、セイショウさんにお願いすれば?」
僕がそう言うと
「それはあくまで非常手段ですよ。神様の掟があるんだし」
「あの人は掟なんか気にしてないだろ」
「セイショウ様が良くても、向こうが気にするでしょ」
「あ、そうだった。うーん、どうしたもんかな」
するとガイストがこんな事を言った。
「トウマ、うちの世界には『タカマハラ』という場所があるのだが、守護神様曰くそこは幾つもの世界の中継地点だそうだ。もしかすると、そこからなら早く着くのではないか?」
「え? ……あ、今わかりました。そこを通れば一日で着くみたいですね。でも今は敵に時空を壊されているから辿り着くのは困難だし、それを直すのには相当時間がかかります。それでも数十年旅するよりは早いか」
「ミルちゃん、カルマさんはきっと、あなたの事を待っているわよ」
ミカがそう言うと
「そうじゃなくてもいい」
「え?」
「今は生まれ変わって違う人として生きてるんだもん。前がどうとか関係ない。でもカルマお兄ちゃんがどんな人になっているのか、一度は見てみたい」
ミルちゃんは大人びた表情で、海を見つめながら言った。
「うわ、なんというか、綺麗だ……って」
タケルがブンブンと首を横に振る。
「まだ小さな子供だと思ってたけど、うん」
僕は思わず涙ぐんでしまった。
「そうだな。既に俺より大人かもな」
姉ちゃんも涙ぐみながら言うと
「うん、おっぱいも大きくなってるんだよ~」
ミルちゃんはそう言って着ていたシャツをたくし上げ、自分の胸を見せやがった!
「なああ!?」
トウマは驚いて固まってしまい
「ミルちゃんダメ! 早くしまいなさい!」
ミカが慌ててミルちゃんの服を戻そうとする。
「きゃああ!? シューヤが久々に鼻血をー!?」
モロに見てぶっ倒れたシューヤをユカが慌てて介抱する。
「す、既に、俺よりも」
「うわああ姉ちゃーん!?」
僕は気を失って倒れかけた姉ちゃんを抱きかかえた。
「ミ、ミルちゃんもたしかに年の割にでかいが、姉ちゃんがどー見たって」
「タケル、それは言うてやるな!」
「そういえばサキも、あの子くらいの時から大きかったな」
ガイストはあさっての方を向いた後、ボソッとおのれの嫁自慢をしていた。
「へえ、大きいけどお鈴さんには勝ってないね」
「たけぞうさん、あの姉ちゃんってそんなにでかいの?」
チャスタが興味津々でたけぞうさんに尋ねる。
「ほっほっほ。もうぼいんぼいんじゃよ……はっ? おれはいったい何を?」
「ねえ、今何か乗り移ってなかった?」
もしかすると、未来のたけぞうさんか?
その時。
「お、おのれ、隙を突いて全員始末しようとしたが、気が抜けてしまったではないか!」
「え?」
声がした方を見ると、そこにいたのは長い白髪に二本の角、目が異常に赤くて口には牙が見えていて、服装は白い羽織袴という姿の男だった。
って
「な、まさか!?」
「ほう? 貴様は我を知っているのか?」
そいつが僕に話しかけて来た。
「ああ。あんたは別世界の妖魔の頭領、
「かつてはな。今は『大妖魔アスタロト』だ」
「大妖魔、アスタロト?」
僕が首を傾げると
「そうだ。漢字だと読んでる奴らが読み辛いだろうし、いちいち書くのも面倒くさいだろうからこう呼べ」
アスタロトが真顔で答えた。
「メタな気遣いすんな! ってあんたは彦右衛門さん達が倒したはずだろ!?」
「知っていたか。だが我はあの御方の力で蘇ったのだ」
「何?」
「ふふ、あの御方は嘆いておられたぞ。どの世界からも憎しみや悲しみ、争いが消えぬ事を、それが我ら妖魔を産みだしている事をな」
「え、それはいったい」
「さあな。では……む!?」
「はあっ!」
誰かが岩陰から出てきてアスタロトに斬りかかったが
「ほう、やはり貴様も来ていたか」
奴はそれをかわし、その誰かに話しかけた。
「ああ。まさかお主が蘇っていたとはな」
それは黒い羽織に灰色の袴を着ている、二十代後半位の男性。
髪型はちょんまげに月代。
日本刀を手にしていて、威風堂々の佇まい。
その人は最後の仲間、
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