第6話「怒りの二刀流剣士」
僕達はその後、ルーファス城下町までワープし、宿屋に泊まった。
そして翌朝、やって来たのは古代のコロッセオを思い起こさせる、この国随一の闘技場だった。
ここで待っていればあの人に会えるはず、とトウマが言ったので。
「そうそう、ここで武闘大会やったんだよな」
タケルは闘技場を見つめ、以前の戦いを思い出しながら言う。
「そしてヒトシと決勝戦で戦ったんだよね」
「そうだよ。しかしあの時は死ぬかと、いやマジで一回死んだわ。ははは」
そう言いながらタケルが笑っていると
「……タケル、それ言わないで。思い出したくない」
ユカが頭を抱えながら蹲った。
「あ、ごめん。でもさ、今はもうヒトシも仲間だぞ」
「わかってる。けど本当に全てを失ったと感じたあの時の事を思い出すと、今でも怖くて苦しくなるの」
ユカは涙目になっていた。
「ユカ、あの」
タケルはどう言っていいかわからず戸惑っているようだ。
するとシューヤがそっとユカを後ろから抱きしめ
「大丈夫、もう誰も失ったりしないよ。だからね」
「シューヤ……うん」
ユカは笑みを浮かべながら頷いた。
「ふふ、シューヤがいてくれてよかったわ」
ミカが微笑みながら二人を見つめている。
「それよりこの甥っ子、やはり鈍い奴だな」
「痛いって、やめてくれよー!」
姉ちゃんがタケルの耳を引っ張っていたその時
「あれ、あんた達ってもしかして?」
誰かに後ろから声をかけられた。
「え? あ」
そこにいたのは長い金髪で背が高く、ホントにイケメンとしか言いようがない顔。
服装は江戸時代の武者修行の侍という感じで、腰に二本の刀を差している二十代位の男性だった。
「あ、たけぞうさん。お久しぶりですね」
ミカが彼、たけぞうこと
彼女は以前たけぞうさんの世界に行き、そこで彼と出会っていた。
「久しぶりだね。ヒトシに頼まれてやって来たよ」
「そうでしたか。あなたも」
「うん。
たけぞうさんは頭を掻きながらそう言った。
「え? 彦右衛門ってまさか、サキやセリスのご先祖である
ガイストが身を乗り出す。
「そうですよ。でもガイストさんと会う前の彦右衛門さんですから、気をつけてくださいね」
僕が注意すると
「それは分かっているが、ややこしいものだな」
「隆生もタケルも久しぶりだね。元気だった?」
たけぞうさんが僕達に話しかけてきた。
タケルは数回会ってるし、僕も一度この人と会ってるんだよね。
クリスマスの時に。
「ええ。たけぞうさんもお変りなく。ところで敵とは出会いましたか?」
「ううん。城下町はあらかた見たけど、石像になってる人以外は誰もいなかったよ」
「いや、いるみたいだよ」
タケルが闘技場の方を見ながら言った。
「ええ、どうやら敵さんは中で戦いたいようですね」
トウマも神の目で見えたようだ。
「じゃあ行こう」
闘技場の中に入ると、武舞台の上に全身が真っ黒で身の丈が三メートルはありそうな鬼がいた。
手には金棒を持っている。
「ふふ、やって来たか」
黒鬼がやらしい笑みを浮かべて言う。
「あいつも強いだろうけど、タケルやガイストさん、たけぞうさんもいるのだし、負けるはずがないよ」
「ほう、あれでもか?」
黒鬼が指さした方、闘技場の貴賓席らしき場所に誰かの石像があった。
「えっ!?」
「あれはまさか!?」
たけぞうさんとトウマがその石像を見て驚き叫んだ。
「長い髪に陣羽織、背中に長い刀……ま、まさかあの人は!?」
僕も神力で双眼鏡を出して確認した後、あれが誰だかわかった。
「隆生、あれはいったい誰だ?」
姉ちゃんはわからないようで聞いてきた。
「あの人はお
「え、その人はたけぞうさんの」
「フフフ。そうか、やはりあれはお前達の仲間だったか」
黒鬼がニヤニヤ笑いながら言う。
「おいあんた! お鈴さんに何をした!?」
たけぞうさんが怒鳴りながら尋ねる。
「あいつは偶然この世界に迷い込んだようだが、俺達の邪魔をしたので、あの御方が石像に変えたのだ」
「あの御方って誰だよ!?」
「ん? お前達は既に知っていると聞いているが?」
そう言って黒鬼が首を傾げた。
「え? じゃあ僕の想像通りなのか?」
僕が思わず言うと
「あの御方の言う事に間違いはない。だからそうなのだろう」
黒鬼がそれを肯定した。
「そ、そんな」
「そんな事よりお鈴さんを返せ!」
たけぞうさんがまた怒鳴る。
「ああ、返してやろう。ただし俺を」
「うりゃああ!」
黒鬼が言い終わる前に、たけぞうさんが雄叫びを上げながら斬りかかった。
「お、おのれ、最後まで言わせろ」
黒鬼がよろけながら言うと
「言っとくけど、今のおれはすっごく怒ってるから容赦しないよ。はあっ!」
たけぞうさんが二本の刀を構えたと思った、次の瞬間
「ギャアアアーー!?」
黒鬼の全身から血が吹き出した。
「う、動きが全く見えなかった」
ガイストが驚き竦み上がっている。
「う、うわ。あの人ってあんなに強いのかよ」
タケルもたけぞうさんの強さに驚いている。
「たけぞうさん、どうやらあれを」
トウマが何か言いかけた時
「皆さん、今のうちに」
シューヤが僕達を促して来た。
「あ、そうだね。よし」
「では、俺がたけぞう殿と共に奴の気を逸そう」
ガイストが先に向かって行く
「俺も行くよ。兄ちゃん達は」
「わかってるよ。任せといて」
――――――
「はあっ!」
ガイストが右から、タケルが左から斬りかかり
「ぐおおっ!?」
「光竜剣!」
「剣王風神斬!」
間合いを取った後、必殺技をぶつけた。
「ありがと二人共。とどめはおれに任せて」
たけぞうが二刀を構え、二人に向かって言った。
「ええ!」
「お、おのれ! このままやられてたまるか!」
「でりゃあ!」
「ぐおおおおーー!?」
黒鬼が反撃しようとしたが何も出来ず、たけぞうの二刀で胸を十文字に切り裂かれた。
「う、うう」
黒鬼がしぶとく起き上がった。
「まだやるの?」
たけぞうが尋ねると
「く、こうなったらあの女をここに呼び寄せて、盾にしてやるわ!」
「いや残念だけど、もう助けたよ」
「なんだと!?」
隆生とミカはたけぞう達が戦っている隙に貴賓席まで飛んでいき、お鈴を担いだ後安全圏まで退避していた。
「な、あそこには結界が張ってあったのだぞ! あれを解くなど、俺とあの御方以外は不可能なはずだ!?」
黒鬼は隆生達を見て驚き戸惑っていた。
「あれ、そうだったの? 簡単に解けたけど?」
隆生が首を傾げる。
「いえ、たしかにあれは強力でしたよ。でも隆生さんはあっさりと解いちゃった」
ミカは少し引きながらそう言った。
「き、貴様いったい何者だ!?」
「何者って、ただの会社員だよ」
「ふざけるな!」
黒鬼は金棒で隆生に殴りかかろうとしたが
「うりゃああ!」
「ギャアアアアーーー!」
黒鬼はたけぞうに後ろから斬りつけられ、倒れた。
「あ、ありがとうございました」
隆生が礼を言う。
「やばかったね。でも隆生ならあいつくらい余裕で倒せると思ったんだけど?」
たけぞうが首を傾げる。
「いやいや、僕なんかたけぞうさんの足元にも及びませんって」
隆生がそう言った。
(うーん、そんな事ないと思うけどなあ? 隆生からはおれなんかよりも強い力、いや途轍もない何かを感じるんだけど、それは言わない方がいいのかな?)
たけぞうが心の中でそう呟いた時
「ん? まだだ!」
タケルが皆に向かって叫んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます