第5話「剣となり盾となる者」

 そして僕達が解放された後、トウマがやって来て笑みを浮かべながら「もう大丈夫」と言った。

 

 うん、よかった。僕も途中からわかったしね。

 あれはトウマを元気づけようとしてたってのが。


 その後は城の客室でそれぞれ休むことにした。




 そして翌朝、出発の準備をしてた時

「隆生さん、あそこにいるのはイリアの仲間である戦士ですよね?」

 トウマが僕に聞いてきた。

「そのはずだよ。そして彼はあの世界では……うーん」

「あれ、どうしたんですか?」


「いや、彼はあの世界では一番の戦士なんだけど、他の仲間と比べて何か見劣り感がするなって」

「彼には必殺技や特技が無いと思っているからそう感じるんでしょ。それなら大丈夫ですよ」

「え、それって?」

「隆生さんが思っているとおりかと」



 そしてワープして着いた先はルーファス国東部の砂漠地帯。

 そのど真ん中に建っている、今にも崩れ落ちそうな神殿。

 ここは


「あ、ここは以前来た」

 ユカがタケルの方を向いて言うと

「そうだな。ここって昔は魔界の神を祀っていた、って話だったよな」

 タケルがそう言った。


 だけど

「そう伝わっているけど、僕が思ってるとおりならもっと昔は違うよ」


「え? じゃあここって何なのさ?」


「ここはかつて初代神剣士一行の一人である大神官マオが教団を興した場所で、竜神を祀っていた所だよ」


「え!?」

「そ、そうだったんですか!?」

 タケルだけでなくミカやユカ、シューヤも驚いていた。


「ええ。神の目で調べましたけど、大神官マオは当時心に闇を抱えていて、世界制覇を目論んで教団を興しました。でも初代神剣士タケルが彼の闇を祓い、それを防いだんですよ」

 トウマが事実を調べて補足してくれた。


「その話は知ってるけど、まさかここがその神殿だったなんて」

「わたし達って、知らないうちに伝説の場所に来ていたんだ」

 タケルやユカは感慨深く辺りを見渡していた。

 

「でも、何故魔界神の神殿と伝わっていたのですか?」

 ミカが僕に尋ねる。


「トウマ、お願い」

「ええ。大神官マオはその後教団を解体して、改めてここを竜神を祀る聖地としました。そして時は流れ、今から三百年程前に魔界神を崇める闇の教団が現れ、ここを占拠して拠点としました。それからここはそう呼ばれるようになったんです」


「そうでしたか。でもその教団は、別の仲間が潰してくれましたよ」

 ミカが続けて言う。


「それは元魔王軍第五軍団将軍だよね?」

「ええ。タケルやわたし達にも言ってくれたら、もっと楽に倒せたはずなのに」

「何故なのか聞いたら『個人的な理由なので勘弁して』と。隆生さんとトウマさんは知ってますか?」

 ミカとユカが聞いてきた。


「うん。でも僕が思ってる通りとは限らないし、本人が言いたくないのもあるから、言わないよ」

「俺は知らない。あ、神の目で調べないからね」

 僕達が続けて言うと、ミカとユカはそれ以上何も言わなかった。

 知っていても言わないって分かってたんだね。


「あ、そうだ。ここでオードさんが俺達の仲間になったんだ。そして伝説ではそのご先祖様、剣聖イーセ様もここで」

 タケルがふと思い出したかのように言った時


 神殿の中から爆音が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」

「もしかして彼が敵と戦っているのかも?」

 

「兄ちゃん、トウマさん、皆! 早く行こう!」

 タケルが先頭を走っていった



 着いた先は地下の祭壇。

 そこは天然の大空洞を利用して作られたものだった。



「ぐ、くそ。このままでは」

 そこでは黒い軍服を着た戦士が傷ついた体で、黒い魔物と戦っていた。

 

「あ! あれはイリアが倒したのと同じ奴だ!?」

「え、じゃあかなりの強敵」

 


「よし、俺に任せろ! 光竜剣!」

 タケルが剣を振るうと、そこから光り輝く竜の姿をした気が放たれ


「グオオオオー!?」

 それが直撃し、魔物が後退った。



「大丈夫ですか!? 今回復魔法を!」

 ミカとユカが戦士に駆け寄り、治療を始めた。

「あ、ああすまない。そうだ、俺は」

「ガイストさん、ですよね?」

 彼が名乗る前に僕が尋ねた。

「え、何故俺の名を?」


「僕は仁志隆生といいますが、イリアかセリスから聞いてませんか?」

 少し間があったが、彼、ガイストがポンと手を叩いて


「あ、セリスに聞いた事がある。そうか、あなたがシスコンど変態だという剣士か」

「そりゃ今戦っているタケルだー!」


「ゴラー! だから俺は変態じゃねえって言ってるだろがー!」

 タケルが魔物と戦いながらこっちにツッコミ入れてきた。

 うむ、器用な奴だ。


「シスコンは否定しないのか、あの甥っ子?」

 姉ちゃんが呆れながら呟いた。


「っと、あなたもここに呼ばれてきたんですよね?」


「ああ。あの声の主、ヒトシ殿に導かれて。本当ならセリスもここに来るはずだったんだが」

 ガイストが項垂れる。


「あの、彼に何かあったんですか?」


「セリスが言うには、自分やサキがここに来たら時空を修復できなくなる、と」

「へ?」


「あ、神の目で調べましたけど、どうやら敵は全ての世界の時空を、過去現在未来を破壊していってるって、それホント何者なんだー!?」

 トウマが見えた事に驚き叫びながらも説明してくれた。


「だから俺だけで行ってくれと。俺なら皆さんの力になれるからと」

「そうでしたか。では」

「いや、俺も腕に自信がありましたが、アレには敵いませんでした」

 ガイストが首を横に降るが


「それなら力を解放すればいいんですよ。あなたにはまだ隠された力がありますからね」

 トウマがそう言った。

「え? でも俺は既にセリスのご先祖様に力を」


「それは優者の守護者としての力。もう一つの力はまだ完全には目覚めてません」

「そうなのか? だがどうやって?」

「うーん、そうだ。君なら出来るだろ?」

 トウマがミカを見つめた

「ええ。でもあの、それは」

 ミカは戸惑っていたが

「今の君はかなりレベルアップしてるから、ちゅーしなくても出来るはずだよ」

「そ、そうなんですか?」


 うん、ミカもユカも僕の思っているとおりなら、もう最上級クラスだろうし。


 そしてミカがガイストに向けて手をかざすと

「では……はあっ!」

 ガイストの体が光り輝きだした。


「あ、頭の中に浮かんでくる……そうだったのか、俺は」

 ガイストが何かに気付いたようだが、もしかして?


「さあ、その力で彼、タケルと共にあいつを」


「ええ。では」

 ガイストが猛スピードで駆けていった。




「くそ、こいつやたら強、ん?」


「うおおおお!」

「な、ゴアアアアーー!?」

 ガイストの剣が魔物の胸を切り裂いた。


「え、それって」

 タケルが驚きの目でガイストを見ていた。



「え!? あ、あの剣技は!?」

「あ、あれってオードさんの? 何故ガイストさんが?」

 ミカとユカも彼が放った技を見て驚いていた。

 

 それと「オード」とはタケルや彼女達の仲間の剣士である。


「それはね、彼もイリアと同じで約三百年後の未来から来た、それは知ってるよね」

 トウマがミカとユカに話しかける。

「え、ええ。でもそれが?」


「あ、わたしガイストさんって雰囲気が誰かに似てるなって思ったけど、そうだ、オードさんに……まさか?」


「そうだよ。彼は剣聖イーセ、そして剣士オードの子孫なんだよ」



 かつて剣聖イーセは自分自身を神剣士に仕え、それを守護する者と定めた。

 その遺志は子孫にも受け継がれている。

 

 オードはそれを知らずにいたが、運命に導かれるかのように現代の神剣士、タケルの仲間になり共に戦った。


 そして今、ガイストも


「ご先祖様が魂に刻んていてくれたこの技で、神剣士の剣となり盾となる……『剣王風神斬!』」

 ガイストの剣から凄まじい衝撃波が放たれる。

 そして


「光竜剣!」

 タケルの剣からは光の竜が現れ



「ギャアアアアアアーーー!?」


 それらが魔物を打ち砕いた。



「よっしゃあ! やったねガイストさん!」

 タケルはガイストの手を取って語りかける。

「ああ。しかし遠い祖先の仲間と共に戦えるなんて、何か恐れ多いものだな」

「そんなもん気にしないでよ。俺達は仲間。それでいいでしょ?」


「……そうだな。ではこれからよろしくな、タケル。そして皆も」

「うん!」

 二人はガッチリと握手した。 



「ガイストさんも加わり、後二人だね」

「ええ。しかしあの人達は以前この世界に来た事あるとはいえ、精神的に大丈夫でしょうか?」

 トウマが心配そうに言うが


「大丈夫だよ。二人共散々不思議な出来事に出くわしているから、もう何が出てきても驚かないよ」

「それもそうですね。てか一人はそもそも」

「それは後でね」

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