第4話「もう会えないと思っていた彼との再会」
「き、君があのトウマさん!?」
僕は驚きながら尋ねた。
「ええ。まさかあなたの物語の登場人物に転生しちゃうなんて、俺もびっくりでしたよ」
彼が右手で頬を掻きながら答えた。
「そ、そうだったんだ。まさか本人だったなんて。そんな事があるんだ」
「ですね。それと俺の本名は、
へ?
「え、ま、まさか?」
「ええ。そのまさかです」
正田斗真君。
それは以前住んでたマンションの隣人だった、三歳年下の男性。
彼は僕があそこに住み始めてから一年後に引っ越してきた。
最初に会った時からなんか気が合うというか話が弾んで、その後たまにうちに招待して、一緒にお酒飲んだ事もあった。
彼の事は何か友達ってか、弟みたいに思ってた。
それに「トウマ」って名前だし、もしかしたら?
彼はネット活動についてはあまり話したくないようなので突っ込まないでいたが、いつか聞いてみようと思っていた。
でも……。
それはミカユカが家に来るずっと前の事だった。
彼は交通事故に遭い、命を落とした。
その頃から「トウマ」さんからの感想も来なくなったので、やはり彼だったのかと思ったが、確かめる術もなかった。
「けど、本当にそうだったんだね。今の顔もそのままだし」
僕は思わず涙ぐんでしまった。
「この事はヒトシさんが教えてくれたんですよ。しかし俺は全然気付いてなかったですけど、隆生さんはもしかするとって思ってくれてたんですね」
トウマの目も少し潤んでいた。
そして、僕はトウマを力強く抱きしめた。
「僕の大事な友達。いや、弟みたいに思ってた。もう会えないはずだったのに、こうしてまた会えるなんて」
「隆生さんがそこまで思っててくれたなんて、ここへ来てやっと知りました」
そう言ってトウマも、僕を抱き返してくれた。
「うん。迷惑だよね」
「いいえ、『もし兄貴がいたら、こんな感じかなあ?』って……ね」
「う、う」
僕達はそのまま、思いっきり泣いた。
「あの時の隆生は見ていられないくらい落ち込んでいたものな。よかったな」
姉ちゃんも目を潤ませていた。
「ハアハアハア。そして義兄弟愛が、いつしか」
「ほってほられての関係になるのね」
「ねえお姉ちゃん達、今度二人の薄い本書こうよ~」
ゴン! ゴン! ゴン!
「おのれら時と場合を考えろやー!」
タケルが怒りながらミカユカミル、腐女子三人の頭を思いっきりどついた。
「隆生にトウマ君。積もる話は後にして、イリアを何処かに寝かせよう」
姉ちゃんが僕達にそう言った時。
「イ、イリアさん!?」
「うわあっ!?」
シューヤとチャスタの叫び声が聞こえた。
「どうしたのって、え!?」
見るとイリアはいつの間にか、石像と化していた。
「イリア!」
トウマが彼女に駆け寄る。
「ど、どういう事だ?」
姉ちゃんが後ずさる。
「敵にやられた、としか考えられないよ」
「でも兄ちゃん、それなら何で敵は俺達を石像にしないんだ?」
タケルが首を傾げる。
「わからないよ。敵は何かを待っているというネタはあるけど、何かまでは考えてなかったし」
「そうかよ。ところでトウマさんはどうする?」
トウマは彼女を抱きしめ、悲しみに暮れている。
「しばらくそっとしとこう」
「うん。じゃあ俺達は別の部屋に行こう」
僕達はトウマとイリアを残して玉座の間を出、客間へ移動した。
そして、全員が長テーブルの席に向い合って座った。
「さて、これから何処へ行く?」
姉ちゃんが僕に聞いてきた。
「次の仲間は思ってるとおりなら、隣の国に二人いるはずだよ」
「隣というとルーファス王国か。あそこはね」
タケルがそう言って話し出した。
ルーファス王国とは槍騎士が主力の国で、前身の「タイタン王国」の歴史を含めると、この世界では一番長く続いている王家である。
現国王はタケルの祖父の妹の孫なので、彼らは又従兄弟同士である。
彼はまだ十九歳と若いけど、人懐っこくて気さくであり、国民の人気は歴代の王の中では一番、とまで言われている。
そして内政においては重臣の助言もあってあちこちから学者や技術者、魔法使いを集めて色々な研究をさせていたおかげもあり、今やこの世界で一番の産業国家として栄えている。
「それにうちも各国から色々な技術者を派遣してもらって、代わりに医学者や留学生を派遣したり、ってあれこれやってるよ。皆が楽に暮らせる国にしないと王様やってる資格ないだろ」
タケルがひと通り話してくれた後、そう言った。
「うん。そういう事を聞くと、タケルって本当に王様なんだなって思うよ」
僕が感心していると
「そうだった。タケルは王様で神剣士だった。忘れてた」
ユカがポン、と手を叩きながら言った。
「は? じゃあ今まで俺をなんだと思ってた?」
タケルがユカを睨みながら言うと
「ど変態でシスコンの男」
ユカは真顔でそう返した。
「ゴラー! 俺は変態じゃねえー!」
タケルがユカに掴みかかる。
「嘘。だってわたしの全裸を何度もジロジロ見てたじゃない」
「ありゃお前が見せて来たんだろがー!」
「え、え? ユカの裸を何度も? おれなんか一度も見た事ないのに。おのれ、たとえ主君といえども」
シューヤが血の涙を流し、どっからか出した槍を構える。
「ちょ、待てやめろ!」
チャスタが彼の腕を掴んで止めるが
「なんだよ、チャスタだってミカさんの裸を他の男に見られたらどうする?」
「そ、それは、うん、分かるけどやっぱやめろ!」
あ、僕も事故とはいえミカユカの裸を見てるわ。
もし言ったらヤバイな、と思った時に
「あ、そういえばユカもわたしも隆生さんに何度も見られたっけ」
だから言うなー! それと何度も見とらんわー!
「へえ~? 隆生さんもタケル様と一緒に串刺しにしましょうか」
「ふーん? オイラもミカの全裸はまだ見てないのにー」
「隆生、覚悟はいいか?」
シューヤとチャスタはともかく、姉ちゃんまで身構えるな!
おのれは何度も一緒に風呂入って見てるだろがー!
「に、兄ちゃんには悪いけど、今のうちに退避」
「ねえ、タケルお兄ちゃん」
ん? ミルちゃんがタケルに話しかけてる?
「な、何だよ?」
「さっきのお返し、えーい!」
「のわああ!?」
ミルちゃんがタケルを背負い投げ、たあああ!?
「ぐ、あの娘ってあんな事出来たのかよ?」
僕の隣に落ちたタケルが痛そうにしながら言う。
「ぼ、僕も知らなかったよ。ミルちゃん、それいつからできるようになったの?」
「おばあちゃんに習ったの。あのね、おばあちゃんって昔は格闘技のチャンピオンだったんだって~」
ミルちゃんがケラケラ笑いながら言う。
「な、何だとー!?」
ミルちゃんの父親は戦士だが、それは母方の血だったのか!?
てかあの人は格闘家兼BL作家だったんかー!?
「まあとにかく、覚悟はいいか二人共?」
姉ちゃんが指をポキポキ鳴らしながら近づこうとした時
「優美子さん、殴るよりこれで……ハアハアハア」
ミカがどっからか取り出したロープを姉ちゃんに差し出す。
「そうだな。よし」
姉ちゃんがニタァっと笑い
「やーっておしまい!」
何かどっかの悪役っぽく号令すると。少年少女達が僕とタケルをあっという間に縛り上げやがった。そして。
「や、やめろくすぐったい! ヒャハハ!」
「ちょ、そこダメ! おいユカ! ドサクサ紛れにどこ触ってやがる!?」
僕達は全身をくすぐられまくった。
――――――
「はは。たぶん俺が途中から見てたのを知って、あんなふうにふざけてるんだな」
トウマは彼等を見て笑みを浮かべていた。そして
「ありがとう。俺の新たな仲間達」
小声でそう行った。
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