第2話「リーダーは誰?」

「隆生、まずは彼からにするか?」

 姉ちゃんが僕に話しかけて来た。


「そうだね。彼はもう彼女と再会しているだろうから、二人いっぺんに仲間にできるよね。でも、最後に決めるのはリーダーのタケルだよ」

 僕はそう言ってタケルの方を向いたが


「何で俺がリーダーなんだよ。このパーティのリーダーは隆生兄ちゃんだろが」

 タケルはしかめっ面になって言った。


「何言ってんだよ。タケルは神剣士で全世界の英雄だし、君以上にリーダーに相応しい人はいないだろ?」

「英雄だとか神剣士だとかは、今は関係ないだろ」

 彼はそう言って僕を睨みつけてくる。


「ぐ、でも、皆は納得しないだろ」

「じゃあ聞いてみる?」

「え?」

「なあ。皆は俺と兄ちゃん、どっちにリーダーになって欲しい?」

 そうタケルが尋ねると、少年少女全員が僕を指さした。


「え? あの、なんで皆して僕を?」

 僕が驚きながら尋ねると


「はい。両方と長く旅したわたしから見ればタケルはたしかに経験豊富で相応しいと思いますけど、隆生さんにはそれ以上に皆を見守ってくれているという安心感があります。だからどちらかを選ぶとするなら、隆生さんがいいです」

 ユカがそう言うと、姉ちゃんも含めた全員が頷いた。


「あと英雄だからと言うなら、隆生さんだって英雄ですよ。この世界では隆生さんは三つの世界を救った者達のリーダーとして知られていますから」

 ミカがそう言ってくれた。


「でも、それは君達がいたから出来たんだろが」


「いえ、隆生さんがいなかったら、おれ達は纏まらずに何も出来ませんでしたよ」

「そうだぜ。オイラ達の大将は隆生さんだよ」

 シューヤとチャスタも続けて言ってくれた。


「どう、まだ文句ある?」

 ドヤ顔でタケルが言う。


「うーん……」

「じゃあ戦闘時のリーダーは俺で、普段は兄ちゃんという事じゃダメ?」

 悩んでいる僕にタケルが妥協案を出してきた。


「隆生、それで手を打っておけ」

 姉ちゃんが僕の背中を叩いて言う。


「いや、出来れば」

「あのな、今くらいはあいつも普通の少年で居させてやれ」

 僕が言い終わる前に、小声でそう言った。


「あ、うん。分かった」

 流石姉ちゃん。

 普段国王として重たい責任を背負ってるタケルを気遣ったんだ。

 僕はホント、ダメだな。


「じゃあそれで、皆よろしく」

 僕が皆に向かって頭を下げると

「うん。ところでさっき言ってた彼と彼女って誰?」

 タケルが腕を組みながら聞いてきた。


「えっと、彼の事は僕と姉ちゃん以外は知らないから置いといて、セリスの仲間である女性魔法使いの事は知ってるよね?」

 

「あ~、あの爆乳魔女か。写真で見たけど、ありゃミカやユカなんかじゃ比べ物にな」




「おーい。生きてるかー?」

「あ、が」

 タケルはミカユカ、ついでにチャスタとシューヤにズタボロにされた。

 てかシューヤ、おのれは主君より彼女が、ってそうなるか。

 

「まったくこの甥っ子は。俺も殴ろうかと思ったぞ」

 姉ちゃんが呆れ顔で言う。

「ねえ~、そろそろ迎えに行こうよ~」

 ミルちゃんが僕の腕を引っ張りながら言った。

「そうだね、じゃあ」


「待ってよ。兄ちゃんと姉ちゃんは着替えてきたら? それじゃ戦えないだろ」

 もう復活したタケルが僕達にそう言った。

「あ、そうだね」

 

 そして僕は紺色の空手着のような上下に黒いベルトとブーツ。

 白いマントを羽織り、腰には日本刀と同じ形の剣を差した。

 

 これらはタケルのお父さんが僕の為に誂えてくれたものだ。

 大和国の五公家当主全員が約四十年ぶりに揃ったお祝いだとか言って。


 姉ちゃんは裾の短い白いローブにズボン、白いマント。

 手には聖杖を持っている。

 これは以前着ていたものを仕立直したものである。

 


「じゃあ出発しよう。ミカちゃん、お願い」

「はい」


 そして僕達はミカの転移術でとある場所にワープした。


 

 着いた所は高い山に囲まれた平地に建つ、西洋と中華が混じっているお城の前だった。


 この国は「コーラン王国」といって、かつてタケルのご先祖様、初代神剣士タケルと共に旅した魔法聖女ナナの息子が、母親を初代女王として興した国である。

 そしてこの世界では最大最強の魔法国家で、タケルの仲間である魔法使いの生まれ故郷でもある。



「やっぱここもかよ。王家の人達も、じいさんも」

 タケルが拳を強く握りしめる。


 その場所、玉座の間では即位したばかりの若い王様と王妃様、そして魔道士風の老人が石像になっていた。

 老人はさっき言った魔法使いである。

 この人はこの世界、いやおそらく全ての世界を見渡しても現代最強の魔法使いであろう。


 そんな人でもこれは防げなかったのか。


「……ダメでした」

 シューヤが首を横に振る。

 他の皆も城の中を手分けして見てきたが、やはり全員石像になっていたそうだ。

 

 最後に姉ちゃんが玉座の間に来たが、あれ?

 誰かをおんぶしている?


「くそ、こいつ結構重い。よっと」

 姉ちゃんはやや乱暴に背負っていた人を降ろした、ってそれは!?


「あ、イリアお姉ちゃんだ!」

 ミルちゃんが先に彼女、さっき言った爆乳魔女イリアに駆け寄った。


 遅れて僕達も彼女の側に寄る。


 どうやらイリアは城の中庭で倒れていて、気を失っていたようだ。

 しかし相変わらずの爆乳だな、オイ。


「ん? なあ皆。このイリア姉ちゃん、何かちょっと違わないか?」

 チャスタがイリアの顔を見ながら尋ねる。

「え? あ、そういえば何というか」

「前より大人っぽくなってる?」

 ミカとユカが続けて言う。


「そうだよ。このイリアは以前会った時から見て、六年後のイリアだよ」

 僕がそう言った後

「あ、そうか。イリアさんはおれ達から見て約三百年後の世界から来たんでしたね」

 シューヤが思い出したかのように頷く。

「そうだよ。そして僕が思っているとおりなら、ここにいるもう一人は」


「ええ、俺ですよ」

 僕達の後ろから声がした。


 振り返ってみるとそこにいたのは、短く揃えた黒髪にキリッとした眉、服装は青いマントに青いシャツ、黒いズボンを履いた二十代前半位の男性だった。


「あ、もしかして君が」

「はい。トウマですよ」


 それは、ありがち(?)に異世界転生して勇者となった、トウマだった。

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