第1話「皆が石像になってしまった」

「い、いったい何が?」

 そこにあった石像を見つめながら言うのは、髪型は短めに揃えたミディアムヘアで、背が僕より高いスレンダーな美女。


 それは僕こと仁志隆生にしりゅうせいの四歳上の叔母で姉代わりの女性、仁志優美子にしゆみこである。


 そうそう、以前まで姉ちゃんの髪型はシニヨンヘアだったが、ある日突然イメチェンしたいとか言いだして、今の髪型にした。これもまた結構似合ってる。

 

 っと、その石像は姉ちゃんの実母、トモエさんによく似た、いや


 トモエさん本人だった。



「今朝起きたら祖母ちゃんだけでなく、うちの家族皆がこうなってたんだよ」

 悲しそうな顔で僕達に言ったのは、ボサッとした黒髪、服装は日本神話に出てきそうなものの上に、白いマントを羽織っている十七歳の少年。

 彼はこの「大和国やまとこく」の王様、そしてこの世界「シュミセン」の世界連合盟主でもあるタケルだった。



「転移呪文でおおまかに世界中の様子を見てきましたが、確認出来た限りでは、全員石像になってました」

 黒い魔女っ子衣装で黒髪をポニーテールにしている、もはやうちの居候どころか家族当然の腐女子兼鉄オタで十六歳の賢者、ミカ。

 

「ええ。お父様やお母様も、友達も皆」

 水色のショートボブ、眼鏡をかけていて、服装は白を基準とした賢者服。

「姉」のミカと同じく腐女子で十四歳の賢者、異世界の女王候補でもあるユカ。


「うちの家族も叔父や叔母、いとこ達も」

 やや長い黒髪、目つきに鋭さがあり、服装は古墳時代を思わせるような形の上着とズボンの彼はタケルの小姓で万能戦士、大貴族の息子でもあるシューヤ、十四歳。


「父ちゃんや母ちゃん、町の人達も皆、石像になってた」

 頭には白いターバンを巻いていて、団栗眼に少し頬がふっくらしている少年。

 服装は青いベストに白いシャツとズボンといった、アラビアンナイトのような雰囲気。

 それは元盗賊で鬼族と人間のハーフ、現在は武闘家でもあるチャスタ、十二歳。


 昨日タケル以外の皆が僕の家に遊びに来て、今朝ここに来たら、世界中の人々がトモエさんと同じように石像になっていた。


「いったい何故こんな事に?」

「俺にも分からないよ。神力でも元に戻せないし」

 タケルの言葉を聞いて、皆が項垂れる。


「ねえ~、皆元気出して」

 そう言ったのは金色の少し長めの髪から尖った耳が出ていて、目がぱっちりとした可愛らしい顔つきの少女。

 前面に桃色のリボンがついた、同じ色のトップスにスカート、アームカバーとレッグカバー、ブーツといった何か女児向けアニメのヒロインみたいな服を着ている彼女は、精霊女王の子孫でユカの従妹でもあるハーフエルフの少女、ミル。

 歳は十一歳。

 彼女は異世界でうちの祖父ちゃんに育てられたのもあって、僕は歳の離れた妹みたいに思っている。


 その後しばらく沈黙が続いた時、何処からともなく声が聞こえてきた。


- 隆生、タケル。そして皆も聞こえる? -


「あ、この声はヒトシ? あれ、何でテレパシーなの?」


 ヒトシとは僕が書いた物語のラスボス。

 彼は最後は僕の世界に転生した、てか前世の僕である。

 でも何故か彼の意識はそのままで、今は神様が造った別の体にそれを宿している。


- あのね、僕は異空間に封印されちゃったんだよ -


「ふ、封印されたって、いったい誰にだよ!?」


- 正体不明の敵にだよ。でもこんな事ができる奴は僕の知る限り、僕達の味方しかいないはず。だから敵は想像を絶する奴だ。それとセイショウがその敵に囚われてしまったんだよ -


「え、ええ!? 守護神様が!?」

「神様を捕まえるってとんでもない敵じゃないか!」

「そんなの相手に勝ち目があるのか!?」

 皆が口々に言うと


- 安心して。異世界から助っ人を呼んでおいたから -


「え?」


- でも呼べたのは五人。そしてここに直接呼べなかった上に、全員バラバラに落ちちゃったんだよ。だから悪いけど君達で迎えに行ってよ -


「うん。でも助っ人って誰?」

 

- 隆生、それは君がよく知ってるだろ? 小説のネタにあったよね? -


「あ!? か、彼等なのか!?」


- そうだよ。それに敵の正体も -


「ううん。僕が考えてたのはセイショウさんが囚われる事までだよ。まさかここまでだなんて。あの人はいったい何を?」


- 彼女はおそらく利用されているだけ。真の敵は別人だよ -


「真の敵……もしかして」


「あれ、兄ちゃんは敵が誰だか知っているの?」

 タケルがおそるおそる聞いてきた。


「うん。僕が思ってる通りなら、あの方だろうな」


「あの方って誰? 兄ちゃんの小説は一通り読んだけど、思い当たる奴なんていなかったけど」


「いや、普通に考えたら敵だと思えない人だよ。だから思いつかないだろうね」


「隆生、それはいったい誰なんだ?」

 姉ちゃんもわからないようだね。じゃあ


「――だよ」

 僕がその名を言うと


「な、なんだってーーー!?」

 全員が後ずさって叫んだ。


- そうだったのか。それなら僕やセイショウでも敵わない訳だよ -


「ううん。これはあくまで僕がそう思ってるだけ。そうとは限らないよ」

 

「し、しかしもし本当にそうだったら?」

 姉ちゃんが震えながら言う。


「うん。たとえ全てを超越した神剣士であるタケルでも、敵わないかもしれないね」


――――――


 所変わって、天界。


 数多くある全ての世界、通称「全次元世界」の最高神であるアマテラスが隆生達の様子を見ていた。


「な、なんですって? まさか」

 アマテラスですら隆生が語った者は予想外だったようだ。


「姉さん、それはあくまで隆生の考えだよ」

 その弟、大知神で時の力を管理する神でもあるツクヨミが首を振るが


「いや兄貴。おそらくその通りだろうな」

 末の弟、大武神スサノオは信じたくはないが、というふうに語る。


「え、何故そう思うんだい?」

 ツクヨミがスサノオに尋ねる。

「気づいてないのか? あいつは断片的とはいえ幾つもの世界の事、過去や未来も、それにあの御方の存在すら見えていてそれを物語にしていたんだ。いくら姉貴の子孫とはいえ、そんな事出来るか?」


「そ、そうか。気づかなかったよ」

 ツクヨミが項垂れながら言う。


「そうよね。隆生は私の子孫とはいえその力は無いはず。でも普通に……はっ?」

 アマテラスは何かに気づいたようだ。


「どうしたの?」

「何かわかったのか?」


「ええ。もしかして隆生はヒトシの生まれ変わりであると同時に、スサノオが以前言っていた」


「あっ!?」

「そ、そうか!」

 ツクヨミとスサノオも気づいたようだ。


「もし敵が隆生の予想通りだとしても、それなら」

 アマテラスが弟二人を見つめながら言うと


「わかってるさ。もうこれは掟がどうとかいう問題じゃない。今すぐ隆生やタケル達の加勢に行こうぜ!」

「うん。それに僕達が力を貸せば、隆生が完全覚醒するのを早められるかもしれないよ」

 二人が同意した時


 

- それはならぬな -



「え? ギャアアアーー!」

「ウワアーーーー!」


 彼等は一瞬のうちに石像と化した。


「ツクヨミ!? スサノオ!?」


- ほう、さすがは最高神。すぐには効かぬか……だが ー


 アマテラスは足から徐々に石像と化していく。


「ま、まさか本当にが、何故?」


- そんな事を知る必要はない。さあ、石像となって永遠の時を過ごすがいい -


「ああ……隆生、タケル、皆さん……ごめんなさい、後はお願」


 そして彼女も石像と化し、天界にいた者全てが石像と化した。


――――――


- ごめんね、僕はもう話しかけられそうもないよ -

 ヒトシが申し訳なさそうに言ってくる。


「いいよ。必ず皆を助けるからさ」


- うん。頼んだよ、皆 -


 それを最後に、ヒトシの声は聞こえなくなった。


「さあ、行こうか」

「ああ」

 

 これが史上最大の相手との戦いへの始まり、そして物語の終りへの始まりだった。

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