ネイサン


 エールさんが、その男に向かって「汝の名は」と聞きますと、「ネイサンです」と返してきました。

 仮の名前ですが、ブナイブリス筆頭当主の意味があるのでしょうね。


 エールさんが、「その響きの意味でいいのか?」と聞きますと、頷きました。

「この始末をどうつけるか?」

「できましたらルシファー様のご意向のままにいたしたいので、私にお会いしてくれませんか?」


「あるじ様は命で購えとのご意向である」

「ならばその場で私の命をさしだしましょう、ですからここにいる者の無礼は、お見逃しいただけませんでしょうか?」


「彼らも無礼な結果がどうなるかは、十分身に沁みたはず、以後は控えるでしょうし、私が責任を持ってさせません」

 この男と会ってみますか?その胆力を認めましょう。


 エールさんにその旨伝えました。

「あるじ様は、汝の胆力に免じてお会い下さるそうであるが、命の保証はしないとおっしゃられている」

「それなりの覚悟を持ってくるように」


「無礼を働いた者は、それを心底反省するなら、お許し下さるそうであるが、反省のない者は一族の命で購ってもらう」

 死神は消え、発狂した者の精神も戻りました。


 そしてやはりいますね、この場をやり過ごして私に逆らおうとする者が。

「ネイサン、この期に及んでも愚か者がいる、まずお前、あるじの情けに唾する者よ、地獄の苦しみを味わってもらおう」


 一人の男が自然発火します、温度の低い炎がじりじりと焼いていきます。

 絶叫が響きますが、炎は舐めるように身を焼いていきます。

 簡単には死にませんよ、死ぬ寸前に少しだけ治療してあげていますから。

 私、本当に残酷ですから。


 見かねてネイサンがとどめを刺しますが、そんなことで楽にはさせませんよ。


「無駄だ、地獄の苦しみと言ったはずだ」

「汝らも良く見ておけ、あるじ様に愚かにも逆らおうとした者がどうなるかを」

「汝らは常に他人を見下していた、愚かにもその視線をあるじ様にも向けたその罪は重い」


「この星など一瞬で破壊できる力をお持ちのあるじ様、お怒りにふれた以上救いはない」


「慈悲をお願いできませんか」

 と、ネイサンが訴えます。


 エールさんはネイサンを無視して、

「愚か者はもう一人いる、お前だ、この後、楽しみにしていろ」

 その中年男の手足は、絶叫と共にへし折れました。

 さて、終わりにしましょうか。


「ネイサン、今回あるじ様は格別のお情けを下さるそうだ、この馬鹿者をお前にくれてやろう、どうして欲しい?」

「できましたら、命は……、いえ、お心のままに」

 炎が消えました。


 焼かれた男は、もとに戻りましたが、髪は真っ白になっていました。

 もう一人の男に、

「汝は自身をどうして欲しい」と、エールさんは聞きます。

 きついですね。


「戻して頂きたいのですが……」

「では汝の一番大切な物を差し出すように」

 その男の手足はもとに戻りました。


「ネイサン、五分猶予を与える」

 ネイサンは年寄りたちに別れをいっています、そして妻や子供にも。

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