ミコ様


 ネイサンがもうすぐやってきます。

 私は一足先に姉の家へ戻りました。

 魔力で一つの部屋を閉鎖空間にしました。

 真っ白の部屋には出入り口はありません。


 まぁ結果的に誰も殺していませんし、エールさんは良くやってくれました。

 お茶でも用意して待ちましょうか。


 エールさんが転移してきました。

 ネイサンも一緒です。

「エールさん、ご苦労さま、お茶でもいかが、ネイサンもどうです」

「ルシファーのお茶ですから毒が入っているかもしれませんよ」

 エールさんが「あるじ様のお手製ですか、光栄です」と嬉しそうに飲んでいます。


 そしてネイサンへお茶を差し出しました。

 貴方、冷や汗というものがでていますよ。


「ありがとうございます」

 手が震えていますが、凄い自制心を発揮しているのでしょうね、優雅に飲み干しました。


「私に会いたいとか、聞いてあげましょう、でも言葉は選ぶ必要がありますよ、地獄の炎は嫌でしょう?」

 私は微笑みましたよ、でも怖いでしょうね、私の目は笑っていないのですから。


「まずは先程の男が約束を守って、一番大切な物を私に託しました」

 そう云って、うずら卵ぐらいの大きさのダイヤモンドを差し出しました。


「あの男の大切な物とは、こんなものですか?貧しい心根ですね」

 私はそう言うと、ネイサンの目の前で、そのダイヤモンドを指でつまんで潰して見せました。


「で、お話とは?」

 私は催促しました。

「まず私はルシファー様を、その名でお呼びしてもよろしいでしょうか?」


「ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・ヴァカリネ・アナーヒター・ルシファー・ヒロト・セリム・キッカワ・アスラ、私の名前です、どのように呼んでくれてもいいですよ、ネイサンはどう呼びたいですか」


「できましたら、そのままで……」

「この名前、個人的には好きではないのですがね、この世界では、皆がそう呼びたがりますね」


「ただルシファー様にも仮のお名前が必要かと、女性であられるとは意外でしたが……そこで吉川美子様ではいけませんでしょうか?」

「ミコ?」


「失礼ながらお名前が必要かと考えられます、そこで茜様のお妹様ということで、アメリカ国籍をお創りします」

「やはり移民の国ですから何かと好都合です」


「おもしろい案ですね、それで出来るのですか?」

「それは確約いたします」


「我々はルシファー様の為に全力を尽くします、この地球でのんびりとお過ごしくださればと願っています」

「なるほどね、まぁいいでしょう、その後はこうですか」


「貴方たちは全力で、私をのんびりと生活させてくれる、そして近づくものは排除する、なるべくなら私に地球についての干渉をさせたくない」

「なぜなら私という存在は地球の勢力バランスを根本的に破壊する、言葉を変えれば隔離したい」


「その為には何でもするし、各国政府にも何でもさせる、この辺ですか」

「えらく舐めてくれますね、終わりにしますか?」


「お怒りはごもっともですが、これが一番収まりがよろしいかと考えます」

「でなければ、ミコ様を煩わせることばかりが起こります」

「そのことでミコ様が激怒なさると、どうなるか思い至りました、この地球も終わりになりかねません」

「私は覚悟を固めてここへ来ました、嘘は無しで話しています」


 たしかに、今の私が激高したら大変な事になるかもしれません。


 ネイサンは言葉を続けます。

「出来ましたらルシファー様は日本に戻られて、のんびりとカレッジ生活を送られたらと考えます」

「大変失礼ですが男子禁制の女子カレッジを勧めます」

「ここまでお美しいと、男がお側に近寄ると不測の事態が起こります」


「貴方も男でしょうに」

「お言葉ですが、我々は先程の事でミコ様にお目通り願う時、恐怖が先に来ます」

「とても良からぬことを考える事は出来ません」


 ネイサンが、「その怖い顔で睨まないでください!」と云います。

 そんなに怖い顔ですかね。

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