私の名前
「ヒロトさん、薫の言葉は私にも聞こえていました、しばらくはあの提案がベストですのでよろしくね」
「エール、貴女は水先案内人といえど、今の人の世は詳しく分からないでしょうから、ヒロトさんに従ってね」
「ヒロト?」
「貴女のあるじの事です、いくつも名前を持っています、ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・ヴァカリネ・アナーヒター・ヒロト・セリム・キッカワ・アスラ、そして闇の名前もあります、ルシファーです」
一瞬、エールさんはピクっとしました。
そんなに私の名前に驚くのですかね。
「そうですか、本当に長いお名前ですね、ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・ヴァカリネ・.アナーヒター・ルシファー・ヒロト・セリム・キッカワ・アスラ様ですか」
「見事に光と闇の明星の名前が連なっていますね、そうですか、ルシファーの称号まで持たれておられるのですか、それで私が狂ったのですね」
「なにか変ですか?」と私が聞きますと、エールさんが「いえ、お名前が素晴らしすぎて……」
間違いなしにエールさんと姉、多分、薫さんとマレーネさんは、この名前のどこかに秘密があるのを隠しているのでしょう。
それは、ルシファーという名前に間違いありませんが……
姉イシスが、私がエラムの闇組織を始末したときに、気軽にルシファーと呼んだのには、深い意味があったのでしょう。
このテラに私をいざなうために……
水先案内人はイシスさん、貴女なのでしょうね。
ルシファーのここでの意味は、キリスト教神学のルシファー観ではないのは確かですが……
もっとも聖書だけを読むなら、私にはどこにもルシファーが悪魔であるとは、書かれているようにはおもえません。
イザヤ書 十四章十二~十五節に、ルシファーが悪魔といわれる根拠としての、記述があるといわれていますが
「暁の子、ルシファー(天使)よ、どうして天から落ちたのか、世界に並ぶ者のない権力者だったのに、どうして切り倒されたのか、それは、心の中でこううそぶいたからです、
……天にのぼり、最高の王座について、御使いたちを支配してやろう、
北の果てにある集会の山で議長になりたい、
一番上の天にのぼって、全能の神様のようになってやろう……ところが、実際は地獄の深い穴に落とされ、しかも底の底まで落とされます」
ーーイザヤ書 十四章十二~十五節 リビングバイブルーー
これのどこが悪魔の記述なのか、私にはわかりません。
そもそもこの一節は、ヤコブがバビロン王を罵って云ったといわれる部分。
しかもイザヤ書は、もともと紀元前二百年頃にヘブライ語で書かれていたはず、そのヘブライ語ではこの部分は輝く者と訳せます。
四百五年のラテン語に訳されたときに、明けの明星、ルシファーとなったはずと記憶しています。
「暁の子、ルシファー(天使)よ」を、「輝く者よ」と読みかえれば、バビロン王を罵って云った、といわれれば私には納得できます。
まぁ四人がお口にチャックしているのですし、今まで薫さんやマレーネさんが、私の為にならないことをしたことはありません。
彼女らが語らない以上、聞くことはひかえましょう。
イシス姉さんなどは、私がそう思っていることは知っているでしょう、しかし今は聞かないで欲しいと願っているはずです。
エールさんが、
「私はあるじ様を何と呼べばいいのですか?」
たしかにルシファーの考察以前に、私は何と呼ばれればいいのか、はたと困ってしまいました。
死んだ男である吉川茜の弟、吉川洋人ではまずいのは間違いないのですから……
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