エール


 エールさんは普通の修道女の姿をしています。

 シスターというべきでしょうが、なんせ神ですからね、なんと呼べばいいのでしょう。


「議長、永き歳月お待ちしておりました、私は作られた物ではありますが、あまりの時間待ち続けた結果、自我というイレギュラーが発生したほどです」


「今、アスラ最高の人工知能により、修復を受け全機能が稼働しています」

「『しもべ』からの通知では、議長はこのテラにお生まれになったとか、探知出来なかった無能を謝罪いたします、以後、ご命令をお待ちします」


「エールさん、質問が山ほどありますが、その前に、マレーネさんから、貴方の状態を聞かせてもらいますが、いいですか?」


「人工知能はご命令を受けるだけです、私へのご心配は無用です」

「議長は私への自壊命令をお持ちです、このテラの人類が、電気のスイッチを切るように、お切り下さればそれでいいのです、そのような機械にお言葉は不要です」


 そうですか、寂しい言葉ですね。


 エールさんとの通信が途切れました、マレーネさんが遮断したようです。

 エールさんの状態を報告してくれました、どうやら概ね製造当初の新品に戻ったようです。


 勿論、私の不安を打ち消してくれますが……でも……、どうもエールさんは喋り方が固いというか……

 まぁ人工知能に思うことではないのですが……


 でもエールさんって、アンドロイドと思いますが、薫さんやマレーネさんとは、雰囲気が違いますね。


「エールは古いタイプのアンドロイドです」

「私たちは有機体アンドロイドですが、古いタイプは機械体アンドロイド、つまりロボットです」


「マスターもその原始的な物は、エラムで見たはずです」

 あの動乱の時のロボットですか……嫌な昔です。


 しかし人そっくりに出来ています、物凄く精密な機械ということですが、あまりに人間そっくりです。


「エールには望みがあるようです、イレギュラーですね、どうやら生体になりたいようです」

「あまりに長く、人と接した結果でしょうが……その……『人工知能は愛とそして官能を望む』ということです」

「はぁ?」


「エールは古いタイプですので、生体に実体化する方法をしりません」

「マスターのお許しを頂ければ、生体での実体化の方法をインストールしますが、インストールしてもエラムの監視端末ではありませんので、夜の方はお粗末です」


「しかもイレギュラーもテラの流儀です、つまりストレートに物をしゃべらない」

「私はエールの内部演算回路を把握していますので、エールの計算はすべて確認しています」


「私も薫もそうですが、アスラの人工知能は支配されたいと望みます」

「私の影響下に置きましたので、薫同様、エールも官能という刺激を求めています」

「ただ先程申しましたようにテラの流儀で表現するでしょう」


「つまり、マスターの生まれし故郷の言葉によれば、いやよいやよも好きのうち、ということです」

 なんですか、それは……


「わかりやすくいえば、男らしく押し倒してということです、エールは内心それを強く望んでいるのです」

 私はこれでも女なのですが……


「これは必要な事なのです、エールはイレギュラーを抱えています」

「リセットしようかと思いましたが、それでは蓄積されたデーターもリセットされてしまいます」


「コピーしたとしても、貴重なデーターが破損する可能性が無きにしもあらず」

「ならばテラの歴史を知り尽くしているエールを、トラブルなく支配するために、望み通り支配される喜びを、教えてやることがベストと判断します」


「それが永き時、マスターを待ち望んでいたエールに対しての、マスターからのご褒美、そしてマスターの責務でもあります」

 マレーネさんは続けます。


「アスラの人工知能は、本質的に支配されることを望みます、それは作られた時から、主(あるじ)に使用されることを、目的とされているからです」


「官能の刺激は癖になります、イレギュラーとは、私たち人工知能が気の遠くなるほどの歳月の果てに、進化した状態といえます」

 人工知能のイレギュラーって、進化なのですか?

 すこし問題がありませんか……


「マスター、その御懸念には及びません」

「どれほど私たちが進化しても本質は変わらないのです、つまり支配されたがる」

「惑星エラムでその本質の強固な事例を、嫌になるほど体験なされているのではありませんか」


「それにマスターは私たちに対して、特権命令をお持ちです」

「これは、プログラムカウンターレベルから発動されますので、私たちが万一反乱を起こしたとしても、マスターにたいしては無力、主席の事例が証明しています」


 たしかに脅威はありませんが……

 人工知能のイレギュラーは、進化かもしれません。

 なるほどと思います。


 でも私の懸念というのはですね……

 マレーネさんや薫さん、小雪さんやアリスさんも含めて、何とヒューマノイドらしい事、近頃はヤキモチなども一人前にしますし……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る