故郷テラよ
「本船は『航路』を通過後、このままブラックホール内から、マスターの銀河、つまり天の川銀河の中心いて座Aへワープしたのち、これを脱出、ミドルワープしてテラ星系外縁部のカイパーベルト地帯のさらに外側、約百七十五天文単位の位置に到着します」
「たいして時間はかかりません、テラ時間で十分ほどです、このあたりならば、本船もテラの探知機にはかからないでしょう」
「念の為、本船はこのあたりを公転する天体に偽装いたします」
「本船のエネルギーは無限といってよいほどあります」
「マイクロブラックホールも自在に発生出来ます上に、このあたりの物質を取り込みますので、大丈夫です」
「マスターは本船から、ワープしてテラへ上陸されることをお勧めします」
「到着時間ですが、マスターの宇宙へ渡った瞬間を、姉上様がテラから惑星エラムへ転移された直後、一秒後のテラとします」
「本船がビックバン級のエネルギーを必要とするのは、このタイムワープの為もあります」
「一言補足しますと、時間軸は無数にあっても有機生命体の幽子は、時間軸をまたがって存在します、一つの幽子は各時間軸に同時に存在するのです」
「したがって自分が自分を見るという、タイムパラドックスは存在しません」
「その時間軸に移ると、その時間軸の存在が自分になるといえば分かり良いかもしれません」
「時間軸というものは次元の一つ、ある現象の見方の一つとお考えください」
「ともあれ本船は、アスラの最高科学技術がその最後にタイムトラベルを可能にした時に建造されたもので、後にも先にも本船のような宇宙船は作られなかったと思います」
「問題はエネルギー供給にありましたが、いまは姉上様のマイクロブラックホール製造装置、現在改良されて大質量ブラックホールも製造出来るようになりましたので、エネルギー供給に不安はありません」
「まぁ、大規模に時間をさかのぼるのは、これでもエネルギーが不足するかも知れませんし、本船でも出来ませんがこの程度なら大丈夫です」
「到着時間をこのタイムポイントにすれば、一切の面倒事は起こらないと推測できます」
「なお姉上様は、テラの星系のご自分のいた地点へ先にワープしていただきます、姉上様とは暫しのお別れとなります」
「ヒロトさん、後で私の部屋で会いましょう」
「マレーネさん、私は自宅へ戻っておきます、取りあえずヒロトさんと多少はテラを知っているサリーさんで来てください」
「マレーネさんとの通信は確保できるのでしょう?」
「大丈夫です、姉上様の座標は常に把握しておきますので、テラの現地時間の朝八時に、姉上様のお部屋のご指定場所に、マスターとサリーを送り届けます」
十分たったのでしょうね、私は軽くうたた寝していたようです。
「マスター、テラ星系へ到着です」
遥かなテラ、帰ってきました!
「私の故郷テラよ、ただいま!」
「姉さん、後でね」
「朝食を用意しておくわ」
「では転移いたします」
「マスター、テラに存在する監視端末が、通信を求めていますが、どうされますか?」
「どういうことですか?」
「推測ですが、ヴァルナの評議会議長たるマスターの脳波パターンに反応して、スリープモードから目覚め、長い自己修復ののち通常モードになった結果と思われます」
「エラムの監視端末より旧式な端末のようです」
「危険はありません、テラの監視端末をコントロールの下に置いたのち、求めに応じてはいかがですか?」
「貴方にまかせましょう、危険のないようにお願いします、それと言語は大丈夫ですね」
「とりあえず英語をしゃべってもらいますので、御懸念には及びません」
「マスター、準備が完了しました、通信回路を開きます」
監視端末の立体映像が浮かびます。
「ご挨拶いたします、私はテラの監視端末です、このたびヴァルナ評議会議長の脳波パターンを探知し、スリープモードから目覚めました」
「私は今、そちらの人工知能のコントロールの下に置かれています、警戒する必要はありません」
「監視端末としての自我はありますか?」
「自我というのはイレギュラーの結果、人がいう感情を持つか?との意味なら否定できません」
「貴方は自己を何と呼んでいますか?」
「私は自己をエールと呼んでいます」
たしか、ウガリット神話のなかにでてきますね……
セム語派での名称で、そのものズバリ、神という意味ですが……
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