惑星エラムより愛をこめて 【ノーマル版】

ミスター愛妻

プロローグ 帰還

遥かなるテラ


 私はヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・ヴァカリネ・アナーヒター・ヒロト・セリム・キッカワ・アスラ。

 長い名前を持っています。


 惑星エラムの主権者たる黒の巫女であり、ジャバ王国女王、ホラズム連邦王国女王、アムリア王国女王・カルシュ自治同盟女王・ハイドリッヒ連合王国女王・パリス連合王国・レムリア都市同盟女王を兼ねています。


 その上、アッタル騎士団総裁、シャレム騎士団総裁、ヴィーナス騎士団総裁、そして古代に幾多の宇宙を支配した最後のアスラ族のヴァルナの評議会議長でもあります。


 遥かなるテラ……

 私の故郷へ帰りましょう。


 再び宇宙を転移する力を得た、人工知能『しもべ』は、宇宙と宇宙の狭間、たとえればカーテンの揺れのような構造を求めて、驀進しています。


「マスター、もうすぐ宇宙と宇宙が、ニアミスするポイントに到着します」

「マスターの感覚でたとえるならば、小数点が無限大につくほどの極小時間、マスターの所属宇宙と、エラムが所属する宇宙が近づきます」


「仮にもしぶつかれば、ビックバンですが、ぶつかることはありません」

「宇宙同士が近づいた、その一瞬、通路が開きます」


「大きさも質量もない通称『幽子』、これは、記憶とか精神とかを、媒介する構成要素ですが、この幽子は通路をすり抜けられます」


「我々はこの一瞬に、自ら物質を捨て去り、自身の情報を、次に述べる起動幽子に書き込んで、通路を抜けます」

「その後、マスターの宇宙の物質を使い、幽子を起点として、物質を復元するのです」


「この起動幽子とは、物質と出会うと、それを取り込み行動を開始する。マスターの世界の言語でいう、プログラムカウンターともいうべきものです」

「我々自身を、瞬時に再構成します」


「こうして一度通過すれば、この通路は常時使用できます」

「揺れ動く、この宇宙のひだというべき通路は、常に移動しています」


「したがって、座標は一旦確定したら、変移しても見失うなわないようにします」

「このように、座標を維持管理することを、アスラでは『航路』と呼んでいました」


「その昔、マスターの宇宙と、エラムの宇宙に航路が三つあり、ほぼ一カ月ごとに通過出来たのですが、現在この航路のデーターは失われています」


「しかし姉上様より提供された、マスターの衣服に付着していた遺伝子情報と、マスターの持ってこられた姉上様の制服についていた、姉上様の遺伝子情報を基点に、マスターの宇宙における、遺伝子情報の幽子パターンの一致を探し求めた結果、マスターの宇宙における、テラの正確な位置を特定出来ました」


「いままで通信では、正確な座標が特定できず、航路は設定出来ない状況でした」


「このような状態では、通信は不安定になり、テラ時間で五分ぐらいしか維持出来ませんでした」

「したがって宇宙間航行は不可能だったのです」

「でも今は、航路が設定でき、難なく通過できます、通話も無制限に出来ます」


「しかし現在、航路はこれ一本しかなく、三月に一回程度の航行となります」

「多少不便ですが、それでも定期的に通過できます」

「多分、宇宙膨張により、基準座標が狂うまでの、一億年は維持可能でしょう」


「今後はポイントをさがし、宇宙を航行することは不要です」

「エラムの宇宙と、テラの宇宙をつなぐ通路を経て、惑星エラムと惑星テラの、ロングワープポイントを設定します」

「莫大なエネルギーが必要ですが、姉上様のマイクロブラックホール製造装置で可能となりました」


「愛人の皆様は、その通路を通れるようにいたします。つまり期間は限定されますが、宇宙をまたぐ異空間倉庫となるでしょう」


「私としては、エラムの第二衛星上のリリータウンと、この本船内にそれを設定し、テラへは、この本船からワープすることを強く勧めます」


「本船は今からマスターの宇宙へ転移しますが、転移先はマスターの知らない場所にある、どこかの銀河のブラックホール内になります」


「驚かれるかもしれませんが大丈夫です、本船はブラックホールの中など、何らのリスクにもなりません」


「ブラックホールには、マスターの宇宙の物質が流れ込んできています」

「大きさも質量もない幽子は、ブラックホールの中においても拘束されません」

「最初に本船復元の幽子が起動し、一瞬の遅れで、皆さまの幽子が起動し、瞬時に復元される手順です」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る