第19話 ダミー
私には友達が居ない。
生まれてから十六年間、一人として出来た事がない。
きっとこの先も一人で生きて一人で死ぬんだろう。
ずっとそう思ってた。
でも、この前、初めての友達が出来た。
彼女は
物静かと言うか、無口と言うか、私は彼女の声を聞いた事がない。
あ、そんな風になっちゃう病気、知ってる。
だって、私もそうだったから。
人形さんは休み時間になってもずっと席に座っている。
ある日は、ずっと机と睨めっこをしている。
ある日は、ずっと私を見ている。
人形さんは不思議な人だ。
人形さんは誰よりも早く登校して、誰よりも遅く下校する。
学校が好きなのかな。
彼女は授業中先生に指された事がない。
きっと先生も彼女の性質を理解してるんだと思う。……私は答えられなくて怒鳴られて、何度も指されたけど。
ある日、体育祭でクラスTシャツを作る事になった。
「クラスみんなの名前を入れよう。」
ああ。きっと私の名前は入れてもらえないんだろうな。
なんて思ってた。
「ねぇ、あなた、なんて名前だっけ?」
人生で初めてクラスメイトに声を掛けられた。
「え、えっと、」
吃ってしまったけど、クラスメイトは、
「そっか、ありがと!クラスTシャツ楽しみだね」
笑顔でそう言ってくれた。
嬉しかった。
嬉しかった、けど。
「これで全員だね!デザイン完成したら三十九人分発注だね!」
あれ?
「待って、人形さんは?」
うちのクラスは四十人のはずだ。
しかも、Tシャツに人形さんの名前が入っていない。
どういう事?
「ひとかたさん、って誰?」
クラスメイト達が顔を見合わせる。
「そんな子、うちのクラスに居なくない?」
何言ってんの?
「ここに居るじゃない。」
私は隣に座る人形さんの肩に触れた。
「……?」
でも、クラスメイトは顔を見合わせて困り果てた表情だ。
……これって、いじめ?
みんな、人形さんに気付かないふりしてハブろうとしてるの?
「ダメだよ、そんなの。体育祭はクラスみんなで協力するものでしょ?」
「え、ほんとに何言ってんの?」
クラスメイトの視線が鋭く突き刺さる。
「そこ、ずっと空席じゃない。」
?
「この子、やっぱおかしかったんだね」
「前からそうじゃん。ずっとそこの席見詰めながらにやけてたし」
「授業中も毎回吃るし、やっぱ話し掛けるべきじゃなかったね。」
「てかクラスTにあの子の名前要る?」
教室を飛び出す時、そんなクラスメイト達の会話と笑い声が聞こえた。
でも、いい。
だって、私には人形さんが居る。
「こっちだよ。」
ほら、人形さんが私を導いてくれてる。
「あなたは一人じゃないよ。だから私と一緒にこんな場所抜け出しちゃおう?」
うん。私、ずっと人形さんに着いてくよ。
だって、人形さんは初めて出来た私のともだーー
「ずーっと、一緒だよ。」
人形さんに導かれるまま飛び出した屋上のフェンス。
その下には、学校なんかよりずっと幸せな世界が待っていた。
私に繋がれたたくさんのチューブ。
全身に巻かれた真っ白の包帯。
「ここの患者さん、目覚める事はないって言われてたわね。」
「親御さんはまだ諦めないって言ってるらしくて延命措置してるらしいけど……」
クラスTシャツに私の名前はないけど。
クラス名簿から私の名前は消えてしまったけど。
これからは、ずっと人形さんと二人で生きて逝くんだ。
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