第18話 9月0日

8月31日。

彼女にとっては、9月0日。



8月が終わると同時に、夏休みも終わってしまう。


学校が死ぬ程嫌いな私にとって、夏休みは年に一度、唯一の救いだったのに。


「学校早く始まんないかなぁ」


そんな事言う子の気が知れない。


学校なんて、苦痛でしかないのに。




「……は?」


クラスのグルラが久しぶりに動いたと思ったら。


『8月31日は登校日です。』


は?

は?

は???




「有り得なくない?」

「普通に明日からでいいよね?」

「何考えてるんだろ、しかも前日に知らせるとか意味わかんなすぎ」


学校に着くと、案の定生徒達は文句を垂れていた。


「何でも、8月31日に自殺しちゃう子が出ないようにする為らしいよ?」

誰かがそう言っていた。


「逆に昨日のグルラ見て、昨日咄嗟に死んじゃった子も居るかもしれないのにね?」


隣の白木さんがぽつりと呟いた。

……いや、呟いたんじゃない。しっかりとこっちを見ている。


「どうしてそう思ったの?」


普段白木さんが話し掛けてくる事なんてないから、私は驚いて気の利いた事を言えなかった。でも白木さんはくすりと笑って、


「どうもないよ。ただそう思っただけ。」


机に肘をつきながら、にやりと笑った。


…………見透かされてるみたいだ。

私はそっとシャツの襟で首を隠した。



本当は8月31日に死ぬはずだった。

その日は夏休み最終日。翌日から学校に行かなければいけない。それくらいなら死んでやろうと思った。


……登校日が一日早くなったなら、死ぬ日も一日前倒しにすればいいだけの話。


まあ、死ねなかったけど。


自分の手で自分の首を絞めただけじゃ死ねる訳もない。

でも用意出来る程冷静ではなかった。


「結局、私達の唯一の救いの8月31日も奪われるんだね。9月0日、今日はきっと人生で最悪の日になるよ。」


白木さんが言ってる事はよく分からなかった。



背が高くて、いつも余裕な表情で、誰とも群れなくて、勉強もスポーツも出来る。


彼女は孤高の存在だった。


そんな白木さんが、8月31日の夜、死んだ。


最後に言葉を交わしたのは私らしい。


学校が終わった後、通学に使っている線路に飛び込んで、即死だったらしい。


ああ。

彼女は私の事を見透かしていたんじゃない。


死にたかったのは、彼女の方だったんだ。



9月0日。


きっと彼女にとって、この日は人生で最悪の日だった。


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