第15話 パラサイト
誰が見ても仲良しな二人。
喧嘩なんて一切しないし、目と目が合えばお互いの思ってる事なんて何でも分かる。
ミユと私は、一心同体。
「ミユ、一緒にトイレ行こ?」
ミユは私がそう言うといつも頷いてくれる。分かってるよ、ミユもトイレに行きたかったんでしょ?
「ミユ、明日も一緒の電車乗ろうね?」
毎朝ミユは同じ時間の同じ車両に乗っている。私が乗ってるから合わせてくれてるんだ。
「ミユ、体育の時間は一緒に組もうね?」
教師は「三人チームを作れ」って言ってたけど、ミユは他の誰も誘おうとしない。ミユは私が居ればいいって思ってるんだもの。
一人余っちゃったけど、知らなぁい。
ミユには私が居ればいい。
私にはミユが居ればいい。
ミユだってそう思ってる。
「ほんと仲良しだよね、ミユとユミ」
「何でも一緒にやるもんね。ああいう関係ちょっと羨ましいかも」
「何でも言い合えるのに悪口は絶対言わないもんね。」
そう、そう、そう!
私とミユは誰が見ても完璧な関係なの!
「ねえ、ユミ」
その日、ミユの様子はいつもと違った。
何だか暗い?怒ってる?
「そろそろやめない?こういうの」
そう言うミユの手は震えていた。
「え、何、どしたの?」
言ってる意味が分からないよ。
「やめない?」って、何を?「こういうの」って何の事?
ミユってば何イライラしちゃってんの?
今までこんな事なかったのに……。
次の日、いつもの車両にミユは乗ってこなかった。
おかしいなぁ、休むなら連絡くらいくれたっていいじゃない。
そう思いながら教室に入ると、
「ミユちゃんって意外と話しやすいんだね!」
ミユが居た。
「そうかな?私、ずっとみんなと話してみたかったから」
ニコニコ笑うミユ。
「だよねー、ずーっとあの子がくっ付いてるから話し掛けられなかったし」
何?何の話?
「ね、ずっと見てただけの私が言うのも何だけど、流石にこの前のは無いわ」
何でクラスのみんなに囲まれてるの?
「だってさ、ミユちゃんがやめない?って訊いた時、あの子ハサミなんて振り回して――」
「おはよぉ、ミユ」
表情が固まるクラスメイト達を他所に、私はミユに手を振った。
こうすればミユは必ず振り返してくれるもの。
「ミユ?おはよ。」
あれ?あれ?
ねえ。ねえ。ねえねえねえねえねえ?
振ってるじゃん。手、振ってるよね?
何で?見えないの?ミユ失明したの???
「ミユ、何で私以外の子と話してるの?
何話してたの?
おかしいよね?何で私より先に学校来てんの?
何の話してるの?私の分からない話しないでよ……!」
頭が痛い。目の奥を錐で突き刺されているような鋭い痛み。耳鳴りもする。ア。もう分からない。何これ。何――
「ねえ、ちょっと、ヤバい……」
「ミユちゃんこっち来て!先生!!」
「何してるの?やめなさい!!」
「おはよ、ミユ」
「おはよ、ユミ」
いつもの時間の、いつもの車両。
笑顔のミユの頭には、包帯が巻かれていた。
目まで掛かる白い布には、薄らと血の混ざった膿が染み付いている。
「ミユ、怪我したの?」
私がそう尋ねると、
「うん。昨日、ね。」
窓から後ろに流れていく壁を眺めながらそう言うミユの瞳は真っ黒だった。
「この前も切り傷作ってたよね?気を付けなね?」
「……うん。気を付けるよ。」
そう言いながらミユはポケットに手を入れた。
「
サバイバルナイフが、私の喉を掻っ切った。
「教えてあげる。
私はずーっとあなたがウザかった。
クラス替えで初めて隣の席になったからちょっと話しただけなのに親友ヅラしてきて、何するにも着いてきて、他の子と話してるとキレて暴れる。
私が初めての友達だったんでしょ?
でも私は違う。私には他にも友達が居たのに。あなたが全部壊したんだもんね?
行きたくないって言ってるのに無理矢理トイレに連れ回すし、私は違う方向なのにわざわざあんたと同じ電車に乗ってた。体育の時間だって余った子が居ても『一緒にやろう』なんて言えなかった。全部そうしてきたのは、そうしないとあなたが暴れるから。
いつもいつもいつも寄生虫みたいに擦り寄ってきて私を支配しようとしてくるのがウザかった。
あなたは一人ぼっちで死ぬのがお似合いよ。唯一無二だと思ってた親友に殺されるの。
私を今まで苦しめてきた分、ちゃんと苦しんで死んでね?
コレ、あなたが振り回してたハサミ。」
口の中に手を突っ込まれた。舌に冷たい感触と、微かな鉄の味。
「もう私の名前を二度と口にしない様に。」
舌と共に私の意識は途絶えた。
もう二度とそれが元に戻る事はなかった。
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