第14話 バイ菌バイバイ
その夏、未知のウイルスが世界的に大流行した。
それにかかれば脳のどこかの機能がおかしくなってしまうらしい。
そして、治療法はまだ見付かっていない。
「それにかかった人は、廃人みたいになって死んじゃうんだって!」
「え、私は凶暴になって人を攻撃するようになるって聞いたけど?」
「脳ミソが溶けて目から出てきちゃうんだって!」
私の学校には、まだ感染者は出ていない。
だから、まるで非現実的な話に思えてたのだ。
暑い中マスクを着けて登校する毎日。
繁華街に遊びに行けない夏休み。
好きな人に触れる事も出来ない夜。
私達のストレスは極限まで達していた。
「こんな生活にしたあのウイルスには、絶対に感染しちゃいけない。」
そんな暗黙のルールがいつの間にか出来ていた。
「えー。先日、本校の生徒が検査を受けたところ、陽性だったようです。生徒の学年、組、名前は公表しません。ですが接触した可能性のある生徒は、直ちに検査を――」
夏休み明け、ついに出てしまった感染者。
校長の善意からか彼?彼女?の名は公表されなかったが、無意味だった。
「ずっと〇〇が来てない。」
誰かがSNSでそう呟いた事で、その名前は瞬く間に拡散されていった。
「マジ最悪、あの子がかからなければ検査なんてしなくて良かったのに……」
「あの子と同じ部活なんだけど大丈夫かな?」
「もしまた誰かがかかったら絶対あの子のせいだよね」
みんなが溜まったストレスをあの子にぶつけ始めた。
一ヶ月後、あの子が登校してきた。
再検査をしたら陰性だったから外出許可が降りたらしい。
あの子が教室に入ってくると、教室に居た全員が教室から出ていった。
あの子が触った蛇口には誰も触りたがらなかったので、一つの蛇口に行列が出来た。
あの子の友達だった子が、話し掛けようとしてきたあの子に向けてアルコールスプレーを吹きかけた。
避けられ続けたあの子は、再び学校を休んだ。
するとみんなは安心して学校に通えるようになった。
「来ないでほしいよね。」
「迷惑なの分かんないのかな?」
「まだ菌持ってるかもしれないのに。」
SNSに書き込まれた数々の投稿を見たあの子は、そのまま誰にも知られずどこかへ引っ越していった。
悪いのはウイルスなのに、いつの間にかウイルスに感染してしまった人が悪者になってしまった。
「だって、誰だって感染したくないでしょ?」
そう言ってあの子を避けてた子が、今度は感染してしまった。
「絶対あの子が移したんだって!」
そう叫んでいたけど、誰も聞かなかった。
「感染したならあんたもあの子と同じ。」
誰も彼女に近付かなくなった。
そんな彼女を見た生徒達は、手の皮がぼろぼろに剥けるまでアルコールを擦り込んだ。ひび割れて血が滲むまで手を洗った。喉が真っ赤になるまでうがいをした。
感染したら、今度は私がバイ菌になっちゃうもの。
ある子のお母さんは必要以上の消毒液を買ってきたらしい。
ある子のおばあちゃんはマスクを買う為に毎日隣町まで歩いているらしい。
オークションサイトには値段が何百倍にも膨れ上がったアルコールやマスクが蔓延る。
「それにかかった人は、廃人みたいになって死んじゃうんだって!」
ウイルスに感染してしまった人はSNSで何度も誹謗中傷され、家のポストには、「この町から出てけ」と書かれた紙が投げ込まれるらしい。
村八分のような状況に耐えられなくなった家族は、あの子のようにその町から出て行ってしまうらしい。
「え、私は凶暴になって人を攻撃するようになるって聞いたけど?」
「脳ミソが溶けて目から出てきちゃうんだって!」
感染してしまった人達は、みんな涙を流しているらしい。
誰も、自分が感染している事に気付いていなかった。
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