第9話 安楽死制度

『日本でも安楽死が認められたんだって』


朝、食パンを齧りながらSNSを見ていると、そんなツイートが目に入った。


「へぇ。」


私はそのままスクロールした。


その投稿には単純に興味がなかった。


だって私、人生楽しんじゃってるんだもーん!




「おはよー、今日暑くね?」


「それな。この教室クーラー無いの終わってるよね」


「殺す気かよ、こんなんで授業受けられるかって」


ハンディファンや下敷きを扇ぐ音が教室中を埋め尽くしている。


「ねえねえ、トレンド入りしてるの見た?」


「何が?」


「日本で安楽死が認められたんだって!」


「安楽死ぃ?楽に死ねるってこと?」


「そう。詳しくは知らないけど。」


「使う人居るのかな?」


「さぁ?国に認められたってことはそれだけ希望者が多いってことじゃない?知らないけど」


「まあ私達には関係ないよね。」


私達は笑いながらその話題をスクロールした。




翌日。

友達が死んだ。


「使う人居るのかなぁ?」


そう訊いた本人が死んだのだ。


担任も校長も理由は教えてくれなかったが、きっと誰もが解っていた。


「あの子は、安楽死制度を使用って死んだんだ。」




一人死ぬと、また一人、二人、五人、十人。


生徒がどんどん死んでいった。


他の子が使ったんだから、私が使っても何も言われないよね。


きっとそう思った子達が死んでいる。


あんなに賑やかだった教室も、今は静まり返っている。


まだ残暑が厳しい中、ハンディファンの音も、下敷きを扇ぐ音もしない。


みんな死んだような目でただ座っているだけ。



……あれ?あの子、この前死んだはず。


あれ、あの子も。あの子も、あの子も?


「使う人、たくさん居たね。」


聞き慣れたその声にはっと振り返る。


そこに居たのは、一番最初に死んだあの友達。


「どうして」


死んだはずのあなたがここに居るの?


「どうして?あなたが一番分かってるはずよ。」


その子はにっこりと笑って、一歩私に近付いた。


「ずっと心細かったの、やっと友達が来てくれた!」


そして私に抱き着いた。


ああ。私、いつの間に?




今日もどこかで誰かが安楽死制度を利用した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る