第8話 成れ果て

私には幼馴染みが居た。

彼は私より四つ年上で、向かいの家に住んでいる。

彼は明るく誰からも好かれる少年だった。


幼い頃はよく二人で遊んだりしていた。

いつからだろう。彼が思春期を迎えると、私達は次第に互いを避け始めていた。私が年頃になると、完全に顔を合わせる事はなくなっていた。



高校三年生になった春。いよいよ大学受験に向けて本格的に勉強し始めた頃だった。

夜遅くまで勉強していると、何か大きな音が聞こえてきた。


すぐにパトカーのサイレンが近付いてくる。


翌日近所でおばさん達が話しているのを聞いたけど、どうやら近くの家に住む大学生が暴れて親に怪我を負わせたらしい。

寝不足と生理が重なりイライラしていた私は「バカじゃないの」と思っただけで通り過ぎた。


それから一ヶ月くらい経つと、夜中母親に呼び出された。


「最近××君と会ったりしてないよね?」


急にそんな事を訊かれた。

××君?ああ、アイツか。


「会う訳ないじゃん、てか今聞くまで存在すら忘れたし」


「そう。ならいいけど」


母親は心底安心した様子だったけど、私にはその意味がよく分からなかった。



それから三日後。

今度は叫び声が響き渡る。

けたたましい男の叫び声。


「お前のせいだ!!」


うるさい。


「お前が僕を産んだから!!」


うるさい。


「お前が全部悪いんだよ!!」


うるさいってば。


「僕の人生滅茶苦茶にしたのも全部お前だろ!!」


「うるさいって言ってるでしょ!!」


自分でもびっくりするくらいの声量で叫んでいた。


「何なのよ!」


こっちは毎晩勉強漬けだって言うのに。無性に腹が立った私は部屋の窓を全開にした。

初夏の生ぬるい風が吹き込んでくる。

そして叫ぶ。


「そんなに嫌なら死ねば!!」


途端に男の声は止む。

大声を出した事でストレス発散になった私は窓を閉め、再びシャーペンを握った。


何か音がした気がするけど、気にしなかった。


昨日徹夜をしたせいか、いつの間にか机に突っ伏して眠ってしまった。



翌日。


向かいの幼馴染みが死んだらしい。


両親を包丁で刺した後、自分は二階の窓から飛び降りたらしい。

飛び降りる前に自らの腹も刺していたらしく、助からなかったらしい。


原因は大学受験に失敗して数年引きこもってしまい、挙句両親と不仲になってしまったせいだとか。


その年、私は高校を卒業した。

そして浪人生になった。

第一志望も、第二志望も、駄目だった。


ああ、もう半年以上も前の出来事なのに、どうしてこんなに頭の中にこびり付いてしまったんだろう。

まるで、幼馴染の呪いみたいだ。


あの時私が「死ねば」なんて言ってしまったから?私があんな事言わなければ彼は死ななかったの?

私の言葉が無ければ、彼は更生して社会の一員になれていたのだろうか。


ただ、私が今思う事はただ一つ、


『彼のようには成りたくない』




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