第2話 深夜のタイムスリップ

公園を燥ぎ回る私は、もう子供じゃない。



意味もなく叫び散らかしながら燥ぎ回ったあの公園は、危険だからという理由で次々と遊具を撤去されてしまい、ただの空き地になってしまっていた。


近所に住んでいたいつもアメをくれたおじさんは、コンビニで雑誌を万引きして捕まったらしい。


同じクラスで密かに好意を寄せていた西野君は、中学に上がってから厨二病になって、学校中の笑い物にされて不登校になってしまっているらしい。


あの幸せは永遠に続く物だと思っていた。でもそれは私のただの妄想で、実際には永遠に変わらない物なんて存在しないらしい。

堪らなく悲しくて発狂したい気分になった。でもいくらあの頃の様に叫んだってあの頃に戻れる訳ではない。

だったら何をしたって無駄な事だ。



仕事の帰り、ふとあの公園があった場所へ足を運んだ。

「うそ。」

空き地だったはずのその地は、あの頃のように遊具で溢れ返っていた。


うそ。うそ?うそ!

バカみたいに興奮した。ヒールを履いてるのにその場で飛び跳ねた。足踏みをした。鞄をベンチに放り投げて、砂の地面を走った。


ブランコがある!

鉄棒がある!

シーソーがある!

滑り台がある!

砂場がある!


スーツが汚れるのも忘れて、私は無人の公園を堪能し始めた。


ブランコ何年ぶりだろ、たのしー!

鉄棒も久しぶりだけど逆上がりくらいは出来るかな?たのしー!

シーソーは一人で乗るのはちょっと恥ずかしいな。でもたのしー!

滑り台ってこんなに怖かったっけ?たのしー!

砂場で山とか川とか作ってたな、トンネル作ろ!たのしー!


‪♡


はぁ。

急に現実に引き戻された私は、ベンチの上に蹲った。

しんど。いい大人が何やってんの?

もう0時回ってるし誰も見てないよね?


夜空を見上げる。今日も星は見えやしない。半分欠けたお月様が静かに都会の街を照らしているだけ。


もうあの頃は戻ってこないのかな。

あの頃の私も、あの頃のおじさんも、あの時の西野君も。

そうだ。公園はこうして戻ってきてくれたけど、人間は一度変わってしまったらもう元には戻らないんだ。

一度汚れてしまったら、もうあの頃のキレイな私には戻れない。

大人になるに連れて、私の真っ白だった色はどんどんどんどん黒ずんだ。


……どこぞの少女漫画だったら、ここでイケメンに成長した西野君が登場するところだよね。今頃何してるんだろう。

「……バカみたい。」

いつの間にか口癖になっていたそれを無意識に呟いた所で、私は立ち上がった。


明日も早いんだから、早く帰って寝なくちゃ。


夜の街を小走りで駆け抜ける私を悲しげに私を見下ろすお月様は、見てるだけで昔に戻らせてはくれなかった。





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