箱に蔓延る蔦
しーな
第1話 笑顔
朽ちない翼が欲しい。
あの子はいつも笑っていた。
初めてあの子の笑顔を見たのは、新学期早々失恋して落ち込んでいたクラスメイトを元気づけていた時だった。
それから私はあの子の事を意識してしまうようになった。
だって、あの子の笑顔は、余りにも――
数学の授業中に居眠りをしていた誰かが寝言を口にして教室が静まり返った時も。
遅刻して教室に走り込んだら教卓に躓いて盛大にずっ転けた時も。
お昼休み、巫山戯たクラスメイトに自分のお弁当箱をひっくり返された時も。
中庭で男子生徒が煙草を吸っていて、それを目撃したせいで濡れ衣を着せられた時も。
いつだってそう。あの子は笑っていたの。
✝︎
六月。梅雨。
その頃から、あの子の顔から笑顔は徐々に消えていった。
くまが濃くなった。目が虚ろになった。口の両端はだらしなく垂れ下がり、唇は微かに震えていた。
無理矢理笑おうとしていたけど、笑えていないのはみんなが理解っていた。
いつしかあの子の周りでは、誰も暗い話をしなくなった。誰も悪さをしなくなった。誰も弱音を吐かなくなった。
あの子の腕は痩せ細り、赤い傷が増えた。何枚もの絆創膏を重ねて貼っているけど、それでも分かってしまうくらい酷くなってきた。
夏休みに入る直前、七月半ば。
あの子が死んだ。
「空飛びたい」
そんな遺書を残して。
あの子が居なくなって初めての冬。
あの子の存在を知って初めての冬。
「冬」と云う季節を、あの子と過ごす事はもう無い。これまでも、これからも。
朽ちることはないと思っていたあの笑顔が枯れ果ててしまうのは、余りにも早かった。
そう、あの子の笑顔は、余りにも――
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