第6話 オディプスという男【2】
「やれやれ致し方ないね。……実はこの子の幼馴染の少女たちが、今朝方この町を発ってしまったのだが……連れ去りの可能性が高いようなので、こちらに相談するよう宿のお嬢さんたちに助言を受けたんだ」
「連れ去り!? ……連れ去った奴の特徴は?」
「こんな男だったね」
と、オディプスが指を宙に滑らせる。
すると、ミクルの知る『リーダー』の顔がまるで絵のようにそこに現れた。
ギョッとするミクルと受付の男。
騒つくテーブルにいた冒険者たち。
「え、あ……な、なんっ……ま、魔法⁉︎ アナタ魔道士? い、いえ、こんな事が出来るなんて、魔導師かしら!?」
「まあ、そんなところだ。で、この男……誰か知っている者はいるかな? 昨日この子も、この男の仲間らしき連中に殺されそうになったんだが……」
「なんですって? 君、大丈夫だったの?」
「…………」
「少年、心配してくれているようだよ」
「っ! はっ!」
呼吸が戻った後も思考が戻ってこなかった。
オディプスに背を軽く叩かれて、ハッとする。
「は、は、は、はいっ……よ、四人の、男の、人……。ゆ、勇者になりたいって、む、村に来て……ワ、ワイズたちを……お、おれの、幼馴染、四人、女の子、ばかり……連れて……えっと……」
「僕はたまたまこの子が男たちに森へ連れて行かれるのを見かけて助けに入ったんだ。しかし、気絶したこの子が目覚めるのを待っていたら、この子の幼馴染たちが既に町の外へ連れて行かれていたらしくて……」
「そうだったのね。なんにしても無事で良かったわ……。それにしても、こーんなにカワイイ男の子を殺そうとするなんて……。で、女の子の幼馴染が四人も連れ去られたのね」
「えと、あの……」
「恐らく騙されて連れ出されたのだろう。宿のお嬢さんたちがギルドに所属していないこの子に、このギルドから呼び出しがあったと聞かされていた」
「なんですって!」
バキッと、カウンターの板が割れた。
ミクルは、目を見開いてそれを見てしまった。
受付の男が立ち上がるついでに拳をカウンターに叩きつけ、その力でカウンターには二つの穴が空いたのだ。
「……うちのギルドをダシに使った……!? 何よそれ、許せない……! ブッ殺すわ……!」
ざわ、とテーブルにいた冒険者たちが殺気を放つ。
ミクルは肩が跳ね上がった。
先程までにやにやと状況を見守っていた冒険者たちの、あの殺気だった様子。
受付の男の、この様子。
なにやらただ事ではない。
「おい、そういう事なら話は別だぜ。その男の似顔絵……? をよく見せな」
「どれどれ」
「あーん?」
座っていた冒険者たちがぞろぞろ、オディプスの出す光の肖像画に近付いてくる。
その肖像画を見て、何人かが「エモートじゃねぇか」と指を指す。
「? ……え、あ、リ、リーダーって、名前じゃ……」
「はあ? リーダーだと? あいつそんなアホな名前名乗ってたのかぁ?」
「そんなわけねーだろ。どう考えても偽名だぜ坊主」
「……!?」
「ははは! 少年、それは誰でも偽名と分かるよ」
「!?」
「マジかこのガキ、疑ってなかったらしいぜ」
「ウケる」
『リーダー』は偽名だった。
本名は『エモート』。
そのエモートを知る数人の冒険者が言うに、この男は結婚詐欺師。
町から町を渡り歩き、「結婚しよう」と金持ちの家のお嬢さんを騙くらかして家に転がり込み、グータラと生活。
飽きたり、結婚する気がないとバレると、即トンズラする。
とにかく口が上手く、また若い女が大好物。
まとまった金を手に、娼館で十五、六人の娼婦を侍らせて遊んだ事もあるらしい。
「……っ」
「やだん、ガチめのクズじゃない。町を渡り歩いてるって事は、特定の寝ぐらみたいな場所があるわけじゃないのね」
「ああ。あちこちに愛人を作って、町の滞在中はそこへ転がり込むそうだ。典型的な嘘つきクズ男さ」
「そういやメゾロとデルーでも捜索願が出ていたな? 懸賞金付きで」
「ハハ、やらかしすぎたんだろう。いくらだ?」
「金貨三十だ」
「ほお、そりゃあ引き渡したら投石刑だな」
投石刑は、投石機の『的』になる刑だ。
投石機の狙撃手の腕が悪ければ当たる事はないが、当たれば腕なり足なり頭なり……吹っ飛ばされる。
運が良ければ無傷か即死。
運が悪ければ、死ぬような苦しみにのたうちまわる事になる。
「しかし、少女を四人も連れて……娼館にでも売り払う気か?」
「この町以外に娼館があるのは……デルーとエクシ、アイロフ……」
「近場だとその辺だろうな」
「……ス、スーケネク……南東に、行ったかもしれない、です……」
娼館のある町。
そう聞いて、唯一の手がかりを口に出すミクル。
冒険者たちが渋い顔をした。
「南東か。デカイ町しかねーな。シクタス、タコジ、ジヴィ。どこも娼館が何軒かある」
「厄介ね。……いいわ、一応スーケネクとシクタス、タコジ、ジヴィのギルドに連絡を入れとく。そっちの町のギルドが宿に男一人、少女四人のパーティが現れたら引き留めておくように頼むわね」
「あ、あ……ありがとう、ござい、ます!」
「女の子たちの名前や特徴も聞いておいていいかしら?」
「は、はい。えっと……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます