18話 ヘッドライトの絶縁と防水加工

 班のリーダーの指示を受けた俺達は一時的に自由時間に入った。待望のランチタイムである。とは言ってもまだ十時の為、ランチタイムと言うには大分早い時間である。


 それでも朝ごはんが五時前だった為、お腹は空いていた。昼が十時でも朝が五時であった場合朝ごはんから時間は五時間空いている。朝ごはんが七時の人で換算した場合昼ご飯は十二時。ほぼ適時である。


「すまん。遅くなった」


  俺は広場の端にある大きめの机のある場所に向かってサブザックを両手に抱えて走る。どう見てもその机は一年生十三人が収まるスペースは無いのだが、一年生達は大体そこに固まっていた。湖穴は既にミーティング以外は部活に来て居らず幽霊部員になっていた。湖穴は最初から不思議な印象を受ける人物だったが、マジで何する為に部活入ったんだ?机に全員が入るスペースが無い為俺達は机の下を陣取る事にした。しばらく雨が降っていなかったのか地面は殆ど濡れていない。机の上空で咲いた桜が綺麗だ。


「おー。そのウィンナー。ちーー」

「食事前に下ネタ止めろ」


  材木が弁当箱を開くや否や茂木が唐突な下ネタをかまそうとした為俺は焦って止める。もう大体何を言うかは目に見えている。


「おいらのウィンナーのここに切れ目入れたらマジでちーー」

「「チロルチョコ!!」」

「は?」


  材木が茂木の下ネタに乗り気な為俺はそれに対して言葉を被せた。あまりに低俗な会話に不機嫌になったのか速瀬は喉で唸った。やめてくれよ。飯くらい穏便に食おうな?な?


  俺以外の人は殆どがヘブンイレブンで購入した出来合の食べ物やおにぎりだ。最近コンビニの飯もかなりの美味しさの為一区切りに出来合物だからとバカには出来ない。ゴミも使い捨てのプラスチックの容器や、割り箸の為、登山の重荷にもならないのだ。


  しまったな。俺が持ってきたのは使い捨てでは無い普通の金属の水筒と弁当箱だ。これだと登山の際に重荷にもなるし、弁当箱を洗えない為、残ったものが腐敗して衛生的にも良くないだろう。


「今更だけど、みんな何でこの部活入ったの?」


  俺はご飯を頬張りながら尋ねた。


「家族で良くキャンプ行ってたからかな?」

「そうだね、僕もツーリングとか良く行ってたから」


  青空と雲井が答える。この二人は明道とほぼ同じだ。


「ボクも大体そんな感じだよ」

「おれも」

「おれも」

「……」


  孤島と速瀬以外は大体同じ様な反応を返した。


「俺は何となくだわ。陸上とかサッカー部とかめんどくせえしな」


  速瀬はぶっきら棒に答えた。孤島は練習の時も含めて殆ど喋った所を見ていない。だが、俺達を毛嫌いしている様子は無い。人見知りなのだろうか?少し気になるな。


  飯を終えた俺達は広場に設置してある御手洗いでトイレを済ませ、メインザックが置いてある場所まで戻った。荷物の最終確認だ。


「おう、飯食い終わったか?」


 俺が荷物のチェックをしていると鬼登先輩達も飯を終えた様子でこちらに近づいて来た。


「はい。食べ終わりました」

「丁度良い。今荷物整理するついでにパッキングをちゃんとしとけ」


  俺の様子を見た鬼登先輩はおもむろに自分のザックの蓋を開けて中身を俺に見せる様にして見せた。


「どうだ?お前のバックと全然違うだろ?」


  鬼登先輩のザックの中は綺麗だった。全ての物が小分けにされてフリーザーバックに入れられており、そのフリーザーバックには全て中に入っている物の名前と自分の名前が記載されている。防寒具であれば、『六班班長 鬼登 防寒具』。小物類であれば、小物類全ての名前と鬼登先輩の名前が記載されていた。


  それに加えてザックの中身全てを覆う様に巨大なビニール袋が内側にセットされており、全ての物品はその中に収まっていた。鬼登先輩はビニール袋の口を縛るとザックの蓋を閉じた。


「お前の場合、詰め込み方も酷いがそれ以上に防水も甘い。これだと全部ダメになるぞ?一旦全部荷物出せ」

「あ、はい」

「これビニール袋だ。予備持ってるから俺の使え。フリーザーバックは最低限防水が必要な物に使ってくれ。これ高いから繰り返し使えよ?」

「ありがとうございます!」


  俺は鬼登先輩の指示通り荷物を全てその場に出すと小分けにしてフリーザーバックに詰め込んだ。


「おい待て、ヘッドライトは絶縁しとけ」

「え、絶縁……?ですか?」

「誤作動で電気が点いて電池が消耗するのを避ける事ができる。登山の時鞄は大きく揺れる。だからほぼ確実に電池入れたままだと誤作動で点くぞ?あと、電池は別の袋に入れて二重にしとけ」

「分かりました」


  鬼登先輩から細かい情報も手に入れながら俺は荷物を鞄に詰め込んで行く。大きくて小さい物を下部に入れる事によって重量を感じ難くなるらしい為、軽い物を中心に底に詰め込んだ。


「良く使う物はサイドポケットでも良い。特に雨具とかはすぐに取り出せる場所に入れるのがオススメだ」


  鬼登先輩は喋り方がキツく怖面の為怖い先輩のイメージがあった。だが本当は凄く優しくて面倒見の良い先輩だった。鬼登先輩のアドバイス通りに荷物を詰め込んだ俺はパッキングをし直した自分の鞄を再び視認する。


「違うだろ?」

「はい」


  俺の荷物はパッキングをする前と比べて明らかに小さくコンパクトに纏まっている様に見えた。パンパンだった中も隙間が出来て形も綺麗になっていた。


「一回背負ってみろ」


  鬼登先輩に言われ俺は自分のザックに手をかけ背負う。明らかに軽い。




「……軽く感じます」

「そう言う事だ 」


  何よりも歩いた時に起こるザックの左右の揺れが明らかに違うのだ。登山用ザックは背が高い為、普通に歩くと左右が大きく揺さぶられ結構しんどい。だが、パッキングをちゃんとする事によってそれは最小限に抑えられるのだ。


「ありがとうございます」

「いや、最低限の必要事項だ。教えて当然だろう」


  そっぽを向いて話す鬼登先輩だったが、その顔は若干照れ臭そうだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 70リットルとか100リットルのビニール袋はスーパーマーケットで売ってます。無ければゴミ袋でも良いです。

 あれをザックの中に入れてその内側に荷物を入れるようにしたら《海に落ちた!》って言うレベルのずぶ濡れでも口を縛っていれば中が濡れません。結構重宝します。念を置いて二重が好ましいです。


 フリーザーバックは食品用の安い奴では無くてジップロックと言われている少し高めのしっかりしている奴を使うと長持ちします。あれは小分けにして収納するのに最適です。サイズも沢山ありますし、防水性も抜群です。


 弁当などを持参する場合容器などが捨てられる物だと嵩張りません。水筒はプラティパスが無ければペットボトルが最強です。(飲料用以外にも傷口洗浄用の真水もある方が良いです)


 衣服について……足元などは危険なので長ズボン推奨。靴紐は良く引っかかるのでズボンの裾にしまうのをお勧めします。上半身も衣服が引っかかて危ないのでシャツイン推奨ダサいですが。ザックも色んな物ジャラジャラ付けない方が安全です(機能面は置いといて)。


 ゴミ袋について……二重にしておかないと、ザックに生ゴミの匂いが染み付きます。内袋が破けた時にも有効です。ただ一枚だと確実に匂いが貫通してくるのでゴミ袋は二重、三重を推奨してます。


 絶縁……電気類は防水をしっかりした上で電池などを除いておきます。電池類も予備を忘れない様に。絶縁する理由としては誤作動を防ぐのが主な理由です。ヘッドライトとかは特に誤作動しやすいです。


 パッキングについてですが、小分けにしてから軽い物を下部に、重い物を上部に入れるだけで体感重量は相当変わります。是非お試し下さいませ^_^

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