17話 バス移動とパッキング

  バスには高校生も乗っていた。全部員の人数が一台のバスには収まりきらない為、教員車も総動員だ。その為バスの中には教員は居ない。無法地帯である。


  バスの中では主に人狼ゲームなどが行われている。特に騒いでいるのは中学三年生だ。バスの座席を回転させ、トランプを使って様々なゲームを遊んでいる。最近は人狼ゲームとかでもスマホで出来る為、紙のトランプなどを使うのはレアケースである。志道学園に通っている人の六割はスマホを持っている。高校生だけの割合で言うならばスマートフォン普及率は九割近い。


  俺は親にスマホを買ってもらえなかった為、ガラケーである。席は自由席で、班ごとに座らなければいけないなどの細かいルールも無い。正に無法地帯である。その為大体の人が同じ学年で束になって座っている事が多い。バス休憩の際の点呼は班長が名前を呼び手を上げ返事をして確認を取る。


  点呼を行うのは教員では無い。先輩だ。そこで俺は野原先生が入部時にあまり教員が練習などに口を出す事は無いと言っていた事を思い出した。練習だけでなく部活の行事ですらこうなのか……。俺はあまりに自由過ぎて空いた口が塞がらない思いだった。


  特に会話する内容も無い為、俺は目を閉じて深く椅子に腰かけた。


「あー。おーい。山川―。人狼やらねー?」


 程よく睡魔が回りそうな所で能天気な声が俺の耳に届く。


「いや、良いよ。俺眠いし」

「えー。やろうぜー」

「分かった。じゃあやろう」


  人数が人数の為、集団に溶け込むのがあんまり得意じゃない俺は出来れば人狼ゲームをやるのは乗り気では無かった。目的地は木場山きばやま。広島から見て北東部の庄原市付近にある山だ。その山は県民の森としても登録されており、多数の珍しい原生林が臨在しているらしい。


 植生には多少興味があるものの、広島から庄原市までは高速自動車道を通ったとしても二時間はかかる。休憩を挟む事を考えると二時間半は見ておいた方が良い。二時間半もこの人数で人狼ゲームとかやっていたらキャンプ前に疲れてしまうだろう。


 そう思いながらも、誘われたのをわざわざ断る道理も無い為、俺は濱内のスマホの画面を見る。自分からどうと言う事は無いが、人に誘われたのを断ってまで睡眠を取りたい訳では無い。朝が早かったとは言え、睡眠時間は五時間くらいはちゃんと取っているのだ。


 家に帰る時間も部活があると遅くなり、九時前になる。その為、どれだけ急いで準備しても七時間睡眠を取るのは難しかった。






 結局、俺は最後まで寝る事無く人狼ゲームを楽しんでいた。なんだかんだで、友達と遊ぶのは楽しいのだ。木場山に辿り着いて一番に目に付いたのは車を止めた場所にある神社の鳥居とその周りに生えている桜だ。山は温度が低い為五月でもまだ花は散っていない。


 神社の付近には大きな杉がどしんと俺達を迎える様に構えている。山の上の方を見ると色の違うツツジらしき花が咲いている。貰った計画書には紅紫色の花を咲かすコバノミヤマツツジと紅色の花を咲かすレンゲツツジの名前が記載されている。湿性遷移で出来た土壌の為、麓にはアヤメ科の植物があるらしいが今の所それは見当たらない。その他計画書にはここで昔たたら製鉄が行われていた事実や、木場連邦の途中山頂付近の土が黒ボクである為滑りやすいと書かれているがよく分からない。昔この山では幻のUMAが発見されたやら何やらで話題になった事もあるらしい。俺はそう言うのは信じてない節なので、ただの町興しの騙し合いだと思っている。


  情報量が多過ぎる。湿性遷移ってのも何なのか分からないし、正直こんなのは学ぶ必要が無いのでは無いか?とか思ってしまうのが本音だ。今日の登山ルートはこの神社から滝がある場所を通って登るらしい。その付近にはミズナラやブナが分布しているとの事だ。


 名前は聞き覚えあるが、実際に見ても俺は植物の区別はつかない。そもそもこんなページ誰が見るのだろうか?現在の時刻は十時前だ。高校生達はバスや教員車から降りると直ぐにザックをチームごとに一箇所に集め、何かを話している。俺達中学生達はバスを降りて直ぐに点呼が始まった。


「中学生。十一時にもう一回点呼取るからそれまでに班ごとに飯済ませといてね」


  野原先生が俺達の方を向いて声をかけ、高校生達は伯江先生と内山先生の元へと集まって秤でカバンの重さを計っていた。秤の針は大体殆どの人が十キロを超えていた。十キロ……何をそんなに荷物入れているんだ?いや、団体装備品を積み込んでいたらそれくらいになるのか?装備品の重量に疎い俺はそれがどれくらいの重さなのか良く分からなかった。


「おい、山川早く来い。集積するぞ」

「しゅ、集積ですか?」

「教えてやるから早く来い」


 俺は登山道になっている神社の鳥居の目の前の広場で忙しそうな高校生達を他所に班長である鬼登先輩の指示に従って広場の中心に集まった。


「集積ってのはああやって班員のザックを縦にして、中心に集める事を言う。基本的に班行動している時に荷物を降ろす時は集積を行う」


  鬼登先輩は高校生達がいる場所に綺麗に置いてあるザックを指差して話した。登山用ザックは縦長の形状をしており、大抵は自立する事が出来る。だが、ザック単一だと不安定だ。それを補う為四人〜五人のザックを傾けて中心に集める事で、スペースを取らずにザックを自立させる事ができるのだ。


「お前パッキング下手くそだな。それどう言う詰め込み方したんだよ?」

「え?」

「ただ荷物詰め込めば良いってもんじゃねえぞ。メインザックだけじゃなく、サブザックも酷いな」


  集積した際に俺のザックは一番不安定だった。そもそも自立出来ない程に底はボコボコでバランスが悪かった。


「飯食った後で良いから後で中一旦見せてくれ。パッキングのやり方について教えるわ」


  鬼登先輩は呆れて溜息を吐き、手を横に振った。そんなに俺の詰め込み方酷いか……?そう思って他の人のザックを確認するが、俺ほどボコボコの形状をしているザックは見当たらなかった。特に明道のザックは綺麗な形をしていた。それこそ、高校生達と大差無い程に。


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 主人公はまだ無知なので、計画書に山の情報が粗方書いてある事にしました。集積は登山を行う上で大事な項目です。登山の基本マナーなどに位置する項目です。山頂などで休憩を取る際にも他の登山者達の邪魔にならないように集積してから休憩を取った方がスペースが確保出来ます。

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