12話 ミーティング

 日にちは縫合手術から一日戻り、木曜日の事に遡る。


  今日はミーティングの日だった。先日先輩から伝えられた集合場所に向かうとそこでミーティングは始まった。いつも練習の時には中学生しかいない為、見慣れない高校生がいるこの環境は少し不安だった。


 最初は軽い新入生の挨拶から始まり、着々とミーティングが進んでいった。その際に来週行われる登山合宿の概要が渡された。A4サイズの紙には持ってくる物やバスの輸送費見積もりなどの金額が記載されていた。


「ええと、新入生は今日が初めてミーティング……だよね?」


  顧問の野原先生が手元の紙を確認しながら出席確認を取る。野原先生の横には二人の先生が立っていた。恐らくは野原先生の次の地位である部活の副顧問だろう。金八先生の様に左右に分けた白髪を垂らした初老の先生。丸いメガネをかけている。その先生が伯江はくえ先生。


 もう一人の身長百九十センチはあろうかと言うスラリとした先生は内山うちやま先生。ジャグリング同好会の顧問でもあり、マジックが得意な気さくな性格の先生である。鼻が高く、常にニコニコしているイメージの人だ。


  新入生紹介の後に俺達は班編成が書かれた紙を受け取る。班編成とは登山を行う際に班を作る。小学生の遠足とかでも班を作るだろう。アレである。班の編成は殆ど中学三年生がリーダーになる様に作られている為、統率が自然に取れる様になっていた。


「今日は登山の時に食べる飯を考えといてね。あとは団体装備の分担を今日の内にある程度決めといたら楽かも。中学生は三年生に従って班ごとに集まって、高校生は解散」

「「ありがとうございました!!!」」


 高校生達の野太い声が辺りに響き、高校生達はそそくさとその場を後にする。何て威圧感だ……体格も然り、気迫が中学生とは全く違う……。


「ええっと俺の班は……」


  高校生がその場を立ち去り、この場にはいつも練習しているメンバーが残った。俺は貰った紙を収めたファイルを開き、班の概要を確認する。班は大体四人か五人で組まれる。中学生は全員で三十人。班は六班出来ていた。概要は四人班が五つ、五人班が一つである。俺の班は五人班だった。ん?合計が二十五人しか居ない……?


 俺が班の概要の上の方へと目をやると中学生の一班の上にもう一つ班があった。特別班である。中学生のエリート部隊は高校生と行動するのだ。その為一班だけは特別な部隊として班に含まれていなかったのだ。それでも一人帳尻が合わないのは孤島がサボったからである。


  鬼登先輩をリーダーに、三年生の倉尾くらお先輩、二年生の良芽先輩、明道、俺の五人班だ。


「飯決めるぞ。お前何食いたい?」

「え、僕ですか?」


  鬼登先輩は鋭い眼で俺を睨み、言葉を発した。


「何が良いですかね……?」

生物なまものは避けた方が良いと思うが、一泊だから大体何でも出来るな。ただ昼飯と朝飯は軽い物にした方が良い。決めるのは一日目の晩飯がメインだ」


  何が食いたいと言われてもそんな直ぐには出てこない。俺達が決めなくてはならないメニューは一日目の夜ご飯、二日目の朝、昼ご飯である。今日ミーティングがあるなら事前に考えておくべきだったな。


「大体何でもインターネットで調べれば作り方は載ってるから、何でも良いよ」


  倉尾先輩は丸いメガネを拭きながら呟いた。俺が周囲を見てみるとある程度メニューが定まって来ている様だ。パエリアなどの凝ったメニューを想定している所もあれば、回鍋肉丼などの簡単なメニュー、チョコレートホンデュの様な何をおかずにしてご飯を食べるんだ。ってメニューまで様々だ。


「良し、じゃあ変わった料理でも作ってみるか?これとかどうだ?」

「ラタトゥイユ……ですか?」

「そうだ」


  鬼登先輩が倉尾先輩のスマホの画面の一角を指差してニヤリと口端を釣り上げた。鬼登先輩が指差したのはラタトゥイユと言う野菜の煮込み料理だった。俺もたまに料理はするが、あまり聞いた事の無い料理だ。こんな料理作れるのだろうか?作り方はそこまで難しくは無い。だが、初めての合宿でこれを作ると言うのはある意味挑戦だろう。


「作れますかね?」

「大丈夫だろう。嫌だったら別のメニューにするぞ?」

「いえ、大丈夫です」


 特に異論は無かった。


 明道や、良芽先輩も異論は無い様で一日目のメニューはラタトゥイユに決まった。ただそれだけでは物足りないと言う事もあり、保存の効くデザートとしてゼリーを付ける事にした。このゼリーは志道学園ワンゲル部では定番の様で、どこの班の食事にも入っていた。


 二日目の朝と昼御飯に関しては大体固定だと言う話だ。朝は棒ラーメンと言う乾燥パスタの様なラーメンを使う。最初は棒ラーメンがどんな物かと思っていたが、カップラーメンの容器が要らないバージョンと言われたら分かった。食器を洗えない上、山の朝は寒い為、お湯を使って簡単に作れ、鞄が嵩張らない棒ラーメンは山の朝ごはんには適しているらしい。


 昼は登山行動中に食べる為パン食が基本の様で後日食料品店で袋詰めされた菓子パンを買う予定だ。


「良し。こんなもんか?じゃあ解散で良いか」

「鬼登先輩。団体装備が決まって無いです」


  明道が手を挙げた。


「一年は食料担当だ。後の団体装備はお前らメインザック車置きだろ?だから重い装備持て。ゴミ袋どっちが持つかじゃんけんで決めてくれたらもう後は適当にやるわ。解散」

「「分かりました」」


  鬼登先輩は配られたプリントに記載されているテントやコッフェル、ブタンガス、食料の所にカラーマーカーで線を引くと手を振ってそそくさと教室を離れた。まず、テントは分かるが、コッフェルって何だよ。全く想像が付かない。


「取り敢えずじゃんけんするか?」

「そうだな」


  残された明道と俺はじゃんけんの為にお互いに向かい合い、握り拳を握る。


「負けた方が食料担当な。じゃんけん……」





「「ポン!」」


  明道の出した手はチョキ。俺の手はパーだった。あれ?俺ってもしかしてじゃんけん弱い?俺はじゃんけんに負けた事により食料担当になった。この時の俺はこの意味を深く理解していなかった。


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詳しい用語解説はあとでちゃんと書きます

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