11話 注意散漫
「え?」
俺は理解が追いつかない状況に素っ頓狂な声を上げる。俺の身に何が起きた……?俺は慌てて自分の頭部を手で弄った。痛みは無い。それに、目も見える……。だが、俺の周囲は心配そうに俺を見ていた。
「取り敢えず保健室行こう」
「あ、はい」
俺は周囲の空気に呑まれ、先輩に言われるがままに学校の保健室に向かって踵を返して歩き始めた。
「山川にはオレが付くから後は勝手にサッカーやっといて!」
国背先輩はグラウンドに残っているメンバーに声をかけて地面に落ちた俺の眼鏡を拾うと俺の横に付いた。
「今僕どうなってます?」
「顔が血で真っ赤に染まってるけど、もう血は止まってるよ」
先輩が拾った眼鏡を見てみると右の鼻当ての部分が綺麗に折れていた。成る程。サッカーボールを二人が同時に蹴った為、サッカーボールが反発し、真上に跳ねて俺の眼鏡に当たったのか。それで、眼鏡が傾いて鼻当てが俺の顔を抉った。それならば合理が付く。
「お前どしたん?その顔?」
「え、サッカーしてて気が付いたらこうなってた」
「流石にヤバすぎだろ」
学校の保健室に行くまでに俺はすれ違う人の視線を沢山集めた。同級生の中には心配する人も居たが、怪我した本人は傷の痛みが無く、自分では怪我の具合や出血量などを確認出来ない場所の為少し大袈裟に感じた。
「失礼します」
「ありゃ、どうしたの?」
「ちょっとサッカーで怪我しまして……」
「一旦傷口洗って。痛いかも知れないけど我慢ね」
保健室に入るや否や、保健室の先生は驚いた顔で俺を見た。その顔を不思議に思いながら俺は洗面所に赴き、鏡で自分の顔を確認する。
……これやべえな。
率直な感想がこれだった。
俺の顔はペンキで塗った様に隙間なくドス黒い血液で赤黒く染まっており、赤鬼の様な顔になっていた。水で洗ってまた血が噴き出ないか不安だ。
洗面所の蛇口を捻って俺は顔を洗う。固まって顔にこびり付いた血液が剥がれ、肌色の俺の皮膚が姿を見せる。傷は眉間にあった。眉間には小指の第一関節より少し小さい位の傷……。眼鏡の鼻当てがめり込んだ様な痕があった。
「洗い終わりました」
「うん。結構傷口は深いけど大した事ないね」
「はい、痛みも殆ど無いです」
「でも、これ放置してたら結構大きな痕が残るよ」
「え、そうなんですか?」
保健室の先生は俺の眉間の傷を見て眉を顰めて絆創膏を貼った。
「縫った方が良いと思うよ」
「え、そこまでですか!?」
俺は先生の言葉に驚き、目を丸くした。縫合手術。俺はこれには嫌な経験があった。数年も前の事だが、俺が足を海で切った際に初めて縫合手術をした。その時に俺は初めての縫合手術だと言う事もあって大泣きしたのだ。
だが、実際に手術を行ってみると痛みは無く、あっという間に終わったのだ。麻酔をかけるのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、未知の物と言うのは想像出来ないものだ。その時大泣きした事は看護婦さんにもしっかりと覚えられている。その経験もあって、あまり縫合手術をしたくなかった。
「これ、部活動中に起きた事故なんだよね?」
「はい、そうです」
「それなら保険がおりるから病院代金は保険から出るよ」
「分かりました。今度病院に行きます。先輩もここまでありがとうございました」
「いやいや、無事で良かったよ。最初は驚いたけどね」
国背先輩は頬にえくぼを作り、手をひらひらと横に振った。俺も最初は驚いた。眉間って少し切っただけであんなに血が出るもんなんだな……。俺はふと、血がビッシリと付着して赤色に染色された体操着を見て苦笑いを浮かべる。
こりゃ、家帰ったら怒られるな。
「先輩、これから練習は?」
「いや、もうそろそろみんな帰ってくる頃だろ。みんな心配してるから顔だけ見せなよ」
「そうですね。先生もありがとうございました」
「はーい。証明書渡しとくね」
時計の針は既に十八時を回っていた。俺は保健室の先生から証明書を受け取り、先輩と共に保健室を後にした。
「お、山川!元気そうじゃん。心配させやがって」
「ああ、すまん。今度からもうちょっと周りを見るわ」
俺が保健室から出ると丁度他のメンバーも帰って来ていた様で、俺に気づいた青空が大きな声で俺に手を振った。偶然とは言え、ボールを向かい側で蹴っていた材木が俺の事を気にしているかと思っていたが、そんな事は無かった。材木は俺を見ると両手を合わせてごめんのポーズを取った。
それに対して俺もあれは自分の不注意で起きた問題の為俺も同じ様にごめんのポーズを返した。
俺はここで周りを見る事の大切さを学んだのであった。
後日俺は病院に赴き、縫合手術をした。たったの三針。それだけの縫合の為、手術はすぐに終わった。傷口が頭で傷も小さいと言う事もあり、麻酔針は細く、殆ど刺されても気にならない程の物であった。
怪我を見た親は、どちらかと言えば服に関してよりも壊れた眼鏡に関して頭を悩ませていた。一応予備のメガネはあるものの度が合わないのだ。それを付けて運動をすると距離感が合わない。尚更危険である。今週末は登山に詳しい大叔父と来週の登山に備えて登山用品を買いに行く予定もある為、登山に行くまでにどこかで予定を作って眼鏡を直しに行かなければならなかった。
学校の黒板もはっきりと見えない為、俺は新たな課題に頭を悩ませたのだった。
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