9話 クライミング

 作者はクライミングもやってますが、専門では無い為色々疎いです。


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 部活動を始めて二日目。今日。火曜日はクライミングの練習日だった。クライミングは最初この部活に興味を持った理由の一つだ。


 学校にクライミングボードが備え付けてあり、そこでクライミングを行う事が出来る。今やオリンピック競技にもなろうとしているクライミング。それで知名度を大きく上げたクライミングだったが、クライミングの競技人口は然程増えていない。先輩曰くそんな印象だそうだ。俺は放課後になるや否や体操服に着替え、すぐに技術室裏のクライミングボードがある場所に赴いた。


「こんばんは」

「おう……たしか、山川だったか?」


  鬼登先輩だ。クライミングボードの一番高い場所まで登っていた鬼登先輩は到着点である、金属パイプを両手で掴んだ状態で俺に気が付き、声をかけた。


「はい!合ってます」


  鬼登先輩は壁をぴょんぴょんと蹴りながらゆっくりと下降した。腰のハーネスから伸びた命綱がピンと張り、鬼登先輩の身体が左右に揺らぐ事は無い。鬼登先輩の降りる時の慣れた動きもそうだが、命綱を引っ張っている細身の先輩も中々だ。命綱を引っ張っていた先輩は身体を斜めに傾けた状態で紐を引っ張り、鬼登先輩が下がるタイミングに合わせて自身のハーネスに付いている金具にロープを手際良く通していった。


「良し。山川。ちょっとやってみるか?」

「え、良いんですか?」

「勿論だ。良芽りょうが。ハーネスの付け方と紐の結び方教えてやれ。綱は良芽出来るだろ?」

「はい。分かりました」


  鬼登先輩はガハハと大柄な身体を震わせて笑った。もしかしたら優しい人なのかもしれない。俺は先入観で怖い印象を持ってしまった事を少し申し訳なく思いつつも、良芽先輩の所に歩いていく。


「一年生の割には結構大きいね。足のサイズは?」

「そうですかね。足のサイズは二十六センチです」

「それなら二十五センチのクライミングシューズだね……あったかなぁ」


  良芽先輩は沢山器具が入った大きな箱を漁りながらぶつぶつと呟きなにかを探し始めた。そして、俺の回答に合わせて靴を二足取ると俺の足元に置いた。そして、ハーネスと言われる腰につける器具を俺の腰に合わせて広げた。


「良し。これに足通してみて」

「分かりました」

「クライミングは初めて?」

「はい。初めてです」


 良芽先輩は手際良く俺の足をハーネスに通してロープを中に入れた。


「えっと、今から教えるのが八の字結びって言う結び方なんだけど、これがクライミングの基本になるから覚えといてね」


  良芽先輩は俺のハーネスに紐を通すと、紐で算用数字の八を描くようにクロスさせ、その隙間に紐を入れ込んだ。


「この通した紐が捻れたらダメだから気を付けてね」

「分かりました」


  流石に一回見ただけでは中々コピー出来そうに無いが、案外簡単だ。キツく結んだ紐はどちらから引っ張っても解ける気配は無い。自身の紐などの準備を終わらせた先輩は俺の背中を押した。


「後ろに人がいるかどうか確認してね。それにしても最初のクライミングがトップロープか」


  トップロープ?その辺の単語を知らない俺からしてみれば何を言っているのか分からないのだが、先輩が言うって事はそれなりに珍しい事なのだろうか?


 分厚いゴムで作られた様な靴……クライミングシューズを履いた感覚。指が無理やり曲げられる様な慣れない感覚に俺は戸惑いつつも俺は目の前の大きな出っ張りに手をかけた。そして、そのままの勢いで壁を登る。案外簡単じゃないか。


  先輩がロープを引っ張ってくれているお陰で怖さもあまり無い。元々俺は高所が苦手な訳では無い。だからなのかあまり怖さは感じなかった。ある程度登った事で、斜めに傾いた壁が出て来た。自分の方に壁がせり上がっているのだ。


「そこも挑戦してみる?」

「やってみます!」


  俺は腕に力を入れて斜めにせり上がった壁の出っ張りを掴んだ。重力が自分の身体にのしかかり、身体の後ろに大きな負荷がかかった事により俺を先程無かった恐怖が襲った。景色では無い。本能だった。背筋が震える様な感覚。それを俺は感じた。


「あ、山川じゃん!クライミングやってるぞーー」

「本当だ!」


  下から茂木と材木の高い声が響く。


「腕じゃなくて脚に重心乗せて!」


  良芽先輩のアドバイスの声と共に同級生の声が俺の耳に響いた。奴らも来たか。俺は感じた恐怖を抑え一番上の金属のパイプに飛びついた。俺の手がパイプにかかり、俺の身体は宙に浮く。


「「おおっ!!!」」


  下から同級生達の歓声が響き俺は思わず笑顔になった。


「降りる準備が出来たら言って!」

「降ります!」


  良芽先輩の声が聞こえ、俺は声を出して合図を出す。


「そのまま手を離して壁を蹴って」

「分かりました」


  俺は良芽先輩の指示通り手を離す。自分の身体がロープだけで支えられて宙に浮いた。その瞬間俺の身体は前後に大きく揺れ、壁が俺に近づく。


「壁蹴って!」

「うわぁ!」


  俺は指示通り足を伸ばした。俺の足の裏に壁がぶつかり俺の身体が更に大きく前後に揺れた。だが、強く壁を蹴り過ぎたのか俺の身体は空中で横回転を始めた。その影響で俺は壁に身体を擦り付けながら地面のマットに着陸する。


  前腕辺りから血が滲み、ヒリヒリする。


「大丈夫?ちょっと強く蹴り過ぎだね」

「大丈夫です」


  その後命綱を使わないクライミングにも挑戦した。クライミングにはルートを設定して登るタイプもあるらしく、その時は身体の硬い俺はスタート時の姿勢から動けなくて一切登れなかった。ただ登るだけかと思っていたがそうでは無い様だ。


 その後ワンゲル部には五人の新入生が加入し、一年生は計十二人となった。この数は例年に見ないほど数が多いらしく先輩達は満面の笑みだった。クライミング自体はメインじゃない為、来ても来なくても良いと部活紹介のパンフレットに書いてあったのを俺は思い出した。


 身長が高い俺が後から来た同級生五人に先輩と見間違われたという小さなエピソードがあったのだが、それは今は置いておくとしよう。多少怪我はしたものの俺は人生で初めてのクライミングを経験したのだった。


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 ハーネス……腰を支える為の部品。複数箇所で固定する為負荷を分散出来る。かなり頑丈で2トン程の重さに耐えられる。

 カラビナ……金属製の頑丈なクリップの様な留め具。

 クライミング……ボルタリングやトップロープなどの種類がある。紐は基本八の字結び。テープを貼ってコースを決め、それで登って競う事が多い。コース難易度は様々だが、初めてやると最も簡単なコースでも中々難しいと思います。

 八の字結び……八の字になる様に紐を結ぶ。紐が上下で捻れてはいけない。

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