7話 優しい雰囲気

 時間が十七時に近づくにつれて、入部数は次第に増えて行き、今日ワンゲル部に入部した同級生の人数は俺含めて七人になった。先程まで幼稚な会話をしていたのは一人称が僕の方が茂木抵過もぎてっか材木曲さいきまがるである。その他のメンバーの印象はこの二人の強烈な印象のせいで霞んでしまっており、あまり良く覚えていない。これは後々でも良いだろう。茂木君の場合名前がもぎたてみたいだから覚えやすいな。性格も採れたての新鮮フルーツみたいな性格だし。


  茂木は身長は低めで、細身の体型だ。顔は小顔で男ながら可愛げのある顔をしている。髪も横に流しており、どちらかと言えばイケメンだ。この可愛げのあるルックスからは想像も出来ない程唐突に下ネタを言ったりするので人は見た目によらない。いや、でも幼稚な発言をする所は見た目と一致しているのか?


 材木はメガネを掛けており、身長は並である。目の奥は何を考えているか分からない。だが、材木も唐突に変な発言をする変わり者だ。だが、お調子者では無い。全くこの人の事は分からない。不思議な雰囲気を感じるのだ。体型は小太りだが、服を着ているとそんなに分からない。その程度である。


「あ、中学のリーダーを務めている国背くにせと言います。楽しい部活なのでよろしくね」

「「よろしくお願いします!」」


  俺達は一斉に挨拶をした。


  今日部活に初めて入って分かった事は中学と高校は練習が別って事だ。高校生の先輩達は十六時半位には俺達に会釈して何処かに走りに行ってしまっていた。その際に背中には大きな鞄を背負っていた。練習でもキャンプをするのだろうか?当然中学生と高校生では体力も違う為、練習メニューが違うのは当然だろう。俺は勝手に納得した。


  国背先輩は大きな声と丁寧な口調で笑いながら挨拶をした。身体は細く痩せている。だが、半袖半ズボンから出ている手足は引き締まっており、筋肉がしっかりと付いているのが窺えた。だけど、俺が予想していたよりも圧倒的に華奢である。最初の印象では優しい印象って所だ。


「今日はサッカーをしようと思う」

「サッカーですか?」


  緩い。


  俺は心の中でニヤけた。やっぱりキャンプ部ってだけあって練習も遊びみたいな物だ。これなら俺も付いていける。俺は運動は苦手だが、昔挑戦をした事があった。それがサッカーと水泳だったのだ。だが、それは受験が忙しくなってから辞めざるを得なくなっていた。だからサッカーは数年ぶりである。


  俺達は先輩達に従って後ろに並び、一列になって付いていく。志道学園の近くにはそれなりに大きな公園がある。そこの公園には競技用トラックや広いグラウンドやテニスの壁打ち用のコートが備え付けられている為、運動をするには絶好の場所である。先輩曰くサッカーをする時は大体そこを使わせて貰っているのだと言う。


  ただ、そこは少年サッカーチームが使う事もあるのでその時は裏の広い駐車場でサッカーをするらしい。石を蹴って間違えて車に当ててしまった経験がある俺からしたら恐怖物である。


「よし、着いたぞ」


  国背先輩はサッカーボールを地面に置いて笑った。そのタイミングで疑問に思った俺は質問を投げかける。


「スタメンは誰でやるんですか?」


  当然だ。サッカーは人数が決まっている。だが、今俺達は三学年合わせて三十人近くいるのだ。その人数でサッカーを行なったら当然揉みくちゃになってしまうだろう。


「全員でやるぞ。ほら同じくらいの実力だと思う奴とじゃんけんしてね。勝った人はオレの方に、負けた人は佐救間さくまの所に行ってくれ」


無茶苦茶である。ルールなんてあったもんじゃ無い。


「材木!じゃんけんだー」

「良いよー!」


  彼方此方で元気の良い声が聞こえてくる。さて、俺は周りを見る。あと同級生でじゃんけんをしていないのは俺と明道位か?みんな馴染むのが早い。俺達一年生は学校で買った白色の体操服を着ている。だが、二年生からはみんな服がバラバラだ。その為俺は同級生を区別出来ていた。他の運動部とかだと何かユニフォームがある様なイメージがあるんだが、ワンゲル部はそうでは無いのか?まぁ、それは置いておいて取り敢えずじゃんけんするか。


「おい、明道。じゃんけんする人いないならじゃんけんしようぜ」

「ごめん。俺もうじゃんけんしてしまった」

「あ、マジか……」


  明道は申し訳無さそうに俺に謝った。いや、別に謝るほどの事じゃ無いと思うぞ。明道は正面の同級生とじゃんけんをした様だ。


「あー。悪りぃ、悪りぃ。じゃんけんもうしちゃったわ。山田やまだ湖穴こけつがまだじゃんけんしてないっぽいからそこら辺が良いんじゃない?」

「ありがとう」


  明道の目の前の同級生はにやけ顔を浮かべたまま早口で山田と湖穴と呼ばれた人物の方を指差した。滑舌が悪くかなり言葉は聞き取り辛い。後から聞いた話によると彼は山猫大言やまねこだいとと言う名前らしい。目が細く、脚が短い為、名前の通り猫みたいな風貌をしている人物だ。


  彼が指差した先にはおどおどしていて、仲間に入れていない二人がいた。


「あ、じゃんけんまだしてない人――!手挙げてみて」


 そこに先輩達が優しく声をかけてじゃんけんを促した。俺はそれに従って手を上げる。じゃんけんをしていないのは俺を含めて四人だった。丁度良い人数である。


「にひひひ、じゃんけんするのは久しぶりだな」

「そ、そうか?」


  俺は戸惑った。湖穴入道こけついりみち改め、湖穴君は変わった人だった。背中を猫の様に丸めたまま薄ら笑いで近付いて来た湖穴君は俺の前で笑って手の指を動かす。


「「最初はグー!じゃんけんポン!」」


  負けた……。俺の出した手はチョキだった。それに対して湖穴君の出した手はグーだ。湖穴君の丸いメガネがキラリと光り、湖穴君は会釈をして国背先輩の方へと走って行く。どうやら悪い人では無さそうだ。


  じゃんけんに負けた俺は佐救間先輩の方へと走る。佐救間先輩は身長が高い先輩だった。恐らく百八十センチ近くあるのだろう。中学生でこの身長はかなり高い。だが、その身長でも威圧感は全く無かった。寧ろ優しそうな目で俺達を見ている。


「おお、オレのチームかぁ。よ、よし。アイツらに負けるなよ?」


  覇気が無い。俺達に威圧感を与えまいと足踏みをして、ポップな動作をしているのだろうが、それが逆に佐救間先輩の口下手さを引き立ててしまったいた。山田剣山やまだけんざん改め、山田君もじゃんけんに負けたようで俺達のチームに来た。


  山田君は裁縫道具の針山の様に立った髪の毛が特徴で、おっとりとした顔立ちの子だった。髪の毛の体積と顔の体積の比率が一対一。そう思える程に逆立った髪の毛が印象的だ。


「佐救間先輩。それダサいからやめた方が良いですよ」

「え、ああそう?」


  一つ上の先輩が佐救間先輩を笑いながら弄る。それに対して佐救間先輩は苦笑いを浮かべた。それを見た俺達は自然と笑みが溢れた。上下関係もそんなに厳しく無さそうなその緩い雰囲気。俺はこの雰囲気が好きになりそうだった。

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