6話 愉快な同級生
今日はワンダーフォーゲル部。略してワンゲル部の始めての活動の日だった。先日中学校に入って初めてのテストがあり、俺は頭を悩ませていた。まだ順位などの結果は出ていないが、そこまで悪くは無い自信があった。
何しろ、志道学園は偏差値七十の学校だ。並の努力では入れない。小学生時代塾での成績は並であった俺だったが、同じ小学校の中ではトップクラスの成績を取っていたのだ。全国模試で満点をとった事もある。自分で言うのもあれだが、中々小学生時代に努力をしたのだ。
俺は学校付属の体操服に着替え、運動靴の靴紐を締めた。初めての部活動。運動などまともにしてこなかった俺だが、ちゃんと出来るだろうか?俺が靴紐を締めている時であった。後方から俺に話しかける声がした。
「ねえ、ワンゲル部に入ったんだよね?」
「うん。そうだけど……?」
「おれもワンゲル部入りたいから部活動のハンコ押すのについて行ってくれない?」
「別に良いけど……」
俺は突然話しかけられた事で驚いていた。俺に話しかけてくれたのは、同じクラスの
「野原先生の所に行くんだよね?」
「うん。それで合ってるよ」
「ちょっと待っててすぐに準備するから」
明道はそう言うと直ぐに服を体操服に着替え始めた。脱ぎ終わった服をきちんと丁寧に畳んでいる所を見る限り、性格の差が俺と現れている。俺は自分が脱いだ脱ぎっぱなしの服を見てこっそりと畳んで明道を待つ。
「じゃあ、行こうか」
明道の入部動機は父親がサイクリングなどが好きで良く登山などをしていたからだそうだ。やはり、目的が全く俺とは違う。それでも今の所ワンゲル部の印象は揺らがない。楽しいキャンプ部と言うイメージだ。それがどう出るのやら。
校門を出て直ぐの場所……野原先生が言ってた通りの技術室の隣に俺と明道は集合する。だが、どうして良いのか全く分からない。その為俺達が集合場所辺りでオロオロしていた時の事だった。
「お、やったぜ。また新入生だ!先生の話によると明日も何人か来そうな感じらしいぜ!」
「マジで!?今年は人数多いな」
前方から楽しそうなワイワイとした声が俺の耳に入った。その声は技術室の裏から聞こえて来た。サッカーボールを持った先輩が笑って俺達に手を振る。
「君、何部?」
「わ、ワンゲル部です」
「よっしゃ!ほら見ろオレの予想当たってただろ?」
「良かった。またテニス部だったらどうしようかと思ってたぜ」
ワンゲル部の先輩と思われる方達は俺の言葉を聞いて安堵の表情を浮かべた。技術室の裏にあるワンゲル部の班室は柔道部、剣道部の練習場と隣接しており、となりのテニスコートや、裏のハンドボールコートなどとも隣接している為、身体をあまり鍛えていない中学一年生の身体つきではぱっと見どの部の入部希望者か分からないのだ。
今の先輩達の様子だとどうも連敗続きだったらしい。やはり、ワンゲル部って知名度的な問題で人が少ないのだろうか?でも、野原先生の話によれば人数はかなり多かったぞ?
「ごめんね。取り敢えず今日は十七時まで一旦待つよ。新しく来る子もいるしね。部室で寛いでて」
「あ、はい」
十七時。志道学園は中学生から六十分の授業が一日に六時間ある。その為終わる時間も割と遅い。小学生から上がって来た俺達にはそれがかなり長く感じた。俺は先輩達に言われるがまま、部室に入った。いや、正確には入っていない。部室の鍵は閉められており、部室の手前の廊下が実質的に部室になっている感じだ。途轍もなく汚い。
廊下には登山用の鞄などが散乱しており、とても綺麗とは言えない。
「ごめんな。大会が近いからちょっとドタバタしててな」
「おい。それは……」
「あ、そうだったな。悪ぃ」
部室を見て顔を引攣らせる俺達に気付いた先輩がフォローを入れた。大会?登山に大会なんてあるのか?一体何を競うんだ?料理のスキルとか競うのか?全く想像も付かんな。俺達に大会の事を言った先輩を制するように横の先輩が口籠るが、二人はにやけ顔で言葉を閉ざした。
「あー。テストどうだったーー?」
「え、俺?」
何だこのナチュラルな奴……。俺の知ってる顔では無い。隣にいた人が声変わりしていない高い声で俺に話しかけた。妙に言葉が間延びしていて聞いていると気が抜けそうだ。
「ま、まぁまぁかな」
「マジかー。僕全然出来なかったーー」
「おう、そうか……」
「おいらもダメだわーー」
何だこいつ。変な奴また一人増えた。
「「まぁいっか、うぇい!」」
「うぇ、うぇい?」
「「うぇい!うぇい!ち○こ!」」
……。流石に自主規制だ。この二人には付いていけない。小学生かよ。ただこの年頃だとこう言う言葉を使いたいよなぁ……。そんな俺達の様子を先輩達は微笑ましそうに見ていた。うん。先輩達から見たら微笑ましいだろうね。
「……」
うん。端にこの空気には入れずにもじもじしてる子居たわ。君は間違ってない。コイツらが可笑しいだけだ。ただずっと見てたらこちらまで愉快な気分になりそうだ。別に悪い気分はしない。どちらかと言えば俺も下ネタは好きな方だ。だが、自粛していた。でも、志道学園は男子校だ。そんな事は気にする必要は無いのだ。
「ち○こ……!」
俺は思い切ってち○こと叫ぶ。それを見ていた明道がドン引きしているがそんな事は知ったこっちゃ無い。
「お。仲間だー。ち○こ、ち○こ!」
「「ち○こ!ち○こ!」」
何だこの部活……でも、悪く無いかもしれない。俺は少しそう思った。
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中学一年生の会話ってこんなもんだと思います……私も男子校時代こんな感じでした。
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