痕跡を拾う

 会社員時代はともかく、フリーランスとなった後はほとんど昆虫類調査しかしていないが、昆虫以外は見なくてもいいというわけではない。


 とはいっても、両生類、爬虫類、哺乳類を目撃したら写真を撮るくらいで、他にはごくたまに痕跡を拾う程度だ。

 拾って帰れない糞や足跡などは別として、持ち帰れる痕跡で一番多いのが蛇の抜け殻。ほとんどはシマヘビという一番よく見かける種のものだ。

 それから鳥の羽根、卵の殻。


 死骸もたまに見かける。

 ため池に落ちて死んでいたシカとイノシシを各一度ずつ見た事があるが、さすがにそれは写真に撮っただけで持ち帰りようがなかった。


 ネズミやウサギの死骸はなぜか見ない。

 モグラも、地面の上で死んでいるのを二、三度ほど見た程度で、普通は地面の下で死んでいるか、猛禽やキツネ、ヘビなどに死体も残さず食べられているのではないだろうか。


 ヒミズという小型のモグラの仲間がいて、その死骸はプライベートを含め何度か見た。そして拾って帰ったこともある。

 詳細は知らないが死体が臭いらしく、他の動物もあまり食べないようだ。ただ筆者はアレルギー性鼻炎とやらで嗅覚は鈍く、ヒミズの匂いを感じた記憶はない。


    ◆


 そして、骨。


 シカかイノシシのものと思われるサイズの足の骨はたまに見るが、種が決められないことも少なくないのであまり持ち帰ることはない。

 一緒に頭の骨があればすぐにわかるのだが、なぜか大体一部しかない。


 会社員時代の事務所には、動物担当が拾ってきたシカとイノシシの頭骨とうこつがあった。といっても飾られていたわけではなく、標本扱いで棚にしまってあった。


 なお、頭骨とは文字通り頭の骨であるが、野外で拾う場合筋肉でつながっているだけの下顎したあごの骨が失われて上半分だけのことが多い。

 頭蓋骨ずがいこつもほぼ同じような意味だが、生物学の分野では同じ字を書いて頭蓋骨とうがいこつと読む。頭骨と頭蓋骨は分野によって使い分けられており、骨格標本を作る際には頭骨のほうが使われる。

 逆に医学の分野なんかでは、二の腕の骨である橈骨とうこつと区別するために頭蓋骨が使われていらしい。


 丸のみにできるサイズのネズミやモグラなど小動物はともかく、シカやイノシシ、それにクマの頭骨はもう少し山の中に転がっていても不思議はないのだが、まあ山は広いので、歩き回る獣に遭遇するよりも頭骨を見る確率は低いのではないだろうか。


    ◆


 これも一度だけだが、他の人が拾ったニホンザルの子供の頭骨を見せてもらったことがある。

 明らかに人間より小さく、鼻から口にかけての部分が前に突出しているので、人間とは違うことがわかる。

 しかし一般の人がもっと大きい骨を見たら、警察沙汰になってもおかしくはない、という気はした。


    ◆


 他に、骨の標本としてネズミの頭骨が会社にはあったが、これは頭骨を拾ったのではなくネズミ捕りにより捕獲されたものを加工して骨にしたものなので、これについてはまた次回にでも。

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