蜂刺され4

 さて前回は、シュミット指数――ハチやアリに刺された時の痛みの強さの指数――の0から2までの話をした。

 今回は引き続き、指数2.5から4までの話をする。


 このあたりから、結構表現が大げさになってくる。大げさといっても、筆者はそれらのハチやアリに刺されたことがないので、本当に大げさかどうかすらよくわからないのだが。

 3以上では「いやそれ死んでしまいますがな!」と突っ込みを入れたくなるものも少なくない。


 表現も豊かでバラエティに富んでおり、私などが言うのもなんだが、シュミット博士には文才があると思う。


    ◆


 ランク2.5。


 日本のキムネクマバチや外来種のタイワンタケクマバチと同じ属の種が含まれる。

 ジャイアント・ボルネアン・カーペンタービーという種で、学名は未決定だが、東南アジアに生息するらしい。


「突き刺さるような激しい痛み。体に電気が走る。次から電気工事は専門家に頼もう」


 同じ属だからといって同程度の痛みとは限らない。例えば、日本のアシナガバチ属と同属の種は1.5から3までの4ランクに存在する。


 試す気にはならないが、いつかうっかり刺されるかもしれない。

 クマバチは体が太く短いので、うまく背中から抑え込めば刺されずに捕まえることが可能なので。


    ◇


 もう一つ、ランク2.5。トラップジョーアントという大あごの発達したアリの仲間。もちろん大あごではなく、腹の先の毒針に刺された時の痛みだ。

 これは日本にもいるアギトアリの仲間で、本来は鹿児島の本土と南西諸島にしかいなかった。筆者も20年ほど前に鹿児島に仕事で行ったことがあり、そこで見た。

 しかし最近、どうやって入り込んだのか大阪府の内陸部で見つかっている。どうやら兵庫県にもいるらしい。


「刺されたとたん襲ってくる凄まじい痛み。ネズミ捕り器に人差し指の爪をかみ切られたような」


 爪? 指先も一緒にということだろうか。


    ◇


 ランク3。

 さすがにこのランクのアリは日本にはいないし、入ってきてもいない。

 例として、フロリダ・ハーベスターアントという種を挙げる。


「猛烈な痛みが容赦なく続く。肉に食い込んでいる足の爪に、電気ドリルで穴を開けられているように」


 だんだん大げさになってきた。


    ◇


 もうひとつランク3の例。

 日本にはいない属の、大型のアシナガバチの仲間。


「神々が地上に放った稲妻の矢。海神ポセイドンの三叉槍が胸に打ち込まれたような」


 いやそれ死んでしまいますがな!

 聖闘士でもあるまいし、海神ポセイドンに小突かれたら普通の人間は死んでしまいます。


    ◇


 ランク3.5は該当なしなので、最後のランク4。

 これは、3グループのみが載っている。


 まず、サシハリアリという大型のアリの仲間。中南米に生息する。


「眼がくらむほどの強烈な痛み。かかとに三寸釘が刺さったまま、燃え盛る炎の上を歩いているような」


 アメリカに三寸釘があるかは不明であるが、日本人翻訳者による少々の改変はあるのかもしれない。

 Wikipedia情報によると、このアリは痛みが24時間続くらしい。


    ◇


 最高ランクの2種目。

 タランチュラホークと呼ばれる、タランチュラを獲物とする、世界最大と言われるハチ。オオベッコウバチという和名もあるが、ベッコウバチ科は最近、国内ではクモバチ科と呼ばれるようになっている。こちらの方はまだ変更されていないようだ。


「目がくらむほど凄まじい電撃的な痛み。泡風呂に入浴中、通電しているヘアドライヤーを浴槽に投げ込まれて感電したみたいだ」


 いやそれ死んでしまいますがな!

 シュミット博士はご存知ないかもしれないが、日本のミステリー小説において、殺人とバレにくい殺害方法としてたまに出てくるやつである。

 最近だと、スマホを充電しながら入浴していて、手を滑らせて亡くなったりするやつだ。


    ◇


 ランク4の最後。

 ウォリアーワスプもしくはアルマジロワスプと呼ばれる、中南米に生息するアシナガバチの仲間。多くの横筋を持つ巣の形が、アルマジロに似ているらしい。


「拷問以外の何物でもない。火山の溶岩流の真っ只中に鎖でつながれているみたい。それにしてもなぜ私はこんな一覧を作り始めてしまったのだろう?」


 博士が唐突に我に返ってしまった。


    ◆


 今回の話を書くためにWikipediaを調べていたら、シュミット博士は今年2023年の2月18日に亡くなっていたことが判明した。享年75才。

 死因はここでは伏すが、ハチに刺されすぎたせいではないと思う。


 J・O・シュミット博士のご冥福をお祈りします。



参考文献

ジャスティン・О・シュミット (著), 今西康子 (訳), 2018. 蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ. 366pp. 白揚社, 東京.

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