蜂刺され3

 前回少しだけ書いた、シュミット指数……ハチやアリに刺された時の痛みの強さの指数について、読んでみるとなかなか面白かったので、少し詳しく書いてみたいと思う。


 アメリカの昆虫学者、ジャスティン・O・シュミット博士が、自ら百種を超えるといわれるハチやアリに刺されて、その痛みを0から4までに数値化したものだ。ただ、本によっては0.5刻みとなっている。

 博士はこの功績により、裏のノーベル賞と言われるイグノーベル賞を受賞している。


 参考としたのは、2018年に日本語版が発売された「蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ」だ。

 0から4まで0.5刻みでランク分けがされているが、3.5は存在しない。

 それから、これは痛みだけで、腫れやアナフィラキシーショック、その他後遺症などについては指数とは関係がないようである。体質にもよって異なるだろうし、前々回書いたキボシアシナガバチの例のように、時間をかけて大量の毒液を注入されれば被害は大きくなる。

 とはいえ、個人により差があります、などと言ってしまっては話にならないので、日本でみられるものを中心に、博士のコメントとそれに対する筆者のコメントを上げていきたい。

 なお、シュミット博士はアメリカ人なので北米産の種が多いが、それだけではなくアジアやオーストラリアをはじめ世界各地のハチが挙げられている。日本にいる、または入ってきたものもいくつかいる。


    ◆


 まずはランク0。これは巻末の表には含まれていないが、口絵の部分にコツチバチ科のオスが0とされる。同科とそれを大型にしたようなツチバチ科の種は日本にも分布しており、オスは同科のメスのような産卵管兼毒針は持っていないが、腹端に針状または棘状の突起を持っており、身の危険を感じるとそれで敵を突き刺す。毒はなく、実は筆者も刺されたことがあるが、一瞬弱い痛みを感じるぐらい、採血の注射より少しだけ痛い程度だ。

 それは、刺す方が痛みを与えようとしてるか、和らげようとしてるかの違いかもしれない。


    ◇


 続いてランク0.5。

 これは「気のせいだなと思ってしまう程度」とか「あっけないほど軽い刺激」とか「意外にあっさり味」とか、軽い言葉が並んでいる。


    ◇


 ランク1。

 日本で散々問題になったヒアリは、実はこのランクに該当している。


「突然チクッくる軽い痛み。真っ暗な部屋で照明をつけようとして、パイル地のカーペットを歩いていたら、カーペット鋲が足に刺さったような感じ」


 これだけ聞くと大したことなさそうであるが、おそらく単体のアリによるもので、実際には群れに襲われる可能性があるため注意が必要と思われる。


 また同じランク1には、アジアン・ニードルアントと呼ばれる種が含まれている。学名から判断すると、日本にも分布するオオハリアリだ。

 この種については前回書いた通りで、これが唯一、シュミット博士と筆者が同じ種に刺された例である。


 博士いわく「日がな一日浜辺で過ごした日の夕暮れ。日焼け止めクリームを塗り忘れて鼻がヒリヒリするような痛み」。


 うーむ……。ここまで詩的な表現はなかなか難しい。というか、アリに刺されたというより、夏休みの思い出と化している。


 うっかり刺された。ちょっとヒリヒリ痛い。まだ仕事残ってるんだが……。差し支えるほどでもないけど、いつまで続くんだろう。……仕事に集中してるうちに、いつの間にか痛みは引いてた。

 自分の場合はそんな感じである。博士のコメントに近いかも。


    ◇


 ランク1.5。

 日本では馴染みのない種が多いが、筆者が刺されたキボシアシナガバチと同属の種も入っている。


「加熱した揚げ油が跳ねて、その一滴が腕に当たったような」


 自分の時はその程度で済まなかったのだが、それはうっかり毒液を大量に注入されたから。痛み自体はすぐに気づかなかったぐらいで、ランクにするなら1以下だろう。


    ◇


 ランク2。

 ウェスタン・ハニービーことセイヨウミツバチがランクインしている。


「焼かれるような、むしばまれるような痛みだが、どうにか耐えられる。燃えたマッチ棒が落ちてきて、火傷した腕に、まず苛性ソーダをかけ、次に硫酸をかけたような」


 マッチ棒って、最近では見たこともない人も多いだろう。

 それよりその痛み、ランク2で収まるものなのだろうか。


 それから、セイヨウミツバチは2つあって、「舌を刺された場合」がランク3となっている。

 これはわざとやったわけではなく、炭酸飲料の缶に潜んでいるのに気づかずうっかり舌を刺されたらしい。日本でも野外で缶ジュースを飲む時はハチに注意である。


「たちまち内臓に響くようないやな痛みにさいなまれてすっかり消耗する。刺されてから10分間は死んだ方がましだと思ってしまうほど」


 筆者も仕事で採集中に、網の中にミツバチ(ニホンとセイヨウ、どちらかは不明であるが)を見つけた直後、ハチが飛び出して、唇にぶつかって飛び去っていった、という経験がある。

 口を閉じていたのでキスされただけですんだが、もし口が開いていたら死んでいた。


    ◆


 長くなりそうなので、一旦ここで切る。ランク2.5以降はまた次回。



参考文献

ジャスティン・О・シュミット (著), 今西康子 (訳), 2018. 蜂と蟻に刺されてみた―「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ. 366pp. 白揚社, 東京.

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