ホタル調査(後編)

 さて、ホタル調査の後編であるが、ヘイケボタルとヒメボタルについて述べようと思う。


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 ゲンジボタルが流水域りゅうすいいき――つまり川のような流れのある場所とその周辺に生息するのに対し、ヘイケボタルは止水域しすいいき――水の流れのない場所に住んでいる。具体的には水田、池、そして湿地化した休耕田など。

 幼虫はその水中で、モノアラガイなどの小型の巻貝の肉を食べている。


 成虫の発生期間はゲンジボタルに比べて長く、4~10月にみられるが11月の確認記録もあるらしい。

 ゲンジボタルのように短い期間にまとまって出現するのではなく、やはり成虫の寿命は短いが、少しずつ入れ代わりに発生しているらしい。


 生息環境の違いゆえか、ゲンジボタルほど夜間調査の対象となることは少ない。

 彼らが生息する水田は、そもそも河川に比べて工事の影響は少ない。というか、影響が出るならホタル以前に農家の皆さんが黙っていないだろう。

 それか、道路などの施設を造る際に買収されて丸ごと改変されるか。その場合は改変前の状況を把握するための調査が行われる。

 また、都道府県によっては都市化などのせいで減少していて、レッドデータブックの対象種となっていることもある。

 そのような場合には、夏季調査と合わせて夜間調査が行われることが多い。

 

 ただ、ゲンジボタル対象の初夏季調査時に周辺の水田で確認されたり、場合によってはゲンジボタル調査に行ったはずなのにヘイケばかり確認されたりということも稀にある。

 発生時期はその年の気候によりずれたりするので、なかなか予想は難しいのであるが。


    ◆


 もう一種、ヒメボタルであるが、ゲンジやヘイケに比べて知名度は低い。

 それでも、地域により保護されたり観察会が行われることが結構ある。名古屋城の外堀にいる個体群が一番有名だろうか。

 成虫は4~8月に発生するとされるが、やはり一ヶ所での発生期間は短い。


 ゲンジやヘイケと違い、幼虫は陸上生活を行い、主に山林に生息する。

 幼虫の餌も陸産貝類である。陸産貝類、というと聞きなれない方もおられるかもしれないが、陸上に生息する巻貝、ようするにカタツムリやナメクジの仲間である。


 この、幼虫が陸生というのが曲者くせもので、なかなか新規の生息地が見つけづらい。

 ゲンジとヘイケならば、河川とか水田とか、幼虫の生息域からほとんど離れないのでそれが目印になる。見晴らしも良いので光っていれば見つけやすい。

 ヒメの場合、山地の樹林がそうなので、スギやヒノキの植林を除外してもかなり広範囲を探さないといけなくなる。森の中なので光っていても見えにくいこともある。

 だから、事前の文献調査や地元有識者などからの聞き取り調査で調査範囲内、もしくはその周辺から生息情報が得られたときだけ調査する、ということが多い。


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 ホタル科の一部の種には、メスの翅が退化するものがいる。マドボタルの仲間のメスは前翅・後翅ともに退化して、一見して幼虫に似た姿になっている。

 一方ヒメボタルは、メスの前翅はオス同様に発達していて、外見はオスとほとんど同じ普通のホタルの姿をしている。しかし前翅の下に隠されているはずの後翅は退化しており、飛ぶことはできない。なお、オスは普通に飛べる。

 あと、ゲンジとヘイケはオスメスとも飛べる。


 このメスが飛べないという性質はホタルに限らず、ミノガやフユシャクなどの仲間、園芸植物に付く害虫とされるカイガラムシの仲間、アリバチやアリガタバチなど蜂の一部というように、各種の虫でみられる。

 飛行能力を捨てて子孫を残すことに注力した結果らしいが、環境変化に弱いという弱点も同時に抱えてしまった。


 工事や災害などにより生息地やその周辺が広範囲にわたり変わってしまった場合、ヒメボタルは逃げて新たな環境を見つけるというのが難しいのだ。


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 私事だが、個人的に色々とホタルの情報を集めて、まだ結婚前に後に妻となる人と一緒に見に行ったことがある。


 その後は仕事が忙しくなったり、子供が小さかったり、コロナが流行したりと色々あって個人的にホタルを見に行く機会はなくなってしまった。


 いずれこの病が収まったら、今度は子供たちとゆっくり見に行きたいものである。



参考文献

黒沢良彦・久松定成・佐々治寛之 , 1985. 原色日本甲虫図鑑(III). 500pp. 保育社, 大阪.

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