ホタル調査(中編)
前回の続き、ホタル調査が2日以上続く場合、間の昼間に調査員が何をしているか、という問題である。
それを解説するには、まず前提としてホタルの見られる時期について説明をせねばなるまい。
◇
まずは、ゲンジボタル。
図鑑には『成虫は5~7月に出現する』などと書かれているが、これは長期間・広範囲にわたって収集されたデータを全て一緒にしたものであり、この期間ずっと見られるわけではない。
ゲンジボタルの幼虫は、河川、それも清流と呼ばれるようなきれいな水の中で巻貝のカワニナを食べている。一方、成虫になってからは水を飲む程度で餌を採ることはなく、10日から2週間ほど幼虫時代に蓄えたエネルギーを燃やして光り、飛び、そして子孫を残して寿命を終える。
このため一か所で見られる期間は短く、しかも場所によって異なる。基本的には桜前線などと同じように、南西から北東へと北上してゆくのだが、同じ県内でも標高や水温・気温など様々な条件により発生時期が変化する。
それも、ただいることが確認できればいいのではなく、できればそのうちのピークに調査を行わないと、生息数や生息範囲を過小評価してしまうおそれがある。
だから、調査を行う前に周辺地域における発生記録を調べて、適切な時期に調査を設定する必要がある。
幸いにも、ホタルの場合は地元で保護活動が行われたり、観察会が開かれたりしているので、発生のデータは他の昆虫に比べて収集しやすい。
それゆえに、地元で工事が行われるとなると注目を浴びやすく、発注元である官公庁や地方自治体、工事事務所などもそれを気にしてか、ホタルの調査をしよう、となるのである。
それに、ゲンジボタルの生息環境である清流は工事の影響を受けやすい。
新しい道路が川を越えるなら、橋を掛けないといけない。川の中に橋脚(橋げた)を立てるときはもちろん、橋げたを作らないときも工事中は川に影響が出る。
河川改修で川岸が改変されれば、そこにいる卵や蛹が影響を受ける。
例え工事がその場所でなくとも、上流で工事があれば、土砂が流れてくる可能性がある。
だからゲンジボタルの影響評価は――ホタルに限ったことではないが――慎重に行う必要がある。
◆
このようにして、はじき出されたゲンジボタルの調査適期はだいたい6月。
そう、春季調査はほぼ終わった後で、夏季調査はまだ始まっていない時期である。
前編で書いたように、調査範囲が狭くて一日で終わるならまだいい。
調査場所が近くて毎晩通えるならそれでもいい。終了後毎回家まで帰るのはちょっと大変だけど。
問題は、現場が広く、会社や家から遠い場合。
夜通し調査しても効率は良くないので、日没後数時間の調査を数日間行うことになるが、問題は昼間の調査員の行動である。
今はフリーなので、昼間は自由行動と言われても特に問題はない。
連泊のときは、宿にもよるが
仕事のない昼間の分は当然ノーギャラであるが、逆に何をするのも自由である。
◇
一度福井県の現場でそれをやったとき、前から興味のあった恐竜博物館を見に行ったことがある。
純粋に恐竜ほか古生物には興味があったし、他にも当時から書いていた小説、『レディアース博物誌』に登場する恐竜様生物の描写の参考にもしたかった、というのもあった。
しかし、実際に見てみると、何やら恐竜が小さく見える。
夜間調査前、いったんホテルに戻って、ノートパソコンを開いたときに気が付いた。
その頃息子がはまっていて、アマゾンプライムとかで何度も一緒に見させられたある映画のせいだ。
体長百メートル以上、
◆
話がそれた。
フリーだからそういうのも許されるが、社員はそうはいかない。筆者にだって、調査会社の社員だった時代はある。
ホテルで報告書なんかを書いていたこともあったが、昼間も昆虫調査を実施することもあった。
仕事の提案時に、春季と夏季の調査とは別に初夏季調査と言うのを合わせて提案するのだ。
重要種の中には、6月頃に成虫が出現し、他の季節には見られないものもいる。
そういう種の調査とからめて、昼は一般の昆虫調査、夜はホタル調査となるように、計画を立てるのである。
◆
ゲンジボタルだけで予想外に長くなってしまったので、ここまでで中編として、ヘイケボタル、ヒメボタルの話は後編とさせていただく。
参考文献
黒沢良彦・久松定成・佐々治寛之 , 1985. 原色日本甲虫図鑑(III). 500pp. 保育社, 大阪.
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