晴れ時々くもり

 皆さんは『天気が悪い』と聞いて、どんな天候を思い浮かべるだろうか。


 普通の人だと、傘なしでは外出できない雨や雪の日のことを指すのではないだろうか。

 それも人により差があり、ちょっとの雨もいやという人もいれば、雨が降るのは仕方ない、警報の出るような暴風雨でなければ大丈夫、という人もいるだろう。


 逆に、晴れていると紫外線とか熱中症とかが怖くて外出したくないという人もいるだろう。それを『天気が悪い』というかは疑問ではあるが。


    ◇


 筆者にとって天候の良しあしとはつまり、昆虫採集に適しているか否かということになるのだが、これがまた虫の種類によって条件が異なってくるのでややこしい。


 以前から何度も書いているが、雨でも採集はできる。とはいえやはり確認種数は減るし、採集者のテンションは下がる。


 もちろん悪天候にも限度があり、暴風雨は採集も困難だし、人間にとっても危険である。それに、警報が出れば現場の仕事は中止となる。


 逆に、たとえ空は晴れていても、春先や秋など気温が低くなれば虫は飛ばないし、風が強ければやっぱり飛ぶ虫はいなくなる。


 場合によっては、曇りでも捕れなくなる虫もいたりするのである。


    ◆


 モンシロチョウという蝶がいる。


 それぐらい知っている、といわれるかもしれない。

 畑や河川敷、公園などで見かける白い蝶はたいていモンシロチョウと思われるが、モンキチョウの白色型がたまに混じっているし、森林に近い所に行くとスジグロシロチョウという蝶もいる。また、ヤマトスジグロシロチョウ――少し前の図鑑ではエゾスジグロシロチョウの名で載っている――もいるが、少ないうえにスジグロシロチョウとの区別が難しい。


 詳しく書くと昆虫学の講義になりかねないので簡略化すると、同じアブラナ科を食草とするシロチョウの中でも、モンシロチョウは日当たりのよい開けた環境を好み、スジグロシロチョウなどは林の周辺など日陰を好む。

 そうして同じアブラナ科植物に条件を付けて分け合うことで、条件の良いものを取り合うことなく限りある資源をより有効的に利用できるのだが……結果として、モンシロチョウだけが畑のキャベツやダイコンの葉を加害する害虫となってしまった。


 で、この後は筆者の推測なのだが、このように生息環境を日向ひなたと日陰で見分ける場合、くもってしまうと本来の生息環境がわからなくなってしまうのではないだろうか。

 だから、晴れの時にだけ行動することになる。


 それに関しては、筆者が専門外の英語の論文をほとんど読んでいないからで、ちゃんとそれらについて言及した論文は存在するかもしれない。


 モンシロチョウの話は一例に過ぎないが、実際に晴れ時々曇りの日に調査をしていると、太陽が雲に隠れた途端に飛ぶ虫――全てではなく、曇りでも飛ぶ虫はいる――が姿を消し、雲が移動して光が差したらどこからともなく虫たちが現れる、という例もよく見る。

 曇りの時に動かない虫たちを捕まえればいいのではないか、という意見もあるかもしれないが、木の高いところとかやぶや林の奥に隠れてしまうのか、発見はかなり困難だ。

 このため、晴れるのを待って飛んでいる虫を見つけるほうが楽なのである。


   ◆


 実際には、日照度だけでなく気温、湿度、風通し、時間や季節による変化など、彼らの住む狭い範囲内の条件は非常に複雑だ。彼ら自身だけでなく、餌となる動植物に適した環境も関係してくる。


 もちろん、全ての条件が完全にそろっていないと虫は動かない、というわけではないだろう。

 複数の条件のうちいくつを満たしていれば動けるという例もあるだろうし、悪条件が続けば少し好転しただけでも動かざるを得ない、という場合もあるかもしれない。


 わかりやすい例が梅雨の晴れ間であり、多くの昆虫が活動する採集の好機となる。


    ◆


 とはいっても、毎週あちこちで現場を実施するので、さすがに毎日が調査日和びよりというわけにはいかない。

 ときには一日中曇りの日もあるし、雲がどんどん流れてきて、晴れ時々曇りを繰り返す日もある。


 それでも、雲に覆われた真っ白な空を見上げ、環境調査員は思う。


 少しでも太陽が出てくれれば、もっと虫も飛ぶのに、と。

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