晴れ男、雨男

 これまで昆虫とか生物学関係の話を書いてきて、いきなり非科学的などと思われるかもしれない。

 しかし、長年色々なことを経験してくると、単なる偶然とは考えにくいものに遭遇することも結構多いのである。


    ◆


 多くの人と現場に同行したが、なかには雨男ではないかと思われる人も何人かいる。


 一人はかつて所属していた会社の先輩で、雨男と評判の人であった。

 筆者の所属する自然環境系の部門と違い、その人は道路の騒音振動調査を中心とした部門であり、もともと面識はあったが、現場で一緒になることはほとんどなかった。


 理由は思い出せないのだが、その人が半日ほどだけ現場に来ることになった。多分、発注元の人の対応か何かだったと思う。

 仕事内容は忘れたが、天候の変化だけははっきり覚えている。


 その日は朝から晴れていたと思う。だが、その人が来る時間が近づくにつれ、山の向こうから雲が湧いてきた。

 そして、その人の到着を待っていたかのように雨が降り始める。

 仕事ができなくなるほどの強い雨ではない。ただただしとしとと降り続く。

 その後、役目を終えて帰ってゆくその人を追いかけるかのように雨雲は去り、薄くなった雲の切れ目から光がさし始めた。


 今でも時々、現場で雨に降られた時に思い出すことがある。

 何だったんだろう、あれ。


 さすがに行く先々で常に雨ということもないだろうが、社内で雨男と噂されるからには、それなりの『実績』はあるのだろう。


    ◇


 もう一人は下請け会社だったうちの会社に仕事をくれていた元請け会社の人。

 筆者がフリーランスになった後も声をかけてくださり、時々一緒に現場に行くのだが、かなりの高確率で夕立が降る。


 その人と行く現場は限られていたので、その場所がそういう気候だったという可能性も否定はできない。


    ◆


 他人のことばかり言っているが、自分はどうなんだと聞かれると、ちょっとややこしいのであるが……。

 どうも筆者は、 仕事では晴れ男、プライベートでは雨男という厄介な特性を持っているらしいのである。


 現場は晴れの日が続き、順調に進む。そして、それが終わってようやく休日という時になると決まったように雨なのである。

 ただそれに関しては、筆者個人の話ではなく、市町村とか都道府県単位の話となる。だから雨男晴れ男とかの問題ではなく、一定期間で天気が変動して、たまたま週末が悪天候に当たっただけなのかもしれない。


 今は多忙のため出来なくなってしまったが、昔は釣りを趣味としていた。プライベートで昆虫採集に行くこともある。

 仕事で昆虫を捕っているのに、プライベートでも昆虫採集と思われるかもしれないが……この辺りは長くなるのでまた次回。


 天気予報はそんなに悪くないと判断して釣りに出かけ、海について道具を広げる。もしくは、電車から降りて採集の目的地に向けて歩き出す。

 そうやってある程度逆戻りが困難な所に達したところで、雨が降り始める。

 そうして釣り道具を片付けたり、駅まで走って戻った時には、ずぶ濡れとまではいかなくとも服は結構濡れている。


   ◇


 時には、地方で学会や昆虫関係の同好会の集会に参加することもある。

 なかなか他の地方で採集できる機会などないので、一泊余分に宿を予約しておいて、次の日に採集でもして帰ろうと考えることもある。

 もう予想できたかもしれないが、そんな時も結構な確率で雨が降ったり、強風が吹き荒れたり、気温が急に低下したりする。


    ◇


 山地性の虫を採集しに、千メートル級の山に行くこともある。ただ、体力がないので登山ではなく、車である程度の標語まで行けるところを選んでいる。

 そういうところは、ふもとが晴れていても、山上は悪天候であることが多い。

 上まで車で走って雨だったので、諦めて降りてくると日が差してくる。山の方を見れば、まるでかさをかぶったかのように山の上にだけ雲がかかっているのだ。


 ただしこれはおそらく筆者のせいではなく、地形の関係上、移動して来て山脈にぶつかった雨雲が雨を降らせていくためである。

 雨雲が来なければ雨は降らない、という説もあるが、まあ深く考えないことにしよう。


    ◆


 自営業にかわって、あまり週末の天気は気にしなくなった。

 その気になれば休みを平日に振り替えることができるようになったためと思われる。


 しかし、これを書いている祭日もまた雨。先日も、移動日は強風で現場中だけ天気が回復した。

 昆虫たちも本格的に動き出したというのに。


 やはり、プライベートに関しては天候に恵まれないようである。

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