趣味の昆虫採集(前編)
前回の話で、仕事の昆虫調査とは別に趣味でも昆虫採集をしていると書いた。
仕事と趣味で全く同じ事を、と思われるかもしれないので、その説明を書いておくことにする。
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まず前提として、仕事で採集した昆虫標本については発注元の所有物となる。
ただし、会社員時代は所属していた会社で五年から十年程度保管するということはあった。
フリーランスになった後は、標本は依頼主から請求があった場合、もしくは年度末にまとめて返送することにしている。
また、仕事で知り得た情報について、外部に漏らすことは禁止である。
だから、標本も採集データも、個人的に論文や書籍などで記録することは厳禁である。
また、仕事で珍しい虫が取れたので、次の年にそこにまた採集に行ってみようということも、報告を伴えば上記の条件に抵触することになる。
ただ、仕事で得た昆虫の情報をもとに別の場所で採集を行うのは可能。
例えば、ある虫がある条件のもとでとれたので、似たような環境の場所を探すというのはありである。
それも他の仕事で得た情報ではないか、と思われるかもしれないが、関係を証明するのは困難だし、仕事上で得た情報をまったく利用するなと言うのは、経験を積んでも成長するなと言うようなものだからである。
◆
さて別の話で書いたが、絶滅のおそれのある生物の情報をとりまとめたものとしてレッドリストもしくはレッドデータブックというものがある。
工事などによる環境への影響を評価する場合、種類の多い昆虫や植物では特に、すべての種において評価を行っていたはきりがない。それで、これらの文献に載っている絶滅の可能性が比較的高い種について評価を行う。
このようなレッドリストだが、日本全国を対象としたものの他に、都道府県版、場所によっては市町村版というのがある。
この地方版、対象とする自治体によって条件がまったく変わってくる。
たとえば、例として東京版を見てみよう。これは二十三区、それ以外の本州の市町村(リストでは多磨とされている)、そして島嶼部の伊豆諸島と小笠原諸島の四つに分けられている。
このうち二十三区版を見ると、一般的には普通種とされる種まで多く含まれていたりする。
筆者は関西人で、東京都内での採集経験はないのであるが、地図を見る限りほとんど都市部で、多くの昆虫がいるような環境は限られているように見える。
このように都市や農村、河川などを始めとした開発のほか、海や山の存在、標高、気候などによりそれぞれ条件は異なっている。
だから、これらのレッドリストの選定及び数年毎の改定の際には、自治体の広範囲を対象とした調査が行われるはずであり、自治体が予算を組んで地元の大学や博物館、調査会社などに依頼すべきなのであるが……実際にはそんな予算がなく、文献調査のみに留まることも少なくない。
その調査対象となる文献を書いているのは、大学や博物館の研究者だけではない。アマチュア研究者、言い換えれば趣味で昆虫採集をしている人も多くいる。
筆者もそのうちの一人であり、論文・報文を書いたり、博物館に標本を寄贈したりして日々それらの資料となるデータを集めているのだ。
それで最初の話に戻るが 、仕事のデータは使えないので、趣味の昆虫採集ということになるのであった。
ただ予算の都合により、多くのアマチュアの研究者たちは、レッドデータ改定の際にはほぼ手弁当で情報収集・提供をすることになる。
正直、もうちょっとなんとかならないものかという気もしなくもないが、自治体の財政状況を考えると、なかなか難しいものもある。
趣味で昆虫採集をするのは、単にそれだけの理由というわけではないが、まあその辺りはまた次回。
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