丑 ―ウシ―

 2020年の初めに、年賀の企画としてその年の干支えとであるネズミの話を書いた。

 文中には書いていなかったが、毎年干支に関する生き物の話などを書いていきたいと考えていた。さすがに12年は続かないだろ、とその時は思ったが、筆者多忙のため2年目が始まらないというまさかの結果となった。


 ネタ自体は存在するのと、まだ11回分残っているということで、年賀やその年の干支と関係なく12種分書いてみることにした。


 ただ、子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥の十二支のうち、環境調査の仕事で実物が見られるのは、すでに書いたを含めさるとりいぬの7種。たつに至っては実在すらしない。

 それから、筆者の専門は昆虫類であるが、もちろん干支とは関係ない、


 前置きが長くなったが、十二支をテーマに環境調査でみたもの、起きたことや、十二支の名を関する生き物などについて書いていきたいと思う。

 季節外れであるが、そのうち年賀状のネタにでもなれば幸い……と言いたいところだが、十二支の名がつく虫とか、一般には使えないネタですよね、やっぱり。


    ◆


 日本には野生の牛はごく一部の島にのみ生息しており、もちろん調査中にみられるようなシロモノではない。

 ただ、ごくまれに調査範囲内に牧場があることがあり、放牧中の牛を見たことも何度かある。

 当然、哺乳類調査であっても確認記録には含まない。


 では、昆虫類調査とは関係がないかというとそんなこともなく、近年では牧場周辺でしか見られない虫もいる。

 それが、『糞虫ふんちゅう』と呼ばれる、動物の糞を餌とする虫たちだ。

 汚い、と思われるかもしれないが、人間のようにトイレやし尿処理場を持たない動物の場合、このような掃除屋の役目をするものが必要なのである。


 カブトムシと同じコガネムシ科の昆虫の中に、エンマコガネとかマグソコガネ、ダイコクコガネと呼ばれるグループがある。海外の種では、フンコロガシとも呼ばれるスカラベ(和名ヒジリタマオシコガネ)もこの仲間だ。

 日本産の種のほとんどはスカラベのように糞玉を転がすことはない。

 例外的に、マメダルマコガネと呼ばれる種は、フンコロガシのように糞玉を転がす習性を持つ。ただ、2-3㎜の虫がそれより少し大きい程度の糞玉を転がしているので、ほとんど気付かれることもなさそうである。


 近年では牧場や樹林環境の減少により、多くの種は絶滅が危惧されているが、シカやイノシシ、タヌキなどの糞を利用しており、里山でもよく見られる種もいる。

 その中にはゴホンダイコクコガネという種がいるが、外国産の五本角のカブトムシを小さくしたような姿をしており、なかなかかっこいい。


 とはいえ、食べ物が食べ物なので、採集時には手袋やピンセット、消毒用アルコールなどが必須である。


    ◆


 牛の名を冠する昆虫といわれると、筆者がまず思いつくのはウシカメムシである。

 頭の後ろ、前胸背板という部分が左右に大きく張り出しており、それを牛の角に見立てて牛亀虫の名がある。

 今漢字変換して気付いたけど、『牛亀虫』と漢字変換すると、なんだかよくわからない生き物に見える。

 少し珍しい種のようで、自分もあちこちに調査に行っていても年に1回採れるかどうかという感じである。


    ◆


 カミキリムシの別名として、『天牛』というものがある。

 この字で、『かみきりむし』、『かみきり』と読むこともあるし、『てんぎゅう』と読むこともある。

 どうやら中国語由来のようで、カミキリムシの長いひげを牛の角に見立てたもののようである。


 カミキリムシは甲虫目カミキリムシ科の昆虫(一部がホソカミキリ科とされることもある)の総称で、日本だけで約800種が記録されている。


 街中でもゴマダラカミキリあたりはよく見かけるので、年賀状写真とかに使うのもいいかもしれない。

 といっても筆者が更新できなかったせいで、次は11年後になってしまったが。

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