新種
最近では主にネットニュースなどで、新種の生物が見つかったという記事を見ることも多くなった。
まあ、筆者が執筆の参考にするためスマホでも色々調べているせいで、スマホの持ち主が興味を抱きそうな生物学の話題がサジェスト機能でよく出て来るだけの可能性が高いのだが。
とはいえ、実際には一般に知られていないだけで、学会誌などには新種の記載論文が続々と掲載され、毎年世界で数万種、日本でも千種を超える種が新たに記載されている。
一応、筆者も本業は環境調査員、昆虫類の調査が本業であるが、そこに至るまでは昆虫の研究をしていた頃もあるし、今でもアマチュアの研究者として同好会誌に投稿したり、博物館に標本を収めたりしている。
無論、分類学、そして新種の記載に関する知識もあるのだが……。
これの何が大変かというと、世界中の近縁と思われる分類群の論文を調べて、まだその種が新種として記載されていないことを確認する必要があるのだ。
さらに、昔……およそ十八世紀から二十世紀初頭くらいの記載論文は、まだ分類学的手法が確立されていなかったせいでもあるが、文章の描写が単純すぎ、図も付いていないので、読んでもどの虫のことやらさっぱりわからないことが少なくない。いや逆に、いろいろな虫に当てはまってしまいそうで、結論が出せないこともある。
そういうときに重要なのが、『同定』の回でも書いた
ただそれは、世界に一つしかない重要なものゆえ、博物館や大学などの研究機関に厳重に保管されている。
日本国内ならともかく、日本産ながら模式標本が海外に保管されているものもあり、なかなか気軽に見に行くこともままならない。貸し出しも一応可能だが、専門の研究機関に属しているならともかく、筆者のようなアマチュアの研究者だと貸し出しを断られることも多い。
◆
この『新種』という言葉については、いくつか世間一般で誤解されていることがある。
よく誤解されているのは、新種だからと言って今まで全く誰にも知られていなかった種ではない、ということだ。これは長くなりそうなので、また別の回に書くことにする。
次に、『新種』という言葉と、別の『
生物の種並びにその他分類群には、『学名』という世界共通の名が与えられている。
例えば、『カブトムシ』というのは和名(日本名)であり、海外の研究者に『Kabutomushi』などと言っても通じるものではない。このために『Trypoxylus dichotomus septentrionalis』という学名が使用される。この学名には、ラテン語もしくはラテン語化されたギリシャ語が使用されるが、例外も多い。
今までこの学名が付いていなかった種に新たに学名を与え、学会誌などで報告するのが新種記載であり、そこに記された種が新種である。その、学名のない種が新種と混同されることがあるが、これは正確には
時々、アマゾンの森林を調査したら何十種もの新種が見つかった、という記事がネット上でみられることがある。これは新種記載されてから報告されたのではなく、正確には上記の未記載種のことと思われる。
ただ、未記載種などという一般には聞きなれない言葉を使うと、今回のように長々と説明がいるので、面倒だから新種と書いている、というようなこともあったりするのかもしれない。
それから、図鑑で調べて載っていないからといって、ならば新種の可能性があるかと言うとそうでもない。
日本に数万種いる昆虫類のすべてを網羅した図鑑など存在しないので、図鑑に載っていない種は何らかの理由――マイナーすぎるとか、筆者の専門外とか、ページ数の都合とか――により図鑑からカットされたにすぎない種だったりする。
その場合は専門の論文などを調べる必要がある。最近はネットで論文PDFが簡単にみられるようになり、だいぶ楽になったが、それでも大量の文献を調べるのは大変である。
◆
何を隠そう、筆者は実は昆虫の新種を記載したことがある。
なお、何を記載したかについては伏せさせていただく。筆者の素性がばれる可能性が高いので。
アセスメント調査の仕事で得た標本ではなく、大学時代から休日などを利用して個人的に進めていた研究の結果である。
なお、アセスの標本は発注元の所持品扱いで、調査員が勝手に使えるものではない。やったら色々と訴えられることになりかねない。
とはいえ、仕事多忙に加え、結婚したら個人的な採集調査はあまり出来ない状態となり、記載準備は遅々として進んでいなかった。
結局、それを見かねた某博物館の偉い先生が共著で記載しようと声を掛けて下さり、最終的にこちらで用意していた記載論文は原型を留めないほどに修正されてしまいましたとさ。
めでたしめでた……し?
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