赤トンボが減った (後編)
前回に続いて、赤トンボの中でもアキアカネが減ったというお話。
前編未読の方は、前回分からお読み下さい。
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現場が終わって会社の事務所に戻り、論文や地方同好会誌などを調べてみた。けれども、アキアカネが減ったという情報を見付けることは出来なかった。
つまり、前年までは特に異常はなかったということになる。
やがて、アキアカネのいない奇妙な秋が終わってしばらくの後。
トンボの専門家が作っているウェブサイトに、今年はアキアカネが減っているという記事が載せられた。
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なぜ、アキアカネだけが減ったのか。
実はもう一種、ノシメトンボも減っているようだが、一般には知名度が低いうえに、自分の調査している環境ではアキアカネに比べて確認数が少ないので、恥ずかしながら気付かなかった。
その原因は農薬(正確にはイネの苗箱処理剤)という説がある。アキアカネが減る少し前、新しい農薬が使われるようになり、その影響で水田に棲むアキアカネの幼虫、いわゆるヤゴが死んでしまったようだ。
それでは、なぜ他の赤トンボには影響がなかったか。
一見では区別困難なアキアカネ、ナツアカネなどの複数のトンボたちは少しずつその生息環境を変えて、『棲み分け』をしている。成虫は長距離を移動するし、何種も混じってみられるが、水田や池、河川などに生息する幼虫の方は、種によって少しずつ誓う環境に棲むことにより、限りある自然をうまく分けあっているのだ。
ただ実際には、そこまで細かい生態の違いについては、おそらく研究されていないものと思われる。
もし環境が変化した時、ある種がその生息域を失ったとしても、別の影響の少ない環境に棲む種は生き残る事が出来る。
そして今回はたまたま、その変化にアキアカネとノシメトンボだけが引っ掛かってしまったのだろう。
その後、2012年に改定された兵庫県版のレッドリストでは、それを反映してアキアカネが「要注目」というランクで選定された。
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最近また、アキアカネがよくみられるようになった。
あるいは、温暖化により発生期が後ろにずれたのではないか、という説もある。
いずれにせよ、また見られるようになったのは喜ばしいことである。
決して、地図に重要種であるアキアカネの確認地点を多数プロットするのが面倒、などと言ってはいけない。
いや、実際レッドリストに載っている兵庫県で秋に調査をすると、あちこちでアキアカネがみられて大変であるが。
次の兵庫県版レッドデータブック改正では、また変更が行われるかもしれない。
◆
さて、時は流れて2019年。かつては多数みられたマユタテアカネが、この年は少なかったような気がするのは、はたして筆者の気のせいだろうか。
……と、2019年末に下書きをしていたのだが、色々忙しくて文章を完成させられないうちにまた時は流れ……。
そして2020年秋、マユタテアカネは普通に見られた。
参考
ウェブサイト 『神戸のトンボ』
尾園暁・川島逸郎・二橋亮, 2012. 〈ネイチャーガイド〉日本のトンボ. 文一総合出版.
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