11星ある
突然ですが、また問題。
ナナホシテントウの星がどのように並んでいるか、ご存じだろうか。
世の中にはテントウムシをかたどったグッズがいろいろと発売されており、人から嫌われることが少なくない昆虫の中では比較的人気があるようだ。
ただ、このようなグッズは、ちゃんと資料を見ていないのか星の並びが雑で、左右非対称の物すら時おり見かける。
そして左右対象となっている場合、まず丸い前翅の中央に星が一つ、それを囲むように左右に三つずつ、六角形に星が配置されることが多い、らしい。
デザインとしては美しいかもしれないが、ナナホシテントウの斑紋としては不正解である。
カクヨムは画像の貼り付けができないので、ひとまず●で現してみた。
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だいたいこんな感じであるが、興味のある方は画像検索して頂いた方が早いかと思われる。
また、テントウムシの多くは
さらに、ナミテントウのように同じ種の中で別種に見えるほど多種多様な模様を持つ個体がいる種から、ナナホシテントウのように同じ種であればほぼ同じ模様、と言ってよいものもある。
だからナナホシテントウなんかは、一旦模様を覚えてしまえば一見しただけでナナホシテントウと断言できる。
少なくとも、筆者がフィールドとしている西日本では。
ただ、所変われば虫変わるというわけで、やっぱり油断していると後でちょっと面倒なことになるわけである。
◆
まだ環境調査の下請け会社の社員だったころだから、少なくとも十数年前のこと。
紀伊半島の南東部、和歌山県と三重県の県境に近い、ある川の河川敷で昆虫調査をしていた。
近畿地方の南部は、基本的には地元である近畿地方中・北部や中国地方あたりと見られる昆虫はあまり変わらないが、時々南方系の種が混じったりする。
草むらを網で
現場は大抵、いくつかの範囲に分けられていて、それごとに確認された昆虫類のリストを作成するような形になっている。
ただ、現場があまり広くない場合や、予算の少ない場合はその限りではなく、全部ひとまとめにされることも多い。
で、後で確認が必要になったりすることもあるので、基本的にはその範囲ごとに一種に付き少なくとも一個体ずつ標本を残すことになっている。
ただ、遠くを飛んでいて捕れないチョウや、鳴き声だけで種が確定できるセミ、コオロギ、キリギリスなどの仲間は、目撃記録としてメモを残すだけでもいい。
さらに、これは個人的なやり方であるが、無益な殺生を避けるために、明らかに外見で種まで断定できるものは名前だけメモに残して逃がすこともある。
無論、どれが見ただけで断定できるか、どれが逃してもよいかは、覚えておかないといけない。
瓦の草むらを
ナナホシテントウが一匹。
これは別の地点にもたくさんいたし、逃してもいいや。
そう考えて、捕虫網を裏返して逃がそうとした瞬間――。
その時、何かが心に引っ掛かった。
これ、本当にナナホシテントウか?
もう一度、その虫をよく見てみる。
1、2、3、45678……。
あれ? 星の数多くない?
9、10……11星ある。
これナナホシテントウやない。アイヌテントウや!
◆
道産子っぽい名前の虫だが、本州東部にも分布している。
西日本では非常に少なく、京都府からは記録があるが大阪府からは1例しか報告がなく、兵庫県からはおそらく記録がない。
そのように近畿地方北部では珍しいが、なぜか南部の紀伊半島には分布している。これに限らず、紀伊半島には南方系の種に加えて北方系の種までもが少なからずいる、奇妙な昆虫相がみられる。
つい最近(2021年5月)、某国営放送のカマキリ先生に少しだけだが出ていたのを覚えておられるだろうか。
ナナホシテントウに似て、11の星を持つテントウムシである。
さらに、これらの種に似て9個の星を持つココノホシテントウという種もいる。こちらはさらに分布が東に偏っており、自分は採集したことがない。
交通費その他の関係上、現場の仕事は地元から大きく離れることは少ない。
それでも、地元のものばかりではなく離れたところに生息する種についても勉強しておかないといけない。
というわけで、自分の頭の中には、いつ使うかわからない……いや、おそらく一生会うことのないであろう虫の知識なんかも、結構たくさん入っていたりするのである。
参考文献
宮ノ下明大, 2016. 七つ星テントウムシの描き方. Urban Pest Management, 6(1): 33-35.
初宿成彦, 2005. 大阪のテントウムシ(改訂版). 大阪市立自然史博物館ミニガイドNo.16.
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